72.手の話
「パパ、大丈夫?」
「おぅ。にしてもまさか登ることになるなんてなぁ。参った」
薄暗い雑木林の中で次元の歪みを捜索しているうちに、アオとガレンは山道に入っていた。
ストップウォッチ状の機械を持ったアオに、重そうな荷物を持ったガレンが続く。
「……こっち?」
「そうみてぇだな」
アオに機械を見せられたガレンは頷く。
機械に示された数値がだんだん大きくなっていた。
2人は数値が増える方向を見極めながら、どんどん進んでいった。
「!!」
突然アオが立ち止まった。
手に持つ機械の数値が、ガレンから教わった上限に達しっていた。
「ここみたい」
「そっか。そんじゃあ早速取り掛かるか」
ガレンはそう言って機材を下ろした。
アオは辺りを見渡す。
現在地から左手方向に、木製の崩れた建物が見え、そこまでは土や落ち葉で覆われていた。
アオは足下の土と落ち葉を手で払い除けてみた。
そこから石畳が顔を出した。
元は灰色だったのだろうが、茶色に変色しており、苔も少し生えていた。
「ここって……」
「うっし、準備できだぞ!」
アオはガレンの方を注目した。
そこにはアオが見たことがない2台の機械が、5メートル程の間隔を開けて置かれていた。
2台の機械は共に同じ形をしていた。
下部は三脚で支えられ、上部には横に飛び出した長い針のようなものが付いており、互いにそれを向け合っている。
アオにはそれらが門のようにも見えた。
「その機械は、何?」
「え~っと、正式名称はD……何とかつったな。まぁ、『次元の狭間解放機』って言ってもいいだろ」
「次元の狭間解放機?」
「お前に貸した探知機とセットで使うことが多いんだよな。次元の歪みを見つけた時に、それを無理矢理こじ開けるのがこの機械の役目だ」
「……つまり、それで次元の狭間を作っちゃうってこと?」
「まぁそういうことだ。しかも自然のものよりは長く続く優れものだ。限りはあるけどな」
そう言いながらガレンは、機械を起動させた。
2つの機械の間に青白い光が走り、空間が歪みだした。
「す、すごい……」
「よし、後はカイ達があっち側からこれを見つければ──!?」
ガレンは歪みを見て目を見開いた。
突然歪みにひびが入った。
空間の一部が欠け、霧のようになって消える。
そして空いた箇所からは、青白く、黒く長い爪が生えた手が出てきた。
「なっ、何これ!?」
「ッ!!」
ガレンは機械を操作した。
歪みがだんだん縮まっていき、空間のひびも消えていく。
飛び出してきた手は暴れるように開け閉めを繰り返した。
そして歪みが完全に閉じた時、手は千切れて地面に落ちた。
アオは真っ青な顔をして、手で口を押さえていた。
「手……手が…………」
「アオ、あんまり見ねぇ方がいい。……にしてもヤバかったな。こんな芸当人にはできねぇよ」
ガレンは落ちた手をしゃがんで凝視した。
手の切れた箇所からは、青黒い液体が流れ出ていた。
「──────ってぇ………」
カイは畳部屋で目を覚ました。
手足を縄で縛られている状態で、身動きが取れない。
隣には倉田が同じ状態で倒れていた。
「目が覚めたねカイ君」
「倉田さん!ここどこだ!?コユは!?」
「ここは公民館内の客室だね。監獄とか流石に無いだろうし、倉庫も狭いもんな。あの時うっすら熊田さんの話を聞いたんだけど、それによるとコユちゃんはもうここにはいないかも」
「くそっ!やっぱここにいたのか!!」
カイは八つ当たりでもするように、両足を畳に打ちつけた。
縄を解こうと手を動かす。
そんな様子を、倉田は前髪の隙間から覗く目から見ていた。
「抜けるのは難しいよ。硬く縛られてる。それに障子の陰で解るように、外には見張りがいる。これじゃあ………」
「いや、諦めねぇ!」
カイは両手に力を入れた。
縄から力尽くで手を抜こうと試みる。
「カイ君……それじゃあ君の手が………」
「千切れても行くぞ!俺は!」
「えっ………」
「ここでコユを殺させねぇ!あいつ連れて家に帰るんだ!それにこのままアオ達とお別れとか御免だ!!」
「カイ君……」
カイは必死になって手を引き抜こうとする。
しかしそれでもまだ抜かない。
いくら気合いがあっても、どうにもならないことがある。
「くそぉ!!取れねぇ!!!」
「カイ君……そうだね………」
倉田は微笑して頷くと、カイの後ろに回った。
気合いは時に、人を動かすことがあるようだ。
倉田はカイの手を縛る縄に齧り付いた。
「倉田さん!………よしっ!」
2人は縄を解くのに集中した。
倉田が歯を使い、必死になって縄を解きに掛かる。
すると、だんだんカイの両手から縄が外れてきた。
「うおおおおおおおおお!!」
カイは一気に手を引いた。
そしてついに、カイの両手の縄が外れた。
手はどちらも赤く擦り剥けていた。、
「おっしゃぁ!!」
「よし、次は足……」
2人が足の縄を外しに掛かろうとしたところで障子が開き、2人の巫女が入ってきた。
巫女はどちらも杖術用の棒を持っている。
一人の巫女が、カイに棒で突きを繰り出した。
「ッ!!」
突きのスピードは相当速い。
しかし、カイにはその動きが見えていた。
自由になった両手で棒を掴む。
「オラァ!!」
カイは巫女から棒を強引に奪い取った。
そして全体重を前方に向け、横スイングで巫女の首を打った。
残った一人が棒を振り下ろしてきたが、カイはそれを素早く同じ棒で打ち返した。
巫女の手から棒が弾き飛ぶ。
その巫女が怯んだところを見逃さず、カイは鳩尾を突いた。
カイは足を縛られた状態で、武器を持つ巫女2人を沈めてしまった。
「なんて運動神経だ………」
「早く足の縄解かねぇと!!絶対まだ巫女いるだろ!!」
カイは両足に巻かれた縄を解き出す。
両手が自由になったことで、先程よりも手間は掛からなかった。
アオとガレンの探索パート、考えるのにちょっと苦労しました。やっぱ原作の方に書いてない話書くの大変だなぁ。




