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八百万  作者: マー・TY
第六章
66/115

66.漕ぎ出す話

“プルルルルル───────”


「…………んっ」


 スマホの着信音で、アオは目を覚ました。

 昼食後、ベッドに寝っ転がって小説を読み耽っていたら、いつの間にか寝てしまっていた。

 布団から起き上がり、スマホを取って通話に出る。


「もしもし……」


『アオ!俺だ!』


「カイ……?」


 アオは目を擦る。

 休日、カイがこうして電話をしてくるのは、帰りが遅くなる時に限る。


「今日は何時に帰ってくるの?」


『いや、そういうのじゃなくてな』


「違うの?」


『あぁ。……なんつーか、……その、帰れなくなっちまって』


「帰れなくなった?」


 アオは耳にスマホを当てたまま、首を傾げた。

 カイの言うことは大体理解できる自信があったが、今回は何故か解らなかった。


「どういうこと?知らないところに来ちゃった?」


『う~ん………。いろいろあってな。何話すかなぁ……。ん?』


 アオはスマホから、カイ以外の誰かが喋っているのが聞こえた。

 その声は、どこか馴染み深い。


「?……カイ、誰かと一緒なの?」


『あぁ。コユが替われって言ってんだ。だから替わるぜ?』


「コユちゃんが?……うん、いいよ」


 ここで電話相手が、カイからコユに替わった。

 コユの声は暗い様子だった。


『もしもし?アオ?』


「うん。コユちゃん、カイが帰れないって言ってるけど……」


『そうなのよ……』


「何があったの?」


『うん。ちょっと長いけど、聞いて』


 コユは、帰れなくなるまでの経緯をアオに語り出した。


『……何かが落ちるような音が聞こえてさ、カイと一緒に音源探しにいったんだけど、何もなくて。そしたら急にあたしの後ろに男の人が落下してきて……。それから男の人が消えて、気味が悪くなったから帰ろうってなって、元来た場所歩いてったんだけど、道が塞がってる状態なのよ』


「道を間違えたんじゃないの?」


 落下してきた男性の件は不気味に感じたが、それと帰宅するのとは別の話だ。

 アオは単純なことだと思っていた。

 しかし、事はそうでもないらしい。


『掲示板を目印として覚えてたんだけど、そこから塀で塞がってるのよ。間違えたわけじゃないのに……』


「………その塀の向こう側には何があるか解る?」


『解んないわ。そもそも高過ぎて乗り越えるのも無理』


「それじゃあ、別の道から帰れない?」


『それがさ、私達今塀の前にいるんだけど、そこからスマホのマップを見たら先が真っ黒で……』


「真っ黒?」


『そう。あたし達がいる区域の先が真っ黒で表示されるの。まるで無人島にでもいるような感じ』


 アオはコユの言いたいことを、なんとなく理解できた。

 コユ達がいる区域を無人島、黒い部分を海だとすると、2人は無人島に取り残された状態にあるという。

 アオは、2人が今どこにいるのかが気になった。


「コユちゃん、今、どこにいるの?」


『どこって?』


「コユちゃん達が今いる地域の名前、解る?」


『そうね……。マップと掲示板からして、“S区”っていうところね』


「“S区”……ね。ちょっと待ってね」


 アオはスマホのマップで“S区”と検索した。

 すると、すぐに赤い矢印が“S区”に刺さった。

 そこはアオがいる自宅から、自転車で約30分程の場所だった。


「行ける」


 そうポツリと呟き、アオは通話に戻った。


「S区の場所が解ったよ」


『うそぉ!?……ねぇ、アオのマップだとどう映ってるの?』


「普通に映ってるよ。黒い部分もない」


『そうなの!?』


「うん。とりあえず、今から“S区”に向かうね」


『えっ!?ちょっと、大丈夫なの!?』


「うん。現場に行けば何か解るかもしれないから。それに、コユちゃんとカイに会えるかも」


『そ、そっか』


「それじゃあ、また電話するね」


『解った。気をつけてね』


「うん!」


 アオは通話を切った。

 そして必要最低限の荷物をバッグに入れ、部屋着から外出用の服装に着替えると、家から出た。

 庭に留めてある自転車を道に出すと、そこから漕ぎ出した。


(絶対普通じゃない。このまま2人に会えなくなったらどうしよう。………いや、会う!カイとコユちゃんと会えなくなるのは嫌だ!)


 アオは自転車のペダルに力を込めた。

ちなみに、カイとアオの誕生日は明日です。

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