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八百万  作者: マー・TY
第四章
51/115

51.幼き日の話

「はぁ……はぁ………。ニコの奴どこだ?」


 巨頭の人のような者達が支配する村を脱出したトウもまた、ニコを探して山中を彷徨っていた。

 頂上を目指しながら進んでいるが、そこへの道を見つけられずにいる。

 上り坂を見つけたかと思うと、すぐに下り坂に続く道。

 登ることが困難な岩壁。

 先程からそういう場所ばかり見つかる。

 トウは一度、スマホで時刻を確認した。

 既に15時になっていた。


「夜になる前に見つけて脱出したいが……………。ッ!?」


 トウは急に立ち止まった。

 目の前は谷底になっていた。


「ははは……。本当にヤバいなこの山は」


 トウは谷から少し離れ、近くにあった木を背もたれにして座った。

 リュックサックから水筒を取り出して飲む。


「はぁ…………。あいつ、今何してるんだ?」


 トウは目を瞑った。

 すると、幼き日のニコとの思い出が、頭の中に流れてきた。




 今から12年前。

 トウが住む家の隣に、ニコとその家族は引っ越してきた。

 当時4歳のトウがニコと初めて出会ったのは、ニコとその家族がトウの家にあいさつをしに来た時だった。


「イロハはね、イロハ!あなたは~?」


「ぼく?………トウマ」


「トウマ!よろしく~!」


 イロハはニコの本名だ。

 当時人見知りだったトウの手をニコは握り、何度も振った。

 それからニコは、よくトウの家に遊びに来るようになった。

 幼稚園も同じだったこともあり、2人は次第に仲良くなっていった。

 そんなある日のこと、ニコから提案があった。


「ねぇねぇトウマ。トウマのこと、トウってよんでいい?」


「え?いいけど、なんで?」


「ようちえんのおともだちがいってたの。ともだちどうしって、あだなでよびあうんだって!」


「あだなって?」


「うゆ………。わかんないけど、とくべつななまえだよ!きっと!」


「とくべつななまえ……」


 特別。

 当時のトウにとって、それは良い響きだった。


「じゃあトウ、イロハにもあだなつけて!」


「えっ!?………うん」


 トウは少し考えた。

 “イロハ”から取って“イロ”にしようかと思ったが、何か変な感じがしてやめた。

 ふとトウは、ニコの顔を見た。

 楽しみにしているその顔から、トウは閃いた。


「ニコ!」


「ニコ?」


「うん。イロハはいつもニコニコしてるから、ニコ。……どうかな?」


「!!!………うん!きにいった!」


「うわっ!」


 ニコはそう言って、トウを抱き締めた。


「ニコ!ニコ!きにいった!イロハはきょうからニコ!トウ!ありがとう!!」


 ニコに抱き締められたトウは、嬉しそうに顔を赤らめた。




 時は経ち、トウとニコは小学2年生になった。

 相変わらず、2人は仲が良かった。

 そんなある日のこと、下校中2人が橋を渡っていたとき、クラスのいじめっ子達に囲まれた。


「お~い、ラブラブカップルがあるいてるぞ~!」


「ヒューヒュー!」


「あついね~!」


 いじめっ子達は2人を見るなり囃し立てた。

 しかしこの時、2人は特に気にしていなかった。


「カップル?」


「いっしょにかえりたいの~?かえろう!」


 トウは不思議そうな顔をし、賑やかなのが好きなニコは、目を輝かせた。

 その反応が面白くなかったのか、いじめっ子達はさらに野次りだす。


「トウマおまえいいのかよー!ブサイクイロハのおっとだぞ!?」


「なに!?」


 その言葉にカチンときたトウは、いじめっ子達を睨みつけた。

 それを見たいじめっ子達は、さらに続ける。


「や~いイロハのブサイク~!」


「ブ~~~~~ス!」


「ブ~サイク!ブ~サイク!」


 いじめっ子達は、何度もニコに「ブサイク」と言い続けた。

 するとニコは、声を上げて泣き出した。


「うえ~~~ん!!ニコ、ブサイクじゃないもん!!!」


「やめろよ!」


「うるせぇ!」


 ニコを庇うトウを、いじめっ子の一人が突き飛ばした。


「ブサイクがリボンなんて付けるなよ~!」


 そして別のいじめっ子が、ニコが付けていた水玉模様のリボンを奪うと、橋の上から川に投げ捨てた。

 いじめっ子達はゲラゲラと嗤っている。


「ッ!」


 それを見ていたトウは、その場から走り出した。


「トウ?まってー!」


 泣きじゃくっていたニコも、トウの後を追った。




 川へ続く階段を、ニコは一歩ずつ降りて行き、砂地に足を着けた。

 近くに黒いランドセルが放ってあった。

 川の方へ急ぐと、岸にずぶ濡れになって倒れているトウを見つけた。


「トウ!」


 ニコはトウの元に駆け寄った。

 幸いトウには意識があった。


「はぁ………はぁ………、はい、ニコ」


 トウは起き上がると、ニコに濡れたリボンを差し出した。

 ニコはそれを受け取り胸に当て、また泣き出した。


「ニコ、どうしたの?」


「だって!だって!………。トウがおぼれちゃうんじゃないかって!」


「ぼくはおぼれないよ。リボンもとってきたよ」


「トウ~~~!!」


 トウはニコを、優しく抱き締めた。

 水に入っていたトウの体は冷たかった。




 2人はしばらく階段に座っていた。

 トウの服も少し乾いていた。

 綺麗な夕日が2人を照らす。


「なきやんだ?」


「うん」


 ニコは涙を拭った。


「ねぇトウ。あのいじめっこたち、ニコたちのことカップルっていってた」


「カップルって、なに?」


「こいびとっていういみだよ。しょうらいけっこんするんだって」


「けっこん……。キスするんだよね?」


 トウは少し顔を赤らめた。


「ねぇトウ」


「な、なに?」


「トウはしょうらい、ニコと、けっこんしてくれる?」


 そう言ってニコは、トウの顔を覗き込んだ。

 トウの答は決まっていた。


「うん!ぼく、ニコをおよめさんにする!しあわせにするよ!」


「トウ!……うれしい!ありがとう!」


 ニコは、とても嬉しそうに笑った。

 そんなニコのことをトウは、とても可愛らしく思った。




「………言ってたなぁ、こんなこと。何か恥ずいな」


 目を開けたトウは、懐かしそうに笑った。


「あんな約束したのに、いつまで経っても変わらないニコが、だんだん疎ましくなっていた……。でもニコは、あの日のことを未だに覚えてるんだよな……」


 トウは立ち上がった。

 そして山中を再び歩き出す。


「待ってろニコ!必ず見つけ出してやる!そして一緒にこの山を出るぞ!」

トウとニコの昔話でした。

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