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八百万  作者: マー・TY
第五章
57/115

57.揺れ動く話

 昼休み。

 この日アオは、学食に来ていた。

 いつも弁当を作ってくれるサラが、今日は寝坊してしまったのだ。

 という訳で、学校近くのコンビニで昼食を買ったカイに対し、アオは学食で食べることにした。

 学食は今まで来たことがなかったが、日替わり定食にありつけるまでスムーズに進んだ。


「ん?お前今日、学食か」


「ふえ?」


 アオが座っている席に、トウがやってきた。

 トレイにアオと同じ日替わり定食を乗せている。


「トウ君も学食?」


「まぁな。向かい側、座っていいか?」


「うん」


 トウはアオの向かい側の席に座った。


「………こうしてみると、俺達2人の組み合わせって、珍しくないか?」


「あ、言われてみれば……」


「う~ん……何を話すべきか………」


「……!……それなら、丁度良かった。トウ君、何か怖い話知ってる?」


「怖い話?」


 シオンに頼まれた怖い話収集。

 おそらく多いに越したことはないだろう。

 アオはトウからも訊いてみることにした。


「うん。体験談でも、知り合いから聞いた話でも、何でも」


「それならあるな。話そうか?」


「うん。お願い」


「なら、食べながら聞いてくれ」


 トウはアオに怖い話を語って聞かせた。

 それはトウの、昔の思い出だった。




 10歳くらいの頃だったか……。

 お盆の日に、俺は祖父母の実家に両親と帰省することになった。

 毎年この時期になると、親戚一同がそこへ集まる。

 祖父母の実家近くには、田んぼや畑がたくさんある。

 いわゆる田舎だ。


「よぉ、トウマ!」


「あ、兄ちゃん」


 俺には従兄弟がいて、ここに来ると兄ちゃんとよく一緒に遊んでいた。

 ザリガニを釣ったり、草笛を吹いたり。

 多くのことを兄ちゃんから教わった。

 この日もまた、従兄弟の兄ちゃんや、その他の子供達と一緒に鬼ごっこをして遊んだ。

 遊んだ後は、皆で冷えたスイカを頬張った。




 時刻は午後5時。

 その時吹いていた風は、生暖かかった。

 何でだろうな。

 この頃の風は、いつもは涼しかったのに。

 まぁ、そういうときもあるだろう。

 そう思っていた俺は、ふと兄ちゃんの方を見た。

 兄ちゃんは遠くの、田んぼの方を見ていた。


「兄ちゃん、何見てるの?」


「あれだよ、あれ」


 兄ちゃんは見ている方を指差した。

 俺もその方向を見る。

 遠くの方で、何か、白い物体が揺れ動いていた。

 

「何あれ?」


「さぁ?案山子じゃないか?風も吹いてるから揺れてるのかもな」


「ふぅん……」


 そう話していると、風が止んだ。

 しかし、白い物体はそれでもくねくねと揺れ動いていた。


「風が止んだのに動いてるよ」


「ホントだ。案山子じゃないのかもな。……よし、待ってろ」


 兄ちゃんは一度家に戻り、双眼鏡を持って戻ってきた。


「こいつで見てみるか」


 そう言うと兄ちゃんは、双眼鏡を覗いて白い物体を見た。


「兄ちゃん、何が見えるの?」


 兄ちゃんは俺の問いかけに答えず、黙って白い物体を見続けていた。

 そんな兄ちゃんを見ていると、徐々に異変が起き始めた。

 兄ちゃんの顔がだんだん真っ青になっていき、だくだくと冷や汗を掻きだした。

 そして持っていた双眼鏡を落とした。


「……兄ちゃん?」


「………」


「何が見えたんだよ?」


「………わカらナイほウがいイ」


 兄ちゃんはそう言って、家の方に戻っていった。

 気のせいか、その時の兄ちゃんの声は違って聞こえた。

 もう一度呼び掛けたが、返事もせずに行ってしまった。

 俺はふと、双眼鏡を見た。

 田んぼに目を移すと、白い物体はまだ揺れ動いていた。

 兄ちゃんはおそらく、その白い物体を見て様子が変わった。

 兄ちゃんは何を見たのか。

 知りたかった。

 俺は反射的に双眼鏡を拾い上げた。

 すると──。


「おい!!!」


 怒鳴り声が聞こえた。

 祖父が物凄い勢いで俺の元に走ってきた。

 祖父は俺の手から双眼鏡を叩き落とし、両肩を掴むと、


「見たんか!!?あれを見たんか!!?」


 と、怒鳴り声で聞いてきた。


「あの白い物体を見たのか!!?あれは見てはならん!!!見たのか!!?その双眼鏡で見たのか!!?」


 俺には何がなんだかわからなかった。

 見てないのは確かだったから、とりあえず俺は応えた。

 「見てない」と。

 すると祖父が、俺の両肩を掴んだまま、涙を流して崩れ落ちた。


「よかった……!本当に………!!」


 よく解らなかったが、祖父はとても安堵していたようだった。




 家に戻ると、異様な光景があった。

 俺の家族や親戚達が暗い顔をしていて、中には泣いている人もいた。

 その真ん中で、兄ちゃんが踊っていた。

 狂ったように笑いながら。

 その踊る姿は、くねくね動く白い物体と似ていた。

 本当に異様だったよ。

 踊り狂う兄ちゃんに、泣く親戚。

 こうなったのは、兄ちゃんがあの白い物体を見たのが原因なのか。

 俺が状況を吞み込めずにいる中、祖母がゆっくりこう言った。


「この子はしばらく、ここに置いといた方がええ。うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放ってやるのが一番だ……」


 どういうことなのか、俺には解らなかった。

 だが、もう兄ちゃんと会うことも、遊ぶこともできないことは解った。

 俺は兄ちゃんの顔を見た。

 笑っているものの、目からは確かに涙が出ていた。




「………ここまでだな」


 トウの声は静かだったが、アオにははっきり聞こえていた。


「……その従兄弟のお兄さんは、その後どうなったの?」


「さぁな。……あれ以来会ってねぇよ」


 トウはそう言いながら、最後の一口を口に入れた。


「……まぁ、どんなに好奇心が勝っても、変なモンは見るなってことだな」


 トウはそれだけ言い残して席を立った。

今回登場した怪異


くねくね

遙か遠くの地点に、その名の通りくねくねとした謎の白い物体が現れ、それを視認してしまった者は回復不能の知能退行に囚われるという。

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