58.かくれんぼの話
「アオ、ありがとう!」
「うん、私で良ければ、いつでも力になるよ」
多くの生徒が部活動に励む放課後。
この日アオは、ニコの絵のモデルを頼まれて美術室に来ていた。
椅子に座って、ニコと向かい合う。
「ニコね、アオのこと描いてみたかったの!」
「そうなの?」
「うん!」
ニコはいつものように無邪気な笑みを浮かべ、デッサン用の鉛筆を走らせる。
「……………」
絵のモデルというものは、退屈なものだ。
何もせず、ただじっとしていなければならない。
なのでアオは、ニコから怖い話を聞きながら待つことにした。
「ニコちゃん、何か怖い話、ない?」
「怖い話~?」
「うん。体験談でも、知り合いからの話でも、何でも」
「う~ん………あ、あった!」
「そう?聞かせてくれないかな?」
「うん、いいよ!」
怖い話をするというのに、ニコは変わらず明るい。
ニコはアオを描きながら、話し始めた。
ニコのお友達の、ユウちゃんのお話だよ。
ユウちゃんはね、ひとりかくれんぼに挑戦したの。
ひとりかくれんぼはね、こっくりさんみたいな降霊術なんだ。
「君の名前はグーね」
ユウちゃんはまず、茶色いクマのぬいぐるみに名前を付けたの。
「ちょっとごめんね~」
それでね、ユウちゃんはグーの背中をハサミで切ったんだ。
中に入ってた綿を全部出して、代わりに自分の爪とお米を入れたの。
そしてね、切ったところを縫い合わせたの。
「これで完成~」
その後、ユウちゃんはグーをお風呂に連れて行ったの。
お風呂にはお水が貯まってるんだ。
お風呂にグーを沈めるんだけど、その前にこう言うの。
「最初の鬼はユウだから、最初の鬼はユウだから、最初の鬼はユウだから」
この呪文を唱えないといけないんだって。
グーちゃんをお風呂に入れた後、ユウちゃんは家の明かりを全部消したの。
夜だから真っ暗になっちゃった。
だけど、テレビだけは点けるんだ。
リモコンで、画面を砂嵐にするの。
それでね、10秒数えるの。
数え終わったら、包丁を持ってお風呂に行くんだって。
それでね、グーを取り出して、また呪文を唱えるの。
「グー見つけた、グー見つけた、グー見つけた」
その呪文の後に、ユウちゃんはグーを包丁で刺したの。
ハサミで切ったときは心が痛んだけど、もう平気だったんだって。
それで、包丁が刺さったグーをまたお風呂に沈めたの。
その後、ユウちゃんは自分のお部屋に行って、押し入れに隠れたんだ。
後は、待つだけなんだって。
「楽しみだな~」
ユウちゃん、楽しかったみたい。
こうして隠れてる間に、グーに幽霊が憑依して探しに来るの。
ユウちゃんはお父さんと一人暮らしで、お母さんは離婚して出て行っちゃったんだって。
お父さんは夜遅くに帰ってくるから、その間寂しいみたい………。
それで、ユウちゃんはひとりかくれんぼを始めたの。
ひとりかくれんぼは、2時間以内に終わらせないといけないから、ユウちゃんはとりあえず1時間待ったの。
「暇~」
退屈だから始めたのに、ユウちゃん、退屈になっちゃったんだって。
そうだよね。
押し入れにいるんだから、外の様子は解らないよ。
だから、ずっとスマホをいじってたんだって。
「暇つぶしの暇つぶしか~。これが本末転倒ってやつ?」
でも、スマホの時計を見たら、もうすぐ1時間経ちそうだったんだって。
「そろそろいいかな?」
ユウちゃんはスマホと、塩水が入ったコップを持って押し入れから出たの。
ひとりかくれんぼの終わらせ方はこうだよ。
塩水をちょっとだけ口に入れて、ぬいぐるみを見つけて、コップの塩水、口の中の塩水を順番にかけるの。
その後、「私の勝ち」って3回言うの。
それでお終い。
「グー、いるかなぁ?」
ユウちゃんはリビングに行ったの。
そしたら、テレビの砂嵐が止まってたんだって。
(あれ?なんで?……もしかして、マズイ?)
ユウちゃんは焦って、急いでお風呂場に向かったの。
(…………あれ?)
でも、お風呂にグーはいなかったの。
包丁も。
(グー、どこ?)
ユウちゃんはお風呂場を出て、グーを探しに行ったの。
幽霊が入ってても、小さいぬいぐるみだから、倒せると思ったみたい。
でも、そうじゃなかったの。
「うわっ!!」
急に頭に殴られたような衝撃が走って、ユウちゃんは倒れちゃった。
その時、塩水が入ってたコップも落ちちゃって、割れちゃった。
頭に当たったのは、お父さんの灰皿だったんだって。
なんとか立てたみたいだけど、今度は椅子が飛んできて、当たっちゃった。
(ヤバい、これ……。体中痛い……)
今度はユウちゃん、立てなかったみたい。
そんなユウちゃんのところに───
「み~つけた」
包丁を持った、グーが来たんだ。
ぬいぐるみの表情は変わらないのに、その時のグーは笑ってたって。
グーはユウちゃんに飛び掛かってきて、ユウちゃんを刺したの。
「うっ!?」
グーは何回も、ユウちゃんを刺したの。
こう言いながら。
「グーの勝ちグーの勝ちグーの勝ちいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
それでユウちゃんは、死んじゃったんだ。
「お終い!どうだった?」
「うん………、怖かった」
とうとう怖い話で死亡者が出た。
アオは、改めて降霊術の恐ろしさを思い知った。
しかし、気になる点がある。
本当なら、この話は死んだ本人しか知らない筈だ。
「………ニコちゃん、ユウちゃんは……」
「ユウちゃんとは今もお友達だよ。今もそこにいるよ」
「えっ……!?」
「あ、できた!」
ニコはできた絵を、アオに見せた。
その絵には椅子に座ったアオと、その肩に手を置く見知らぬ少女が描かれていた。
今回登場した怪異
ひとりかくれんぼ
少し前に話題となった、危険な降霊術。やり方を間違えれば………。




