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八百万  作者: マー・TY
第五章
61/115

61.八尺の話

「お前、怪談集めてるんだって?」


 学校の靴箱で、シロがアオにそう訊いた。

 アオは目を丸くする。


「う、うん。……知ってるの?」


「ニコとコユから聞いてな。……にしても、何でまた怪談なんて集めてんだ?図書委員の活動でそんなのあったか?」


「係の仕事じゃないけど、……ちょっと、頼まれて……」


「誰に?」


「し、知り合い……に」


 流石に幽霊に頼まれただなんて言えなかった。


「怪談っぽいやつなら俺も知ってるぞ。歩きながら聞くか?」


「えっ!?いいの?」


「俺ので良ければな」


「うん。聞きたい」


 靴を履き替えた2人は、校庭に出た。

 そのタイミングで、シロは語りだす。

 アオはシロの怪談を、どこか楽しみにしていた。




 俺が中3の頃だ。

 当時は教師なんかが勉強勉強うるさくてな。

 それから逃れるように、俺は列車で知らない町に来た。

 そうやって知らない町を歩くのが好きなんだよな。

 

「…………ん?」


 微かだが、どっかから変な音が聞こえた。

 気のせいかと思った。

 だが、今度ははっきり聞こえた。


「ぽぽぽ……」


 って、男みてぇな声でな。

 声の主は見当たらねぇんだ。

 とりあえず気にせず、俺は歩いた。

 そうしてると、港に着いた。

 漁船がたくさん並んでな、海風も気持ち良かったよ。

 だけどそれを壊すみてェに、


「ぽぽぽ…ぽ……」


 その声が風に乗ってきた。

 周囲を見渡すと、遠くに女がいた。

 白い帽子とワンピースを身につけている。

 顔はよく見えなかった。

 それになんか違和感があったんだよな。

 だがその女が俺の方にだんだん近づいてきてから、その違和感の正体が解った。

 デカいんだよ。

 その女、軽く2メートル超してるんじゃねぇかってくらいにな。

 そんで、よく見たら口元が動いてたんだ。


「ぽぽ……ぽぽぽ………」


 あの男みてぇな声だった。

 「ぽぽぽ」って声は、そのデカ女から出てたんだよ。

 俺は港から離れることにした。

 小走りで港から走り去る。

 大部離れたところで、俺は振り返った。

 あの女の姿が見えた。

 度々「ぽぽぽ」って聞こえてきて、まさかとは思ったが、やっぱ追ってきてたみてぇだ。

 なんか気持ち悪くなって、俺は本気で走った。

 目的地も定めねぇまま。




「ここまで来ればいいだろ……」


 俺は肩で息をしていた。

 後ろを振り返っても、あの女はいない。


「……にして、何なんだよあのデカ女は」


 なんであの女が俺を追ってくるのか解らなかった。

 何か恨みでも買ったのかと思ったな。

 すると、


「ぽぽぽ……ぽぽ……」


 俺は顔を上げた。

 右前にある家の塀から白い帽子が見え、左へスライドしていく。

 そして、あの女が現れた。

 俺は思わず尻餅を付いちまった。

 その時に、女の顔をハッキリ確認できた。

 目と口がくり抜かれたみてぇに、顔に黒い穴が三つ空いていた。


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」


 女の口みてぇなところが動く。

 俺は起き上がり、全力で駆けだした。

 こんな化け物に勝てるとは思えなかった。




 どれくらい走ったか……。

 俺はもうヘトヘトだった。

 あの女の姿は見えなかった。

 ただ、次追われたらおそらく振り切るのは困難だろう。

 それくらい俺は疲れ果ててたな。

 その時だ。


「おや。どうかされましたか?」 


 突然話しかけられた俺は、反射的に身構えた。

 俺が構える方にいたのは、黒い着物を着たハゲ頭の男だった。

 なんか助けてくれるような気がして、俺は男に事情を話した。


「助けてくれ!デカい女の化け物に追われてるんだ!」


 そう言うと、男は険しい顔をした。


「なるほど、ではこちらへ」


 男に案内されるまま、俺は歩いた。

 辿り着いたのは神社。

 男はこの神社の住職だった。

 住職は俺を客室みてぇな場所に連れてきて、麦茶を出した。

 飲むと一気に生き返ったようだった。

 落ち着いた俺は、住職に女について訊いた。


「アンタ、あの化け物女について何か知ってんのか?」


 住職は応えた。


「それは、八尺様と呼ばれるものです」


「八尺様……?」


 住職は続ける。


「八尺様はこの地域に現れる怪異です。毎年この時期になると、現れるのですよ」


「そいつは何で俺を追ってくるんだ?」


「八尺様はお気に召した男性を見つけると、付き纏って数日のうちに取り殺してしまうのです。特に、成人前の男性が狙われやすい」


 住職によると、どうやら俺は八尺様に好かれちまったらしい。


「俺はどうすりゃ……」


「この町から出ることです。この町の入り口には結界となる積み石があり、八尺様はその外に出られません。こちらへ」


 俺はまた住職に付いていく。

 そこには車があった。


「お乗り下さい」


 住職の言うとおり、俺は車に乗り込む。

 それにしても、住職と車。

 なんか合わない気がした。

 住職は車を発進させた。

 裏の坂道を下って町に出る。

 これから町の入り口を目指すんだ。

 だが、走っている最中、


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」


 かなり近くで声が聞こえてきた。 

 八尺様の声だ。


「!……窓の外を見ない方がいい!」


 住職にそう言われた俺は、外が見えねぇように頭を下げた。


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」


 だが、これが好奇心ってやつなのか、俺は窓の外が気になった。

 俺はこっそり目線を上げた。


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」


 八尺様が車窓に両手を貼り付け、車内を覗いていた。

 叫びそうになるのを、俺は堪えた。

 やっぱ化け物だ。

 現に車の速さに付いてきている。


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ──」


 その声は、車が町から出るまで続いた。




「それから俺は、住職に家まで送ってもらった。これで終わりだ」


 シロは語り終えた。


「怖かった」


「怪談ってそういうもんだろ?」


「うん……。そうだね」


 アオは少し不安になっていた。

 八尺様は、存在自体が封印されていない。

 シロが話した町に閉じ込めるという形で、進行を抑えている。

 しかし、もし話の中で出た積み石が壊されれば…………。


「怖いよ……」


 アオは小さく呟いた。

 そんなアオに、シロは問う。


「そういえば、お前自身は持ってんのか?怪談」


「えっ……」


 アオは一瞬戸惑った。

 怖い話なら、アオは知っている。

 それを話せば、シオンは喜ぶかもしれない。

 しかし、それを人に話す気にはなれなかった。

 なら新しく作ろう。

 アオはそう考えた。


「私の……怪談…………」


「おい、着いたぞ」


 シロに言われて、アオは足を止めた。

 気づけば、自身の家の前に立っていた。


「ご、ごめんね。送ってくれてありがとう。またね」


「あぁ。また明日な」


 お互い別れ際の挨拶をする。

 そしてアオは家に入り、シロは自宅を目指して来た道を戻った。

今回登場した怪異


八尺様

ある村に封印されていた、正体不明の女の姿をした怪異。気に入った男性に付き纏い、数日のうちに取り殺してしまう。男性のような声で、「ぽぽぽ」という言葉を発する。

推定身長242.4cm

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