56.手紙の話
現在、アオは体育の授業を受けている。
選択科目で、生徒はバドミントン、バスケットボール、バレーボールの3種目のうち一つを選ぶ。
アオはバドミントンを選んだ。
バドミントンは他の2つと違って個人種目のため、コートに限りがある。
そのため、他の生徒同士の試合が終わるまで体育館の隅で座っていた。
そこへコユがやってきて、隣に座る。
「アンタ、試合しないの?」
「コートが全部使われてるから。……コユちゃんこそ、試合は?」
「ほどほどにしてるわ。あんまり汗かきたくないし」
「そっか」
「まぁいいわ。コート空くまで話さない?」
「うん、いいよ。……あ、そうだ」
「どうかした?」
シオンに頼まれた怖い話の収集。
アオはコユにも訊いてみることにした。
「コユちゃん、何か怖い話知ってる?」
「え?知ってるけど……。なんで?怪談にでもハマった?」
「う、うん。そんな感じ」
「ふぅん。………それじゃあ、これはあたしの体験談なんだけど────」
コユは始めにそう言うと、怖い話をアオに話し始めた。
不幸の手紙って知ってる?
あたしが中学生の時流行ったんだ。
内容は簡単に言うと、届いた手紙を3日以内に誰かに回さないと不幸になるっていう内容。
そう、チェーンメールってやつ。
それでね、ある日その不幸の手紙が、あたしの元に届いたわけ。
わざわざ黒い封筒に入れられて。
でもあたし、その時は本気にしてなかったんだよね。
以前いたずらで、不幸の手紙を作った男子がバレて先生に怒られてたのよ。
だからあたしのところに届いたその手紙も、いたずらなんだって思った。
だけど、誰がその手紙を出したのかは気になるところなのよね。
犯人見つけたら怒鳴りつけてやろうかと思ったわ。
いろいろ考えた後、あたしは友達の一人に不幸の手紙について訊いてみたの。
その娘は物知りで、眼鏡がよく似合ってたわ。
不幸の手紙を見たその娘は、眉をひそめてた。
「不幸の手紙かぁ……。他の人に回すのは間違ってるから、ここで止めるべきじゃないかな」
「やっぱそう思う?」
「うん。こんなの送られたら嫌な気持ちになるだけだよ」
「だよね。そうする」
あたしは手紙をゴミ箱に捨てた。
もちろんくしゃくしゃに丸めて。
そうしたら少しスッキリした。
だけどその翌日の朝、また不幸の手紙があたしの机に置いてあった。
中身を読んでも、昨日と全く一緒。
まさか同じものを用意してくるとは思わなくて、怒りを通り越して呆れた。
あたしはまたあの物知りの友達に話した。
友達は心配そうにあたしを見てた。
「ひどいよね。大丈夫?」
「なんか呆れた。新しいのまで用意して……。ただのいたずらなんだろうけど、ここまでマジになる?あたし何か悪いことしたっけ?」
「う~ん…………。そうだ、コユちゃん、その不幸の手紙見せて」
「え?……いいけど?」
あたしはその友達に不幸の手紙を見せた。
友達は文をまじまじと見ていて、そしてあることに気づいた。
「一緒だ」
「一緒って?」
「この手紙の字体、昨日と全く一緒なの」
その友達は、ちょっと怖がってる感じでそう言った。
「え?わかるの?」
「うん。私記憶力良いから」
「す、凄いわね………。でも、字体が一緒なのは、犯人が昨日と同じってだけじゃないの?」
「ううん。私達が書く文字って、どれも形とか大きさが全く同じってわけじゃないでしょ?過去と全く同じ形とか大きさの字を書くのって、難しいはずだよ。でもこの手紙、それらが全く同じなの」
「コピーしたんじゃないの?」
「これ、シャーペンで書かれてる」
「え?……じゃあ、コピーじゃない?」
何だか気持ち悪くなってきた。
まるでゴミ箱に捨てた手紙が、自分から戻ってきたみたいだった。
皺まで戻って……。
いや、そんなことはない。
あたしは首を横に振った。
「話聞いてくれてありがとう。これ、あたしが何とかするよ」
「そ、そう?」
友達はちょっと不安そうにしてた。
その日あたしは家に帰ってから、手紙をゴミ箱に捨てた。
一応捨てる前に、その手紙に赤ペンで印を付けた。
自分でもなんでそうしたのかは、よくわからない。
でもきっと、不幸の手紙を信じてるあたしがいたのかもしれない。
その日の夜、あたしはなかなか寝つけなかった。
夢の中で黒い男みたいなのが出てきてさ。
あたしはそいつに何度も殺された。
殺され方も毎回違うの。
撲殺鏖殺刺殺絞殺斬殺焼殺etc……。
その度にあたしは何度も目を覚ました。
しばらく寝るのが憂鬱だったな……。
翌朝、あたしの目覚めは最悪だった。
鏡を見たら、あたしはやつれた顔をしてた。
それでもなんとか眠気に耐えて、あたしは学校に行って、自分の教室に入った。
それから自分の机を見ると、机に手紙が置かれてた。
黒い封筒に入れられて。
あたしは恐る恐る、封筒を開けて手紙を見た。
「!?」
手紙には、あたしが付けた赤ペンの印があった。
あの時は、本当に不気味に感じたわ。
それで少し、パニックになってた。
なんか、クラスメイト全員が犯人みたいに見えてきた。
「コユキちゃん」
「!?」
急にあの友達に話しかけられた。
「コユキちゃん……。その…………」
「ご、ごめん。ちょっと一人にさせてくれない?」
あたしはそう言って、教室から出た。
その娘が、せっかく心配してくれたのに。
その日あたしは、誰とも話せなかった。
あたしは友達が多い方だったけど、その日は一人で下校してた。
一日中、不幸の手紙について考えてたから。
最初はいたずらだと思ってた。
でも、その日机に置いてあった手紙は……。
あれは、あたしの家に入って手紙を回収しない限り、再現は不可能でしょ?
ただのいたずらとは思えなかった。
不幸の手紙って、本当にあるんじゃないかって思った。
そして、その瞬間はあたしが横断歩道を渡ってた時に訪れた。
「危ない!!」
そう声がして、あたしは後ろに引き寄せられた。
その直後、猛スピードの車が目の前を通り過ぎた。
信号無視の車だったみたい。
もう少し遅かったら、あたしはその車に轢かれてた。
そう考えると、体が震えだした。
「怪我はない!?」
私を引き戻してくれたのは、あの物知りな友達だった。
その日あたしは、その友達に神社に連れていってもらった。
あたしはそこで、お祓いを受けた。
そしたらその後、あたしに何も起こることはなかったし、机に不幸の手紙が置かれることも二度となかった。
あたしを助けてくれた友達とは高校は違うけど、たまに連絡を取り合ってる。
ちなみにだけど、あたしが轢かれそうになった日で3日目だったんだって。
「これでお終い。どうだった?」
「う、うん。怖かった」
アオはカイだけでなく、コユもまた怖い目に遭っていたことを知った。
コユを助けた友達。
もし彼女に会ったら、お礼を言いたかった。
「あ、コート空いたわよ。ほらアオ、こんな話は終わりにして、試合しない?」
「うん。そうだね」
アオとコユは立ち上がり、コートに向かった。
今回登場した怪異
不幸の手紙
他人に送らなければ不幸になるという、悪意のある手紙。




