66.漕ぎ出す話
“プルルルルル───────”
「…………んっ」
スマホの着信音で、アオは目を覚ました。
昼食後、ベッドに寝っ転がって小説を読み耽っていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
布団から起き上がり、スマホを取って通話に出る。
「もしもし……」
『アオ!俺だ!』
「カイ……?」
アオは目を擦る。
休日、カイがこうして電話をしてくるのは、帰りが遅くなる時に限る。
「今日は何時に帰ってくるの?」
『いや、そういうのじゃなくてな』
「違うの?」
『あぁ。……なんつーか、……その、帰れなくなっちまって』
「帰れなくなった?」
アオは耳にスマホを当てたまま、首を傾げた。
カイの言うことは大体理解できる自信があったが、今回は何故か解らなかった。
「どういうこと?知らないところに来ちゃった?」
『う~ん………。いろいろあってな。何話すかなぁ……。ん?』
アオはスマホから、カイ以外の誰かが喋っているのが聞こえた。
その声は、どこか馴染み深い。
「?……カイ、誰かと一緒なの?」
『あぁ。コユが替われって言ってんだ。だから替わるぜ?』
「コユちゃんが?……うん、いいよ」
ここで電話相手が、カイからコユに替わった。
コユの声は暗い様子だった。
『もしもし?アオ?』
「うん。コユちゃん、カイが帰れないって言ってるけど……」
『そうなのよ……』
「何があったの?」
『うん。ちょっと長いけど、聞いて』
コユは、帰れなくなるまでの経緯をアオに語り出した。
『……何かが落ちるような音が聞こえてさ、カイと一緒に音源探しにいったんだけど、何もなくて。そしたら急にあたしの後ろに男の人が落下してきて……。それから男の人が消えて、気味が悪くなったから帰ろうってなって、元来た場所歩いてったんだけど、道が塞がってる状態なのよ』
「道を間違えたんじゃないの?」
落下してきた男性の件は不気味に感じたが、それと帰宅するのとは別の話だ。
アオは単純なことだと思っていた。
しかし、事はそうでもないらしい。
『掲示板を目印として覚えてたんだけど、そこから塀で塞がってるのよ。間違えたわけじゃないのに……』
「………その塀の向こう側には何があるか解る?」
『解んないわ。そもそも高過ぎて乗り越えるのも無理』
「それじゃあ、別の道から帰れない?」
『それがさ、私達今塀の前にいるんだけど、そこからスマホのマップを見たら先が真っ黒で……』
「真っ黒?」
『そう。あたし達がいる区域の先が真っ黒で表示されるの。まるで無人島にでもいるような感じ』
アオはコユの言いたいことを、なんとなく理解できた。
コユ達がいる区域を無人島、黒い部分を海だとすると、2人は無人島に取り残された状態にあるという。
アオは、2人が今どこにいるのかが気になった。
「コユちゃん、今、どこにいるの?」
『どこって?』
「コユちゃん達が今いる地域の名前、解る?」
『そうね……。マップと掲示板からして、“S区”っていうところね』
「“S区”……ね。ちょっと待ってね」
アオはスマホのマップで“S区”と検索した。
すると、すぐに赤い矢印が“S区”に刺さった。
そこはアオがいる自宅から、自転車で約30分程の場所だった。
「行ける」
そうポツリと呟き、アオは通話に戻った。
「S区の場所が解ったよ」
『うそぉ!?……ねぇ、アオのマップだとどう映ってるの?』
「普通に映ってるよ。黒い部分もない」
『そうなの!?』
「うん。とりあえず、今から“S区”に向かうね」
『えっ!?ちょっと、大丈夫なの!?』
「うん。現場に行けば何か解るかもしれないから。それに、コユちゃんとカイに会えるかも」
『そ、そっか』
「それじゃあ、また電話するね」
『解った。気をつけてね』
「うん!」
アオは通話を切った。
そして必要最低限の荷物をバッグに入れ、部屋着から外出用の服装に着替えると、家から出た。
庭に留めてある自転車を道に出すと、そこから漕ぎ出した。
(絶対普通じゃない。このまま2人に会えなくなったらどうしよう。………いや、会う!カイとコユちゃんと会えなくなるのは嫌だ!)
アオは自転車のペダルに力を込めた。
ちなみに、カイとアオの誕生日は明日です。




