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八百万  作者: マー・TY
第六章
67/115

67.殺意の話

「ここも塀かよ!」


「はぁ。……ここもダメね」


 カイとコユは、自分達の身の丈よりも大きな塀を見上げ、溜息を吐いた。

 これで8度目。

 どうにかして脱出したい2人は、マップの黒い部分に繋がる場所に、片っ端から向かった。

 しかし、どこも彼処も塀なのだ。


「この調子じゃどこも塀なんじゃねぇか?」


「そうね………」


 コユは深刻そうに考えた。

 アオが“S区”に到着するまで、ただボーッとしておくのはもったいない気がしての行動だったが、何の手掛かりも掴めなかった。


「とりあえず、戻りましょ。このままだと元の場所から離れ過ぎちゃう」


「そーだな。寧ろ迷子になりそうだ」


 カイとコユは、来た道を戻り始めた。

 歩きながらコユは、“S区”の町並みを眺めた。

 ここでは普通に人が生活している。

 コンビニや駄菓子屋のような店もある。

 カイやコユ達が暮らしている隠神市の街と、何も変わらなかった。


「こうして見てみると、普通の町って感じよね」


「そーだな。ただ、あの落ちてきたおっさんが気になるな」


「その人だけが何かおかしくて、“S区”自体は普通なんじゃない?ここ、隠神市の一部でしょ?そもそも隠神市自体がそういう、心霊とか多いところらしいし」


「でも、ここが普通だったら俺達とっくに家に帰ってるぜ?やっぱここがおかしいんだろ。塀もマップの真っ黒も」


「う~ん………そうね」


 コユは難しそうに唸る。

 カイとこうして歩きながら話していると、いつの間にか掲示板のある元の道に戻っていた。


「やっぱりここで待っとく?アオから連絡来るまで」


「そうするか。腹減ったなぁ」


「………これ食べる?」


 コユはポケットからチョコレート菓子を取り出し、カイに差し出した。

 ビスケットのような食感の生地にチョコレートがコーティングされた、人気の菓子だ。


「えっ!?いいのかよ!?お前チョコレートないとヤバいことになるんだろ!?」


「なんだ、知ってたの?」


「あぁ、アオから聞いた!」


「あはは。やっぱアオってしっかりしてるわ。大丈夫だって。そこそこ量はあるし。症状出るギリギリで食べれば問題ないわ。これ、食料でもあるし」


「……いや、腹減ったっていうのは嘘だ!だからいらねぇ!」


 カイはそう言って、コユに背を向けた。

 コユのことを思っての嘘だった。

 このカイの優しさに、コユの表情が緩んだ。


「……解ったわ。大事にするわね」


 コユはチョコレート菓子をポケットに仕舞った。

 まだ食べなくても平気だと、本能で解っている。


「それで、今日帰れなかったらどうする?どこかに泊めてもらえればいいんだけど……」


「そーだなぁ……。この辺旅館とかあるかな────」


 カイがコユの方を向き直した、その瞬間だった。


「ッ!?」


 カイは、とてつもない衝動に駆られた。


「何だ………これ……!!」

 

 苦しそうに、頭を抑えてその場に蹲る。

 息も荒い。


「ちょっとカイ!どうしたの!?大丈夫!?」


「近づくな!!」


「えっ!?」


 駆け寄ろうとするコユを、声だけで止める。

 カイはコユを見る。

 たったそれだけで、激しい殺意を感じた。

 今にでも、コユを殺してしまいそうなのだ。

 カイはそれを、必死に抑えようとしている。

 しかし、ずっと我慢なんてできそうになかった。

 殺意はどんどん溢れてくる。


「ハァ……ハァ……コユ!」


「なっ、何!?」


「このままだと俺、……お前を…殺しちまいそうだ!」


「えっ!?」


 コユは驚愕した表情で、一歩後退った。

 突然友人から「殺してしまいそう」と言われ、正気を疑いたくなった。

 とはいえ、カイの「近づくな!!」という言葉から、本心でないことはすぐに理解できた。

 

「いいぞ!……そのままどっかに逃げろ!…………俺の目に入らないどっかに!!」


「でも……アンタはどうすんのよ!?」


「何とかする!!……だから…………行け!!」


 カイは一歩、また一歩と、コユに近づいていく。

 獣のような真っ赤な目で、歯をガタガタを鳴らしている。

 とても辛そうな状態だった。

 コユは、そんなカイの意思を汲むことにした。

 自分の意志とは関係なく友人を殺してしまうことは、コユにも耐えられない。


「ッ!……解った。……カイ、また後でね!!」


 コユはカイに背を向け、走り出した。

 カイはコユができるだけ遠くに逃げるまで、必死になって堪えた。

 自身の足ならすぐにコユに追いついてしまう。

 その自覚はあった。


「がっ………あァあア………あああああああああああああああああああああ!!」


 カイの口から、咆哮が解き放たれる。

 殺意が抑えきれなくなったのだ。

 カイの意識は、闇の中に沈んでいった。




 道の隅に自転車を留め、アオはスマホを見た。

 マップ機能が示す“S区”に、アオは到着していた。


「……場所はここで合ってるはず。………そのはずなのに……」


 アオはスマホから目を離し、前方を見上げた。


「これは、どういうこと?」


 アオの目の前に、木が立ち並んでいる。

 “S区”を示しているその場所は、雑木林だった。

今日がカイとアオの誕生日。なのに今回の状況である。

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