71.狭間の話
再び場面は切り替わり、“S区”内。
カイと倉田は、急ぎ足で階段を登っていた。
「もうすぐ目的地だ!コユちゃんはきっとこの先にいる!」
「あぁ!」
2人はあっという間に階段を登り終える。
そこは神社だった。
赤い鳥居から続く、石畳の道。
その先には、立派な社が建っている。
「神社?」
「こっちだ」
倉田は鳥居をくぐり、社ではなく、その横にある建物に向かった。
カイも後に続いた。
その建物の入り口の上に、『公民館』と書かれた木製のプレートが貼られていた。
“S区”の公民館は、神社の中にあるらしい。
「すみません」
倉田は戸を叩いた。
するとしばらくしてから戸が開き、中から大柄の男性が出てきた。
「む?倉田君か」
「熊田さん、ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
熊田は、倉田の後ろに立つカイを凝視した。
「見ない顔だな」
「はい。今日は彼のことで。彼はこの町の外から来ました。その時は一緒に女の子がいたそうなんですが、行方不明になったようで。心当たりはありませんか?」
前髪で隠れた倉田の目が熊田を射貫く。
熊田の表情は変わらない。
「さぁ?知らないなぁ」
熊田は目を逸らして応えた。
しかし倉田は引き下がらない。
「いや。俺はこの神社の巫女が、少女を運んでるのを目撃した。アンタも一緒にいたよな?知らないなんて言わせないぞ」
「!!…おっさんがコユを攫った犯人か!!」
カイが倉田と熊田の間に割って入った。
「コユをどこにやったんだよ!!」
「………隠し通せそうにないな」
そう言って熊田は溜息を吐いた。
かと思うと、突然目を見開き、自信の拳をカイの顔面に叩きつけた。
「ぐあっ!!」
カイは倉田の背後まで転がった。
なんとか踏み留まると、カイは鼻を抑えて身を起こした。
血が石畳の道に零れる。
「熊田さん!何を!?」
「仕方ないことなんだよ倉田君。全てはこの町のためなんだ。ダラを、鎮めなければならない!!」
熊田は倉田の顔面に拳を振り下ろした。
倉田は地面に崩れ落ちた。
「倉田さん!!……がっ!?」
カイの後頭部に衝撃が走った。
カイの後ろには、丈術用の棒を持った巫女が立っていた。
2人はいつの間にか、複数の巫女達に囲まれていた。
カイは顔から道に倒れた。
「手足を縛って部屋に閉じ込めておけ」
熊田がそう指示をすると、巫女達は動き出した。
それぞれが縄を持ち、カイと倉田を縛りに掛かる。
「おや、これは……」
公民館の中から眼鏡を掛けた、坊主頭の男性が出てきた。
彼はこの神社の住職だ。
公民館の外での光景に、茫然としている。
「住職、彼らは我々を邪魔する者達だ。安心しろ。大人しくさせた」
「し、しかしこのようなことを……」
「この町を救うためだ。この町の住民を救うためなら、私は鬼にも悪魔にもなろう。……おい、そこの2人」
熊田は2人の巫女を呼んだ。
そしてその2人が自身の元に来ると、住職にも聞こえるようにこう告げた。
「出発するぞ。ダラを鎮めるためにな」
雑木林の前では、ガレンに自身が識ったことを話したアオが、スマホに耳を当てていた。
“プルルルルルル”と、何度も繰り返し鳴る。
そしてそれが終わると、今日何度目かの女性のアナウンスが聞こえてきた。
『現在、通話に出られません』と。
「ダメだ。カイもコユちゃんも出ない」
アオは俯き、スマホをバックに仕舞った。
ガレンは機械を動かしながら、横目でアオを見ていた。
「繋がらないか?」
「うん」
「マズいかもな。早くしねぇと」
ガレンは再び機械に目を移した。
「パパは、何してるの?」
「次元の歪みを探してるんだ」
「次元の……歪み………?」
「あぁ。そしてこれが、次元の歪みを感知する機械だ」
ガレンはストップウォッチのような機械をアオに見せた。
そして話を続ける。
「この世にはな、平行世界ってのがあるんだ。俺達がいるのとは少し違うような世界がいくつか存在する。本来別世界同士繋がることはねぇんだが、次元の狭間が開いちまったことで、カイとコユはそこから別世界に迷いこんだわけだ。“裏S区”がある世界に」
「“裏S区”?」
「お前の話から解ったよ。“裏S区”ってのは霊の通り道になってる町のことだ。ネットで掲載された怪異がここ隠神市で実体化するパターンは何度かあったが、まさか別世界に存在するとはな」
「……町全体が怪異ってこと?」
「あぁ。この世界のS区はとっくの昔に無くなってんだ。2人が迷った世界にはまだ実在してるわけだ……おっ?」
ガレンは手に持った機械に注目した。
「見つけたぞ。この林の中だ」
「えっ……」
ガレンは雑木林を指差した。
アオ達がいる場所は明るいが、雑木林内は暗い。
ガレンは車に戻ると、すぐそこに置いてあった大きめの機材を背負った。
「俺一人で行く。アオは先に帰ってろ」
「えっ?大丈夫なの?」
「俺は何度もこういうの経験してんだ。心配すんなよ。すぐに2人共連れて帰ってくるからよ」
そう言ってガレンは、アオの頭を優しく撫でた。
そして雑木林に歩き出す。
「パパ………」
アオは普段、両親の言うことは素直に聞くタイプだ。
しかし、今のアオは素直にガレンの言うことを聞けなかった。
「待って!」
アオはガレンの横に追いついた。
「どうした?アオ」
「私も連れて行って!何の役にも立たないかもしれないけど、それでもサポートさせて!」
ガレンは一瞬ポカンとしていたが、その後笑い出した。
「ははは!」
「ど、どうしたの?」
「いやぁ、お前、本当に大きくなったなぁ。そうかそうか。それじゃあアオ、次元の歪み探知機使ってみるか?」
「ど、どうやるの?」
「歩きながら説明する。お前ならすぐ覚えるかもな」
朗らかに笑うガレンと、少し戸惑うアオ。
2人は一緒に雑木林に入っていった。
カイとコユってある意味異世界転移してますよね。




