59.近づいてくる話
「よぉアオ!聞いたぞ。怪談集めてるって?」
アオが図書室で座って本を読んでいると、ショウが話しかけてきた。
「……どうして知ってるの?」
「カイもトウも、お前から怪談あるか聞かれたって言ってたぞ!」
「あぁ……」
「で、怪談と言えば俺だろ!」
「……そうなの?」
ショウは人気動画サイトに自分のチャンネルを持っており、そこで都市伝説系のものを取り扱っている。
そこそこ知名度があるが、アオはそのことを知らない。
「俺、動画アップしてるんだぜ!観てくれよ!あ、チャンネル登録もよろしくな!」
「解った、観てみるよ」
「おぅ!それで、俺が持ってる怪談聞きたいか?」
アオは人に頼み事をするのが苦手だ。
そんなアオにとって、ショウはありがたい存在だった。
「うん、聞きたい」
「そうか、それじゃあ心して聞け!」
ショウが語り出したのは、とある女子高生の体験談たった。
これはマイって娘の話だ。
夜の11時半、マイは公衆電話の中にいた。
まず電話に10円を入れる。
そして、自分のスマホの電話番号を打った。
そしてスマホに繋がると、マイは受話器に向かって呪文を唱えた。
「さとるくん、さとるくん、おいでください。さとるくん、さとるくん、いらっしゃったらお返事ください」
今のを唱えると、マイは公衆電話の受話器を置いて、自分のスマホの電源も切った。
そして電話ボックスを出て家に帰った。
「おはよう、マイ」
翌日学校に来て、マイは友人のミコトに話しかけられた。
「おはようミコト!」
「ねぇマイ、あれやったの?」
「うん!やったよ!さとるくん!」
マイが前の日にやったのは、さとるくんを呼ぶ儀式だ。
さとるくんは一種の都市伝説だ。
見た目は小学生くらいの少年。
電話にあの呪文を唱えると、24時間以内にスマホにさとるくんから返事が来る。
それで、連絡しながらだんだん近づいてきて、最終的に背後にいるんだ。
そこで、どんな質問にも答えてくれるってやつだ。
過去のことも、未来のこともな。
「いい?質問するのは、さとるくんが後ろに来たとき。そして、振り返っちゃダメだよ。それさえ守れば、いくらでも質問していいから」
「解ってるって!」
マイは脳天気に返した。
マイがさとるくんの儀式をした理由は、ケイっていう気になっているクラスメイトについて訊くためだ。
頭は良くないが、サッカー部でエースとして活躍してるイケメンなんだとよ。
マイはケイのことが好きなんだ。
ミコトと一緒の時にケイと話す機会があるらしいが、なかなか思いを伝えられずにいるんだってよ。
だから、さとるくんに自分のことが好きかどうか聞くんだと。
「ちゃんと答えてくれるかなぁ?」
マイはスマホの画面を見ながらそう言った。
午後6時。
それまで、さとるくんから電話が掛かってくることはなかった。
家に帰り着いたマイは、椅子に座ってスマホを見る。
「……やっぱり、さとるくんなんていないのかなぁ?」
マイがそう呟いたときだ。
スマホに電話が掛かってきた。
「もしかして!」
マイは『通話』を押した。
「も、もしもし!」
『もしもし。僕、さとる。今、君が通っている学校にいるよ』
「えっ?」
通話相手はそれだけ言った後、通話を切った。
「今、確かにさとるって………」
マイはこの時、とても動揺していたんだ。
すると、また電話が掛かってきた。
マイは反射的に電話に出た。
「もしもし?」
『もしもし。僕、さとる。今、スーパー青空にいるよ』
そしてまた通話が切れた。
スーパー青空ってのは、マイがよく利用してるスーパーマーケットのことだ。
そこからマイの家まで、距離は500mくらいだ。
そしてまた電話が来る。
マイはそれに出た。
「もし…もし……?」
『もしもし。僕、さとる。今、中村公園にいるよ』
そしてまた通話が切れる。
中村公園は、マイがさとるくんの儀式をした公衆電話がある場所だ。
マイの家から100mくらいの位置にある。
「もうそんなところまで……?」
マイ自身、こうなることは解ってたらしいが、いざこうなってみると、だんだん怖くなってきたらしいぜ。
震えてると、また電話が掛かってきた。
これで4度目だ。
出たくないと思いながら、マイの手は操られてるみたいにスマホに伸びたんだ。
「………」
『もしもし。僕、さとる。今、君の家の前にいるよ』
それで通話が切れた。
マイは慌てて部屋のカーテンを開けて家の入り口を見た。
小学生くらいの子供の影が、スッと家に入っていったのが見えた。
さとるくんは実在したんだよ。
そして、また電話が掛かってきた。
マイは恐る恐る電話に出る。
「………もし…もし」
「もしもし。僕、さとる。今、君の後ろにいるよ」
マイはそれだけ聞いて強張った。
振り向きそうになったのを堪えた。
振り向いたらダメだったからな。
今までと違ったのは、通話はまだ続いていることだ。
マイは、さとるくんを呼び出した理由を思い出し、質問をした。
「ケ、ケイ君は、……私のこと、どう思ってますか?」
「ケイ君」だけじゃ、普通誰だかわからないよな?
でもさとるくんは、何でも知ってるからな。
すぐに答えたんだ。
「ケイ君は、君のことを友達としか思ってないよ」
その答えに、マイは少しがっかりした。
やっぱり自分から告白するしかないって、実感したんだろうな。
マイはさとるくんにこう訊いた。
「ねぇ、告白する勇気が湧いてこないんだけど、どうしたら勇気出る?」
それを訊いた途端、後ろから手が伸びてきて、マイの顔を覆ったんだ。
マイの意識は闇の中に消えた。
マイは行方不明になったんだ。
そのことを、翌日のホームルームで担任が伝えた。
マイの友達のミコトは下を向いたままだったが、うっすら笑ってたんだよな。
「これでよかった。ケイ君軽いからなぁ。すぐマイの方に行きそうだし」
実はな、ミコトはケイと付き合ってたんだ。
だけどケイは軽い奴で、すぐ他の女の子の方に行くんだってよ。
だからミコトは、ケイに好意を抱く奴を次々と始末していってたんだ。
マイの場合は、さとるくんを利用してな。
本当はさとるくんに1つだけしか質問しちゃダメなのに、ミコトは「いくらでも質問していい」って、マイに吹き込んだんだよ。
「マイが騙されやすくて良かった。さとるくんは過去も未来も解るのに、それをデメリットなしに知れるわけないじゃん」
「以上だ!どうだ!」
ショウはそう言って胸を張る。
ルールを破れば、さとるくんにどこかに連れていかれる。
そう解釈したアオは、さとるくんを恐ろしく思った。
マイのように、思わずルールを破ってしまうかもしれなかったからだ。
そしてアオには、さとるくん以上に怖いと思うものがあった。
「女の子って、怖い」
「いやお前も女だろ」
今回登場した怪異
さとるくん
ある儀式によって呼び出せる。さとるくんが後ろにきた時、振り返ってはいけない。そして質問は絶対にひとつだけ。破ればあの世へ連れていかれるという。




