6.変質な話
「オーっす!みんなぁ!」
朝のホームルームが始まる5分前。
1年1組の教室にカイが駆け込んできて、クラスメイトに挨拶をした。
「カイ君おはよう」
「オッス、カイ」
「遅刻ギリギリだね」
「アハハ。もう遅刻なんてしねぇよ!」
声をかけてくるクラスメイトたちに応えながら、カイは自分の席に着いた。
明るく、スポーツ万能で、顔も整っているカイは、入学式の自己紹介以来クラスの人気者だ。
カイの席は2列目の1番後ろ。
左右の席には、カイが初めに声をかけて友人になった2人の生徒が座っている。
「オッス!ショウ、トウ!」
「オッス!今日はちゃんと来れたな!」
「時間通り来るのは当たり前だからな?」
背が低く、お調子者のショウ。
冷静沈着で、このクラスの学級委員を務めるトウ。
カイはよく、この2人と連んでいた。
「いやぁ参ったなぁ。遅刻しそうだったから朝から疲れたぜ。アオにも置いてかれるしなぁ」
「なぁカイ、お前の妹いつ紹介してくれるんだよ!?」
「まぁ、そのうちな!」
遅刻すると何かと面倒なので、できればいつも間に合うようにしたい。
そう思ったカイは、トウに質問をしてみた。
「なぁトウ、お前登校するの早いよな?なんか秘訣でもあんの?」
「秘訣か……そうだなぁ。俺、あんまり会いたくない奴がいてな」
トウは困った顔をした。
「そいつ、俺の幼馴染みでな、精神年齢が幼児から成長してないっつーか……。そいつ、俺を見るたび抱きついてくるんだぞ?そんなところ見られたくねぇんだよ」
「あー。そりゃ大変だな」
「ちくしょー!何でお前らばっかり!自慢か!?それ自慢かトウ!?あーー!!羨ましいーーーーー!!」
ショウが2人を妬んでいるとチャイムが鳴り、担任が入室してきた。
このクラスの担任の村山は、20代後半の若い教師だ。
眼鏡を掛けた優しい印象の国語科の教師で、生徒からの人気が高い。
「はいはい皆さん静かに。ホームルームの時間ですよ」
このクラスは素直な生徒が多いのか、全員村山の言うことを聞き、着席した。
村山は軽く出席を取っている。
「今日も全員出席と……。おや?日之道君今日は時間通り来ましたね」
「おぅ!俺もう遅刻しねぇからな!もし遅刻したら罰ゲーム受けるぜ!ショウが!」
「いやなんでだよ!?」
そのやり取りで、教室中が笑いに包まれた。
「フフフ。頑張ってくださいね。それでは連絡事項がひとつだけ」
村山は不気味に微笑み、連絡事項を話し始めた。
トウの顔が強張る。
「最近変質者が多発しています。昨日もうちの生徒が見知らぬ男性に握手を求められたのだとか。生徒の皆さんは注意するように、とのことです」
「握手?」
「知ってる!握手おじさんでしょ!」
「俺見たことある!太ったおっさんだったぞ!」
「キモっ」
教室中がざわついた。
そんな生徒たちの様子を見ながら、村山は続けた。
「皆さんは気持ち悪いと思いますか。私は寧ろ彼らに共感できるのですけどね」
「えー!?何で!?」
カイが素っ頓狂に返した。
「私が思うに、彼らは彼ら自身の個性、自分らしさを出して生きているように見えるのです。握手を求める以外にも、裸コートの人だったり、そのまま全裸だったり。そんな彼らが自由に見えて羨ましいのです」
教室中が、今度は静まり返った。
村山の話は続く。
「握手を求めることの何がいけないのでしょう。裸コートの何が。全裸で歩くことの何がいけないのでしょう。我々は元は自由な野生動物でした。なのに、敢えてその道を外れ、窮屈な環境で生きています。私もその窮屈の中にいます。そんな窮屈な社会から外れて自由に生きる彼らが、本当に羨ましい!!!」
「なるほど」と思う者。
「いや、それはない」と思う者。
静かなようで、クラスメイトたちの考えは二つに分かれていた。
「それでは皆さん、机に顔を伏せてください」
生徒たちは何事かと思いながらも、顔を伏せ始めた。
「恥ずかしいと思いますが、敢えて訊きます。彼ら、皆さんで言う変質者に共感が持てるという人は、手を挙げてください」
何故村山がこんなことをするのかが理解できない。
カイは腕で顔を覆いつつ、ゆっくりと目線を上げた。
カイの目が見開く。
この教室でただ一人、村山が不気味な笑顔を浮かべて手を挙げていた。
「日之道君、ちょっとお話を」
時間は飛んで放課後。
村山はカイを呼び出した。
「ここではアレですし、こちらへ」
カイは村山に連れられ、誰もいない共用教室にやってきた。
「どうしたんだ?先生」
「カイ君、高校生活にはもう慣れましたか?」
「あぁ!けっこう楽しいぞ!」
「そうですか。それは何よりです。そうだ、顔はちゃんと伏せましょうね。今朝のようなのは、見られたくない人もいるようですから」
「げっ!バレてた……」
「フフフ。そういえば日之道君、君には妹さんがいるんですね」
「アオのこと知ってるのか?」
「えぇ。2組で授業をするもので」
「あいつ、クラスで上手くやれてる?」
「はい。お友達がいるようですよ」
「そっかぁ。よかったー」
カイは安堵の表情を見せた。
「あいつ、俺たちを安心させるために嘘吐くことあるんだよ。だからあいつが友達作れたって言った時は正直半分疑ったなぁ。あいつ人見知りだから今まで友達らしい奴できなかったんだよ。だけど……そっかぁ。できたかぁ」
「うれしいですか?」
「そりゃもう!あいつの笑顔好きなんだよ俺!これからはよく見られそうだ!」
「そうですね。それでは日之道さんが2人もいてはややこしいので、カイ君、アオさんと呼ぶことにしましょうか」
「全然いいぜ!話ってこれだけか?」
「はい。もういいですよ」
「そっか。それじゃぁな!先生!」
カイは共用教室から飛び出して行った。
村山が一人残される。
「やれやれ。元気ですねぇ。それにしても、今朝は一人も挙げませんでしたね」
村山はポケットから手帳を出した。
その中に、写真が挟まっている。
「本当に、彼らの何がいけないのでしょうね」
村山はそう言うと厭らしく笑い、写真をベロリと舐めた。
その写真には、アオが写っていた。
キャラ紹介
ショウ
本名 岡本 翔太
性別 男
学年 高校1年生
誕生日 4月10日
趣味 ネットサーフィン
好きな食べ物 炒飯
嫌いな食べ物 納豆
カイの友人の一人で、お調子者。
背が低いことをコンプレックスとしている。
ひたすらモテたいと思っている。
目立ちたがり屋で、ネットでいろいろ活動している。
トウ
本名 阿久津 任真
性別 男
学年 高校1年生
誕生日 9月18日
趣味 特になし
好きな食べ物 寿司
嫌いな食べ物 茄子
カイの友人で、しっかり者。
冷静沈着で、学級委員長を務める。
基本ツッコミ役で、カイやショウによく振り回されている苦労人。
同学年に幼馴染みがいる。




