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八百万  作者: マー・TY
第四章
52/115

52.苦闘の話

作中のアガリビトは人の声を真似て惑わします。

 それから約2時間。

 時刻は17時を回っていた。

 巨大樹の穴の中で、ニコは目を覚ました。

 隠れたまま眠ってしまっていたようだった。


「うゆ……。ちょっと眠い…」


 そう言ってニコは目を擦った。

 外を見ると、少し暗くなっている。


「もうすぐ夜?……どうしよう。今日はもうここにいようかな?」


 夜の山を歩くのは危険ということは、ニコも理解していた。

 それに、アガリビトのこともある。

 実際外からは嫌な気配が漂っていた。

 ニコは現在隠れている穴から出たくなかった。

 寝起きで喉が渇いている。

 水分補給をしていたその時、声が聞こえてきた。


「ニコーー!どこだーーーー!!」


「!!」


 それはニコが一番大好きな、トウの声だった。

 この巨大樹のすぐ近くから聞こえる。


「トウ!?トウなの!?ニコ、ここだよ!」


 リュックサックを置いたまま、ニコは慌てて穴から出た。

 それだけトウのことが恋しかったからだ。


「トウ!!……………うゆ?」


 ニコは辺りを見渡した。

 巨大樹の外には、トウの姿は無かった。

 驚かすために隠れているかと思ったが、ニコ自身それはないと判断した。

 トウはこんなところでふざけるような性格をしていない。


「…………うゆ!?」


 トウはいないが、代わりにただならぬ気配を感じた。

 ニコは震えながら、後ろを振り向いた。

 巨大樹にアガリビトが張り付いており、ニコを見下ろしてニヤニヤ嗤っていた。


「や……やだぁああああああああああああ!!!!」


 ニコは走り出した。

 しかし足下が覚つかず、転んでしまった。

 アガリビトはニコのすぐ傍まで来ていた。

 ニコはすぐに起き上がって逃げようとしたが、アガリビトに捕まり、仰向けに押し倒された。


「やだ!やだぁ!離してよ!!」


 ニコは逃れるために必死になって暴れるが、アガリビトの体はビクともしない。

 アガリビトはニコに顔を近づけた。

 そして、驚いたことに話し始めた。


「ニコ、迎えに来たぞ」


「えっ!?」


 ニコは目を見開いた。

 アガリビトの声は、トウと同じだったのだ。


「なんで!?それ、トウの声……」


「好きだよニコ。愛してるぞ。幸せにする。結婚しよう」


 アガリビトは尚もトウの声で語りかける。

 「好き」、「愛してる」、「幸せにする」、「結婚しよう」。

 それはトウに言われたいのに、言ってくれない言葉ばかりだった。

 実際にトウが言ったら、こんな感じなのか。

 ニコは少しそう考えたが、すぐに嫌悪感が込み上げてきた。


「そんなこと、言わないで!!!!」


「好きだよ、ニコ」


「黙って!!!!」


 ニコは涙目でアガリビトを睨みつけた。


「あなたはトウじゃない!!!ニコはトウに、ちゃんと好きって言われたいの!!!あなたじゃないの!!!トウの声、真似しないでよ!!!!」


「ニコ!!」


 アガリビトは左手で、ニコの首を掴んだ。

 ニコは苦しみながら、アガリビトの手を掻きむしる。


「や……………やだっ…!………ぐる………じぃ……………!」


「ヘヘヘヘ。一生幸セニ暮ラソウナ。ニコ!」


 アガリビトは残った右手を、ニコが着ている制服の中に入れた。

 ニコの柔らかい肌を撫で回し、ニヤつく。

 その時────


“ゴッ!!”


 野球ボール程の大きさの石が、アガリビトの後頭部に直撃した。

 アガリビトは一瞬眩暈を興し、ふらつく。

 当たった箇所から血が出た。


「汚い手でニコに触るな!」


 アガリビトは怒りを表にして振り返る。

 そこにはトウが立っていた。

 アガリビトはニコから手を離し、純血した目でトウを睨みつける。


「ゴホッゴホッ……。!!……トウ!!!」


「悪いなニコ、遅くなった。ちょっと待ってろ。コイツ倒さねェと腹の虫が治まらない」


 トウはリュックサックを放り、山刀を抜くと、刃先をアガリビトに向けた。

 アガリビトは、まるで猛獣のような咆哮を上げた。


「殺ス!殺ス!」


「俺の声で喋るな!」


 トウは山刀を構えた。

 アガリビトは、トウ目掛けて走り出す。


「!?」


 アガリビトのスピードは、信じられないものだった。

 一気に距離を詰め、トウに殴りかかる。


「くっ!」


 トウは山刀でガードする。

 しかし、その衝撃で跳ね飛ばされた。

 地面を転がり、すぐに顔を上げる。

 その頃には、アガリビトは目の前で拳を振り下ろそうとしていた。


「なっ!?」


 トウは間一髪で避けた。

 そのままアガリビトの猛攻を避け続ける。


「トウ!」


 ニコはトウを心配そうに見つめていた。


(心配するな!殺られはしない!)


 トウはアガリビトの腕を避けると、その腕を斬りつけた。

 ついでに背中にも一振り入れる。

 トウは避けながら隙を窺っていたのだ。


「……殺ス………殺ス…………」


「だんだん慣れてきたぞ。お前の動きに」


 トウはアガリビトに視線を向けて構え直す。

 アガリビトもトウを見据えた。

 かと思うと、アガリビトは突然跳躍した。

 そして近くにあった木の表面に張りつく。


「!?」


 アガリビトは張りついた木から、また別の木に跳び移った。

 それを繰り返すことで、木から木へ素早く移動していく。

 そして太い枝を折ると先をトウに向け、飛び降りてきた。


「うおっ!」


 トウはそれを躱す。

 アガリビトが突き立てようとした枝が、躱した箇所に刺さる。

 アガリビトはすぐにまた木に上がった。

 その後も何度もトウを翻弄しながら攻撃していく。

 トウはギリギリ躱していくが、どんどん追い詰められている感覚に至っていた。


「くそっ、このままだといずれ…………」


“ヒュッ!”


 トウの頭目掛けて、木の枝が投げ落とされた。

 トウはそれも躱した。


「─────ッ!!」


 トウが躱した先に、アガリビトが立っていた。


“ドゴッ!”


 アガリビトは右腕でトウの腹部を殴った。

 蹌踉けるトウに、アガリビトは追撃を与える。

 殴る蹴るを繰り返していき、首を掴むと、トウを投げ飛ばした。

 トウの体は木に激突して止まる。

 その際、山刀を落としてしまった。


(くそっ………。早く……早く拾わねぇと……)


 そう思いつつも、体中が痛んで上手く動かせない。

 そうしているうちに、トウはアガリビトに首を掴まれた。

 そのまま持ち上げられ、木に押しつけられる。


「ぐっ………!」


 アガリビトは苦痛に歪んだトウの顔を見て、ニヤリと嗤った。


「トウ、愛シテル」


「!?」


 アガリビトは、ニコの声でトウにそう言った。

 トウの顔に怒りが現れる。


(コイツ!馬鹿にしてるのか!?)


「ニコ、トウノコト大好キ。ダカラ、食ベテアゲルネ。ソシテ、元気ナ赤チャン産ムンダ~」


「!!」


 トウはアガリビトの手を掴み、力任せに引き剥がそうとした。

 しかしその手は動こうとしない。


「ウユ!ソロソロオネンネダネ。オヤスミ~」


 アガリビトはトウの首を一気に絞め上げた。

 このまま窒息するか、首の骨が折れるか。

 どちらになるか楽しみにしていた。

 しかし、結果はどちらでもなかった。


“ドスッ!”


 アガリビトは腰辺りに激痛を感じた。

 ゆっくりと背後を見る。

 アガリビトの腰に、ニコが山刀を突き立てていた。


「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ニコは叫び声を上げながら、腰や背中を滅多刺しにし始めた。


「グァアアアッ!!!」


 あまりの痛みに耐えかね、アガリビトはトウを離して暴れた。

 その勢いで、腕がニコに命中した。

 ニコの軽い体は吹き飛び、地面を転がった。


「ヨクモ……ヨクモ………。大人シク孕ンデレバイイモノヲ……!」


 倒れているニコに、アガリビトは近づいていく。

 息遣いが荒い。

 傷が深いのか、ゆっくりとしか動けない。

 それでも怒りで我を失っているアガリビトは、ニコを殺しに近づいていく。


「させねぇよ……」


 アガリビトのうなじ部分に、山刀が突き刺さった。

 それはニコを守るため、力を振り絞って立ち上がったトウの、起死回生の一撃だった。

 アガリビトの体が震え出す。

 トウは山刀を、どんどん奥へ押し当てていく。

 そして喉元を突き破ったところで、それを引き抜いた。


「アッ………グガッ………」


 アガリビトは首元を抑えながら蹌踉めく。

 首元からはどんどん赤い血が流れ出てくる。


「グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──────!!!!!」


 アガリビトは最期の雄叫びを上げ、地面に崩れ落ちた。

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