69.通り道の話
気付くとカイは、家庭科室の前に立っていた。
何人かの生徒が室内から出てきて逃げていく。
カイは慌てて中に入った。
家庭科室内には、顔を真っ青にしている生徒や泣いている生徒、そして何故かうっとりしている生徒がいた。
そんな中で人集りができている場所があり、カイはそこに急いだ。
生徒達を掻き分けると、床にアオが倒れているのを見つけた。
アオの体は痙攣しており、開いた虚ろな目からは涙が溢れていた。
「アオ!!」
カイはアオを抱き起こし、何度も名前を呼んだ。
アオからの返答はない。
意識がないのだ。
「おい!…誰か!……救急車!!」
カイが周りに助けを求めたその時、アオに異変が起きた。
アオの体がカイの手から離れ、宙に浮かびはじめた。
「なっ!?」
カイが驚いている間も変化は続く。
アオの顔や体が膨張していき、だんだん黒くなっていく。
そして天井に背中が当たったところで、アオはカイを見下げた。
「ア……アオ…………?」
アオの口が開き、マンホールくらいの大きさに拡がる。
そしてアオはカイ目掛けて、口から一気に降下していった。
その口の中には、尖った歯がびっしりと並んでいた。
「うわぁあああああああああ!!!!!」
カイは叫びながら目を覚まし、飛び起きた。
汗が凄く、息も荒い。
そして頭にも痛みが走った。
そんなカイの目に一番に入ってきたのは、ブランケットと布団だった。
「なんだ………あれ夢か………。何であんな夢見んだよ」
カイは顔に手を当てた。
今自分がいる世界が現実であることを、改めて確認する。
そうしているとドアが開く音がした。
カイはその方向に、反射的に顔を向けた。
「おっ、目が覚めたようだね」
入ってきたのは、一人の青年だった。
柔らかな口調をしており、両目が前髪で隠れていた。
「アンタ誰だ?」
「誰って……俺ここの住人なんだけどね……。俺は倉田宗治。君は?」
「俺はカイ。日之道快だ」
カイは自己紹介を済ませると、室内を見渡した。
「えっと、俺は何でここにいるんだ?」
「あぁ、俺が連れてきたんだよ」
「倉田さんが?」
「そう。君、相当暴れていたからね。だから隙を突いて殴って気絶させたんだ」
「暴れてた?……あっ!」
ここでカイの頭の中に、ここに来る前の記憶がなだれ込んできた。
「そうだ俺、なんか、すげぇ殺意が湧いてきて……」
「うん。君はこの町の人達に襲い掛かってたよ。マズい感じだったから、俺は君を背後から殴って気絶させたんだ。それからここに運んだ」
「そっか。だから頭痛かったのか」
「君には霊が憑いてたよ」
「はっ!?霊!?」
カイは仰天していた。
倉田は真面目そうに続ける。
「何か変なことはなかったかな?霊が憑くのに繋がるような。例えば、何度も死ぬことを繰り返しているところに遭遇したとか」
「あっ、そういえば!」
カイ達がマンション近くの道にいた時、上から男性が落ちてきて、アスファルトに激突した。
頭が割れ、そこから大量の血が流れ出ていた。
その様子を見て、カイはその男性が死んだと思っていた。
しかし男性は起き上がり、傷は無くなっていた。
かと思うと、カイの方に襲い掛かってきた。
カイは慌てて受け身の姿勢を取ったが、その時男性の姿は消えていた。
カイはその不思議な体験を倉田に話した。
「なるほど。おそらくその男性は、飛び降り自殺で死んだ霊なんだろう。多分、何度もそれを繰り返してる」
「えっ!?解るのか!?」
「あぁ。ここ“S区”は、霊の通り道になっている。そう云われるくらい怪奇現象が起こりやすい。それで、その自殺者の霊は、カイ君が防御した時に憑依したんだろうね」
「そっか。その時か」
「うん。でも、もうその霊はいないよ。俺が追い出した。取り憑かれた人を、笑いながら叩き続けるのがいいんだ」
「そう、なのか………」
カイは両手を開け閉じした。
それからハッとして顔を上げた。
「そうだ!コユ!」
「え?」
「なぁ倉田さん!コユがどこにいるか知らねぇか!?」
「え?誰?」
「俺と一緒にこの町に迷いこんだ奴なんだ!ツインテールにしてる女子!」
「この町に迷いこんだって………ということは、カイ君は、“S区”の住人じゃないの?」
「あぁ!俺とコユ、この町から出られなくなっちまったんだ!どこ行っても塀ばっかで!」
「なるほど、そういう…………」
倉田は腕を組んで、考える素振りを見せた。
そしてどこか深刻そうにする。
「“S区”外から来た女の子。それがコユって子なら、マズいかもしれない」
「はっ!?どういうことだよ!?」
倉田はカイに顔を向けた。
前髪からうっすら見えた瞳は、真剣なものだった。
「神社の人から聞いた。“S区”外から来た少女を、生贄に捧げるって」
現実にもありそうですよね。霊の通り道って。




