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八百万  作者: マー・TY
第六章
74/115

74.“かんかんだら”の話

「……頼むぜ。カイ、倉田さん」


 ガレンは少し難しそうな顔をして、スマホをポケットに仕舞った。


「………ねぇ、パパ」


 通話が終わったのを確認してから、アオはガレンに話しかけた。

 次元の狭間で切れた手と通話中のガレンの発言から、アオには気になることがあった。


「“かんかんだら”って、何?」


「……そうだな。一応説明しとくか」


 “かんかんだら”なんていう言葉は、普通に生活していればまず聞くことはない。

 それをガレンは、アオに話すことにした。


「“かんかんだら”ってのは山奥に封印されてる化け物でな、上半身は6本腕の女性だが、下半身は蛇の姿をしている」


「6本腕って……じゃあ後5本!?……私達と同じく2本だと思っていたのに……」


「隻腕とはいかなかったな」


 アオは切れて落ちた手を振り返った。

 付け根からの青黒い血のような液体は止まっていた。

 

「それで、封印が害された時は容赦なく暴れるらしくてな、特に下半身を見た者は決して助からないといわれてる」


「決して…助からない……。そうだ、あっちで“かんかんだら”の封印が解かれちゃったの!?」


「そうだな……。そもそも“かんかんだら”は、元は人間だったらしい」


「……どういうこと?」


 ここからガレンはアオに昔話を始めた。

 それは神話や伝承に近かった。


「かつてある村で人を喰らう大蛇が出てな、村人を襲って暴れていた。困り果てた村人は、神の子として様々な力を代々受け継いでいたとある巫女の家に大蛇討伐の依頼をした。その家は、特に力が強かった一人の巫女に向かわせた」


「うん……」


「村人達が陰から見守る中、巫女は大蛇相手に一生懸命戦った。だがその末に、巫女はわずかな隙を突かれて下半身を喰われちまったんだ」


「………!」


「それでも巫女は諦めず、大蛇に立ち向かった。だがな、他の奴らはもう無理だと悟っちまったんだろうな」


「えっ………」


「巫女はその家族と村人達に捕まり、抵抗できねぇように両腕まで切り落とされちまった。そして達磨状態になった巫女を、村人達は生贄として大蛇に差し出した。村の安全の保障を約束にな。巫女の力を疎ましく思ってた大蛇はそれを承諾し、巫女を喰らった。こうして村は一時の平穏を得たってわけだ」


「そんな…。巫女は村のために戦ったのに……」


 アオはすっかり巫女に感情移入してしまっていた。

 ガレンは力ない笑みをアオに向ける。


「大蛇じゃいなけりゃこんなことにならなかって、俺だって思うぜ。だけど世の中にはな、犠牲が無けりゃぁどうにもならねぇことはたくさんあんだよ」


「犠牲……。確かに、そうかもしれないけど……」


「……実はな、この話には続きがあるんだ」


「えっ!?……そっか、一時の平穏って……」


「そういうことだ」


 ガレンは話の続きを語って聞かせた。


「後になって巫女の生贄は、巫女の家の者が思案した計画だということが解ったんだ」


「それじゃあ、元々巫女を殺すつもりで……」


「その方が確実だったんだろうよ。だがな、どうやらそれが死んだ巫女を怒らせたらしい」


「えっ………」


「ある日を境に大蛇が姿を消した。そして襲うものがいなくなったにも関わらず、人が次々死んでったんだ。村だけじゃなくて、山とか森でも死体が見つかってな、どれも腕が片方無くなった状態だったらしい。死者の中には、巫女の家族全員も含まれていた。結局4人を残して村は滅んじまったんだと」


「…………」


「残った4人は手当たり次第に呪術を掻き集め、そして“かんかんだら”を封じ込める儀式を編み出したといわれてる。それから封印に関与する者がこれらの事情と対処できる拝み屋への連絡先を受け継いでくといわれてる。以上だ」


 話し終えたガレンは、小さく溜息を吐いた。

 アオの頬に冷や汗が伝う。

 少し放心状態になっていた。


「どうした?アオ」


「う、ううん。何でもないよ。……その、村人や家族への怒りで怨霊になった巫女が、大蛇を乗っ取ったのが“かんかんだら”っていうこと?」


「そうなるかもな。そんな姿の奴が村人を殺したっていう話はないから何とも言えねぇが……。それにしても流石は隠神市だな。“かんかんだら”でさえ実在させちまうとはな。しかも別世界に」


「…………カイ達、大丈夫かな……」


 アオは暗い顔をして、門の形に置かれた次元の狭間解放機を見つめた。

 アオ自身、カイ達が無事に帰ってくると信じたい。

 しかし今ガレンから聞いた話によって、不安な気持ちが込み上げてきた。




「……ようやく着いたな」


 古ぼけた赤い鳥居の神社。

 熊田達一行は、ついに目的の神社に到着した。

 コユを含めた5人は鳥居の端を通り、砂利道の先にある社に向かっていく。


「箱はあの社の中ですな」


「そうだ」


 住職と熊田、そして2人の巫女は、覚悟を決めたような目をして社を見ていた。

 すると、どこからともなく強い横風が吹き始めた。

 砂埃が舞い上がり、熊田達は本能的に目を覆って待機した。

 強風は揺れほど長く吹くことはなく、1分も経つことなく止んだ。

 それを確認した熊田達は、恐る恐る前方を見た。

 

「!!」


 人があまり来ることなく整備されていない社の横側には、草が生い茂っている。

 そんな社の右側に、一人の女性が蹲っていた。

 ボロボロの巫女のような服を着ており、袖から出ている腕は3対で計6本。

 そのうち右の3本のうち前の1本は手が無くなっており、青黒い体液が零れている。


「ダラだ………」


 熊田達は6本腕の女性“かんかんだら”を睨んで身構えた。

 “かんかんだら”は顔をゆっくり上げた。

 その目は全てを憎んでいるようにも見えた。


「さぁダラ、生贄だ!」


 熊田は袋からコユを出した。

 砂利の上に転がされたコユは、“かんかんだら”を見て目を見開いた。


(何!?何なのこの人!…腕が、6本!?)


 それが人間でないことを感づいたコユは、その場から逃れようと身動ぎをした。

 “かんかんだら”は少し息が上がっている状態だったが、それでもゆっくりと動き出した。

 草むらの中から、見えていなかった下半身が姿を現した。


(うっ、……嘘…………)


 筋が入った白い腹に、暗い緑色の鱗で覆われた背中の太く長い体。

 上半身の巫女の姿だけでは想像できないことに、下半身は蛇そのものだった。

 人間の腹部分には、白目を剥いた蛇の顔が確認でき、蛇が下半身から食らいついているように見える。

 しかし“かんかんだら”は、蛇の下半身を自分の体のように動かしている。

 そうして社の前に立ち塞がった。

 蛇の下半身はかなりの長さらしく、社に2重に巻き付いた。


「くっ、これでは社の中に入ることができない……」


「しかしどういうわけだ?ダラは負傷しているようだが……」


 ダラは縛られている状態のコユを見据えた。

 口元に鋭い歯が覗く。

 上半身を近づけ、5本の手をコユに向けた。


(ちょっと待って!やめて!!)


 殺される。

 コユは本能的にそう悟った。

 しかし、コユの体は急に持ち上がり、“かんかんだら”から遠ざかった。


「間に合ったぜ!!」


 聞き覚えがある声を耳にし、コユは顔を上げた。

 コユを抱きかかえていたのはカイだった。


(カイ!!)


「再会できたなコユ!倉田さん、コユを頼んだ!」


「うん、わかった!」


 カイは自身の荷物まで持って追いついた倉田にコユを預け、“かんかんだら”と向き合った。

 “かんかんだら”の目には怒りが宿ったいた。

 熊田達は突然現れたカイと倉田の姿に困惑していた。


「君達どうやって……!?公民館内で拘束し、見張りも付けていた筈だが……!」


「自力で出てきた!」


「!?」


「そんなことよりコイツがダラって奴だろ?コイツ何とかできればアンタらも助かる!そういうことだろ!?俺達が協力してやるよ!」


 カイはニッと笑って“かんかんだら”相手に構えた。

かんかんだら


上半身は腕が6本ある女性で、下半身は蛇の姿をしている怪異。山奥の封印された区間で放し飼いの状態にされている。漢字だと「姦姦蛇螺」と書き、他にも「姦姦唾螺」「生離蛇螺」「生離唾螺」等の別名もあり、単に「ダラ」と呼ばれることもある。

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