55.悪夢の話
今回の章では、一部登場人物の視点で怖い話を聞かされます。読者の皆さんは、アオになったつもりでお聞きください。
「ただいま」
「おかえり~」
シロとクロと別れ、アオは家に帰り着いていた。
リビングに行くと、料理中のサラが出迎えた。
「アオ、おかえり。学校どうだった?辛い思いしてない?」
「してないよ。シロ君達優しいから」
「そう、良かったわ。ちょっと待っててね。すぐ夕食できるから、カイと待ってて」
「わかった」
カイはソファに座り、ニュースを観ていた。
アオはその横に座る。
「おっ!おかえりアオ!」
「ただいま。珍しいね。カイがニュース……」
「ん?この時間おもしれぇ番組ねぇからな。適当に観てんだ」
「そっか。………あ、そうだ」
アオはシオンとのやりとりを思い出した。
「カイ、何か怖い話、知ってる?」
「怖い話?何でだ?」
「えっと、……図書委員の仕事で。夏も近いから」
「なるほどな!頑張ってるな!」
「ありがとう。それで、何かない?実体験でも、人から聞いたものでも、何でも」
カイは腕を組んで考えた。
そしてニュース番組を観せるテレビを見て、ハッとした表情になる。
何か知っているようだった。
「あったぞ!ひとつ!怖いかどうか別だけどな」
「本当?教えてくれない?」
「あぁ、いいぜ!」
カイはアオに、自身が体験した出来事について話し始めた。
これは中2の時だ。
気づいたら俺は、駅のホームに立ってたんだ。
駅のホームって、普通列車待ってる人が何人かいそうだったんだけど、その時は静かだったんだ。
ていうか俺一人しかいなかった。
『まもなく、列車が到着いたします。黄色い線までお下がりください』
急にスピーカーからそんな声が聞こえてきて、列車が駅に到着したんだ。
それで列車のドアがゆっくり開いた。
何か怪しく思えて、乗るかどうか迷って様子見たよ。
でも列車はいつまで立っても動かないんだ。
まるで俺が乗るのを待ってるみたいでさ。
駅のホームを見渡しても改札に行くまでの階段とか何もねぇから、仕方なく俺は乗ってみたんだ。
中には男と女が一人ずつ座ってて、俺以外に人がいたのがわかってちょっと安心した。
俺が座席に座ると、ドアが閉まって、列車は出発した。
窓の外を見ると、俺がいた駅が遠ざかっていって、背景が真っ黒に変わった。
地下鉄だったからな。
しばらく座ってると、アナウンスが聞こえてきたんだ。
『次は…、イケヅクリ~イケヅクリ~』
確かにそう言ってたんだ。
イケヅクリって変な駅名だと思った。
するとアナウンスのすぐ後、4人のボロい着物着た子鬼みたいなのが出てきて、乗ってた男を囲んだんだ。
「何だ?あいつら……」
俺は無意識にそう言ってた。
ヤバいのがここからだった。
4人の子鬼みたいな奴らが、一斉に男に襲い掛かったんだ。
刃物で男をどんどん切り裂いていった。
周りに血が飛び散って、俺にも掛かってきた。
男は切り刻まれた肉の寄せ集めと頭だけにされて残って、子鬼みたいな奴らは隣の車両に入っていった。
男の死体が、なんか刺身の盛り合わせに鯛の顔だけ置いてある、あれに見えたよ。
あれがイケヅクリっていうんだよな?
ホントはそんなこと考えてる暇はなくて、俺はただただビビってたな。
そうこうしてると、またアナウンスが流れてきた。
『次は…、エグリダシ~エグリダシ~』
今度は抉り出し。
馬鹿な俺でも意味が解った。
「きゃぁああああああああああああああ!!!」
突然女の悲鳴が聞こえてきた。
気づいたらまたあの子鬼みてぇなのが出てきて、女を囲んでた。
子鬼みてぇな奴らは、今度はスプーンを持ってて、それで女の体中を抉り出していった。
スプーンでゼリーを掬うと、その一部が乗るだろ?
それが今は人肉なんだよ。
女は小さいクレーターみたいな穴だらけになって死んだ。
子鬼みてぇな奴らも戻ってった。
俺の顔は青ざめてただろうなぁ。
この流れでいくと、次は俺だから。
『次は…、ヒキニク~ヒキニク~』
子鬼みてぇな奴らが、俺を囲んだ。
ピザ生地なんかを延ばす木の棒を持ってる。
今度は俺が、ヒキニクにされる。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
この時俺は怖くなって、大声で叫んだ。
気づいたら俺はベッドの上にいた。
紛れもなく俺の部屋だった。
そこで俺は、列車での出来事が夢だったことに気づいた。
ガチャッて音がして、ドアが開いた。
部屋にアオが………、お前が入ってきた。
お前、寝ぼすけの俺が起きてることに驚いてたっけ。
でも俺が汗だくなのに気づいて心配してくれたのは嬉しかったぞ。
登校まで時間があったから、俺はシャワーを浴びてリビングに向かった。
母ちゃんにも驚かれたな。
それでお前と一緒に朝食を食べようとして、椅子に座った時だった。
そのニュースが流れたのは。
『速報です。今朝、市内で男女の変死体が発見されました。男性の方は、体がバラバラになってあり、女性の方は、腹部から内蔵が飛び出していたとのことです』
俺は驚いた。
被害者の写真が公開された時は特に。
だって、あの夢に出てきた2人と顔が一緒だったんだぜ?
俺は解ったよ。
あの夢で殺されたら現実でも死ぬって。
その日の夜。
俺は寝たくなかった。
寝たらまたあの夢を見そうだったからな。
でも何か、眠気に耐えられなくなって、俺はつい寝ちまったんだ。
それで気づくと列車にいて、2人の死体が置いてあった。
『次は…、ヒキニク~ヒキニク~』
「続きからかよ!」
俺は逃げようとした。
けど、何故か体が動かなくなっていた。
目の前に4人の子鬼みてぇな奴らが、木の棒を持って出てきた。
明日の朝、ぐちゃぐちゃになって見つかる俺。
それを最初に見つけて、泣き崩れるお前。
そんな未来を想像してしまう。
……そしたら、なんかだんだんイラついてきた。
「……ふざけんなよ」
俺はまだ死ねなかったんだ。
だってあの時期、お前には俺がいないといけなかったからな。
「お前らみてぇなのに殺されてたまるか!!!!!」
そう叫んだら、急に体が動くようになった。
俺は目の前の子鬼みてぇな奴らを思いっきり蹴飛ばした。
俺は運転席がある方に向かった。
アナウンスで流れる駅名は、人の殺し方だ。
この列車が止まれば、駅名が読まれることはない。
俺は列車内を駆け抜けた。
途中で邪魔が入ってきたけど、そいつらは避けたり蹴飛ばしたりして突破した。
運転席に着くと、俺は思いっきりブレーキのレバーを引いた。
そしたら、何故かそこで目が覚めた。
それでそれっきり、その夢を見ることはなくなった。
「これで終わりだ。どうだった?怖かったか?」
アオは苦笑していた。
この夢の終わらせ方が、いかにもカイらしかった。
「ありがとう。……そして、ごめんね」
「ん?なんで謝るんだ?」
「あの時、カイは辛かった筈なのに、私のことばかりで……」
「気にすんな」
カイはアオの頭に優しく手を置いた。
「お前は俺以上に辛かっただろ?」
「そんなこと……」
「それにお前がいたから、俺はこうして生きてるんだぜ!ありがとな!」
「カイ…………」
アオは少し俯く。
そして目を瞑ると、カイの膝に体を倒した。
アオは久しぶりに、こうしてカイに甘えたくなった。
今回登場した怪異
猿夢
夢の中の列車で、それは起こる。列車内の乗客が、車内のアナウンスの通りに殺されていく。




