68.巫女の話
カイとコユが“S区”に迷いこむ、14時間程前のこと。
S区の山の中を、3人の男子高生が歩いていた。
一人は金髪で懐中電灯を持っており、一人は長髪、そしてもう一人は、両耳にピアスを付けている。
3人共服を着崩しており、素行はその格好通り悪い。
「こーして夜に来てみると、不気味なもんだなぁ」
「何?お前ビビってんの?」
「はぁ?ビビってねぇし!」
長髪とピアスがはしゃいでいるのを尻目に、金髪はヘラヘラ笑っていた。
「おいおい大したことねぇなぁ。ここのどこが怖ぇんだよ親父ぃw」
3人がこの山に来たのは、肝試しのためだ。
酒、タバコ、喧嘩。
挙げ句の果てに自身の母親にも暴行を加えた金髪。
それを見かねた父は、金髪に山に行くように言ったのだった。
「お前、自分には怖ぇモンはねぇと思ってるだろ。なら山に行ってみろ」と。
金髪はその言葉に乗り、長髪とピアスも誘って山に肝試しに来たのだった。
「にしてもさっきから木ばっかだなぁ。何も変わりなくてつまんねー」
「それなw」
「親父の奴、まさかこんなのにビビってんのかぁ?なっさけねぇ!」
3人はゲラゲラ笑いながら進んでいく。
鳴いている虫達は、3人が通ると鳴くのを一旦止めた。
「そろそろ何かあっても良くね?」
「そーだな!………おっ?」
金髪が懐中電灯を照らしたその先に、赤い古ぼけた柱があった。
近づいて全体を照らすと、それが鳥居だと解る。
「鳥居ぃ?ここ神社か?」
「行ってみようぜ!同じ景色ばっかで飽きてきたところだ!」
「だなっ!」
3人は何の躊躇もなく、鳥居をくぐり抜ける。
砂利道を進むと、その先には社があった。
鳥居と同様に古いもののようで、柱には苔が生えている。
「ボロッちいなぁ」
「こんなボロいのあったのかよw」
「おい、扉付いてるぞ!開けてみねぇ?」
「開ける?俺だったら、こうだ!」
金髪は社に近づき、その扉を蹴破った。
扉は2つに壊れ、社の中に倒れた。
「う~わ!罰当たりだなお前w」
「ヒャハハ!神が何だってんだ!お前らも来いよ!」
金髪に誘われて、長髪とピアスも中に入った。
真っ暗闇を、懐中電灯で照らす。
社の中はカビ臭く、隅に蜘蛛の巣が張ってある。
しかし、それよりもこの社内で存在感を出していたのは、真ん中にポツンと置かれた箱だった。
大きさは靴屋にある箱くらいで、蓋がされている。
箱自体は木でできていた。
「なんだこりゃ?」
「宝でも入ってんのか?」
「開けてみようぜ!」
金髪が代表して、箱を開けることにした。
被った埃を払い、蓋を上げて退かす。
「は?なんだこれ?」
中に入っていたのは、∧∧>の形に置かれた6本の棒だった。
本当にそれだけしか入っていない。
3人にとっては、とても理解し難いものである。
「棒?こんなもん隠すために神社建てたのか?」
「ブホッ!なんだそれ!必死過ぎね?」
「ギャハハ!残念でした!俺らが見つけちゃいました~!オラッ!!」
金髪が嗤いながら、箱を蹴飛ばした。
箱は壁にぶち当たってから転がる。
その際棒が飛び散り、床に散乱した。
「うっわwお前ヤバっw」
「蹴りやすかったんだよw………あ?」
金髪は、床が揺れているのを感じた。
いや、床ではなく、社が建っている地面が揺れている。
その揺れは、箱と棒が蹴飛ばされたのを合図に始まっていた。
「おっ、おい、何だよこれ!」
揺れは最初は弱かったものの、だんだん強くなっていった。
今ではバランスを取るのも難しいくらいだ。
「や、ヤバくね!?」
「おい、ここ出るぞ!潰されちまう!」
「あっ、あぁ!」
社が崩れるのを危惧した3人は、外に逃げた。
地面に立ってもまだ揺れている。
「地震か!?これ!」
「ヤベぇよ!マジでヤベぇ!」
「何ビビってんだよ!行くぞお前ら!」
すっかり怯えきった長髪とピアスを、金髪は奮い立たせた。
3人は揺れに翻弄されながらも、走って鳥居を抜けた。
少し過ぎてから金髪は、唯ならぬ気配を感じた。
走りながら後ろを振り返る。
鳥居の下に、誰かが立っている。
一旦止まり、そこに懐中電灯を当ててみた。
そこにいたのは、血だらけの巫女だった。
話は現在に戻る。
コユは小さな公園の水道で、水分補給をしていた。
気温が高い上に全力疾走をしたため、すっかり汗だくになっていた。
「はぁ……はぁ………。カイ、どうしたのよ……」
コユはカイを心配していた。
突然苦しそうに唸り出したかと思うと、コユに自分から逃げるように伝えてきた。
カイの忠告に従い、コユはできるだけ遠くに逃げてきたのだった。
「後で再会しようみたいに言ったけど、どうしよう。カイ、アンタ今どうなってんのよ?」
額に手を当てて呟いていると、スマホの着信音が鳴った。
コユは慌ててスマホを取り出し、通話をタップした。
「もしもし?」
『もしもし?コユちゃん?』
「アオ!」
電話はアオからだった。
『よかった。カイに掛けたんだけど繋がらなくて………』
「……カイは今、出れる状況じゃない」
『えっ?どういうこと!?』
「あたしにも解らない。あいつ、急に苦しそうにしたかと思ったら、あたしのこと殺してしまうとか言ってきて……。逃げろって言うから言うとおりにした。ヤバそうだったし」
『じゃあ、カイとは今、一緒にいないの?』
「そう。ごめん。完全にはぐれちゃったかも。カイが今何してるのかも解らない」
『ううん。カイはきっと、コユちゃんのことを思って逃げるように言ったんだよ。それに、カイは一人でも大丈夫だよ』
「うん。カイ、優しいよね。……そうだアオ、アンタは今どこいるの?」
コユはアオのことも気になっていた。
“S区”の外がどうなっているのかも知りたい。
『………“S区”に着いてる』
「ホント!?」
『でも……』
「?」
『私が正しければ、“S区”は今、雑木林になってるの』
「…え……えぇっ!?」
予想外の応えだった。
コユはまた困惑する。
「なんで!?“S区”は普通の町よ!?あたし今、公園にいるんだけど!?」
『でも、私のスマホのマップは、雑木林を“S区”って……』
「間違いない?」
『私が調べた限りだと、隠神市の“S区”はここしか……この雑木林しかない………』
アオの声からも、困惑した様子が伝わってくる。
「何なのよもう…………」
コユは頭を抑えて地面に座り込んだ。
すぐ横に落下し、死んだはずなのにいなくなった男性。
突然豹変したカイ。
アオが言う“S区”とは雑木林。
コユは整理が付かなくなっていた。
「いたぞ」
「………?」
男の声が聞こえ、コユは顔を上げた。
公園の入り口に、坊主頭で着物姿の厳つい男性と、複数人の巫女が立っていた。
『コユちゃん?』
アオはコユの名前を呼ぶ。
しかしこれ以上、この通話でコユからの返事はなかった。
古ぼけて無人の神社。神聖なのか不気味なのか。




