51.幼き日の話
「はぁ……はぁ………。ニコの奴どこだ?」
巨頭の人のような者達が支配する村を脱出したトウもまた、ニコを探して山中を彷徨っていた。
頂上を目指しながら進んでいるが、そこへの道を見つけられずにいる。
上り坂を見つけたかと思うと、すぐに下り坂に続く道。
登ることが困難な岩壁。
先程からそういう場所ばかり見つかる。
トウは一度、スマホで時刻を確認した。
既に15時になっていた。
「夜になる前に見つけて脱出したいが……………。ッ!?」
トウは急に立ち止まった。
目の前は谷底になっていた。
「ははは……。本当にヤバいなこの山は」
トウは谷から少し離れ、近くにあった木を背もたれにして座った。
リュックサックから水筒を取り出して飲む。
「はぁ…………。あいつ、今何してるんだ?」
トウは目を瞑った。
すると、幼き日のニコとの思い出が、頭の中に流れてきた。
今から12年前。
トウが住む家の隣に、ニコとその家族は引っ越してきた。
当時4歳のトウがニコと初めて出会ったのは、ニコとその家族がトウの家にあいさつをしに来た時だった。
「イロハはね、イロハ!あなたは~?」
「ぼく?………トウマ」
「トウマ!よろしく~!」
イロハはニコの本名だ。
当時人見知りだったトウの手をニコは握り、何度も振った。
それからニコは、よくトウの家に遊びに来るようになった。
幼稚園も同じだったこともあり、2人は次第に仲良くなっていった。
そんなある日のこと、ニコから提案があった。
「ねぇねぇトウマ。トウマのこと、トウってよんでいい?」
「え?いいけど、なんで?」
「ようちえんのおともだちがいってたの。ともだちどうしって、あだなでよびあうんだって!」
「あだなって?」
「うゆ………。わかんないけど、とくべつななまえだよ!きっと!」
「とくべつななまえ……」
特別。
当時のトウにとって、それは良い響きだった。
「じゃあトウ、イロハにもあだなつけて!」
「えっ!?………うん」
トウは少し考えた。
“イロハ”から取って“イロ”にしようかと思ったが、何か変な感じがしてやめた。
ふとトウは、ニコの顔を見た。
楽しみにしているその顔から、トウは閃いた。
「ニコ!」
「ニコ?」
「うん。イロハはいつもニコニコしてるから、ニコ。……どうかな?」
「!!!………うん!きにいった!」
「うわっ!」
ニコはそう言って、トウを抱き締めた。
「ニコ!ニコ!きにいった!イロハはきょうからニコ!トウ!ありがとう!!」
ニコに抱き締められたトウは、嬉しそうに顔を赤らめた。
時は経ち、トウとニコは小学2年生になった。
相変わらず、2人は仲が良かった。
そんなある日のこと、下校中2人が橋を渡っていたとき、クラスのいじめっ子達に囲まれた。
「お~い、ラブラブカップルがあるいてるぞ~!」
「ヒューヒュー!」
「あついね~!」
いじめっ子達は2人を見るなり囃し立てた。
しかしこの時、2人は特に気にしていなかった。
「カップル?」
「いっしょにかえりたいの~?かえろう!」
トウは不思議そうな顔をし、賑やかなのが好きなニコは、目を輝かせた。
その反応が面白くなかったのか、いじめっ子達はさらに野次りだす。
「トウマおまえいいのかよー!ブサイクイロハのおっとだぞ!?」
「なに!?」
その言葉にカチンときたトウは、いじめっ子達を睨みつけた。
それを見たいじめっ子達は、さらに続ける。
「や~いイロハのブサイク~!」
「ブ~~~~~ス!」
「ブ~サイク!ブ~サイク!」
いじめっ子達は、何度もニコに「ブサイク」と言い続けた。
するとニコは、声を上げて泣き出した。
「うえ~~~ん!!ニコ、ブサイクじゃないもん!!!」
「やめろよ!」
「うるせぇ!」
ニコを庇うトウを、いじめっ子の一人が突き飛ばした。
「ブサイクがリボンなんて付けるなよ~!」
そして別のいじめっ子が、ニコが付けていた水玉模様のリボンを奪うと、橋の上から川に投げ捨てた。
いじめっ子達はゲラゲラと嗤っている。
「ッ!」
それを見ていたトウは、その場から走り出した。
「トウ?まってー!」
泣きじゃくっていたニコも、トウの後を追った。
川へ続く階段を、ニコは一歩ずつ降りて行き、砂地に足を着けた。
近くに黒いランドセルが放ってあった。
川の方へ急ぐと、岸にずぶ濡れになって倒れているトウを見つけた。
「トウ!」
ニコはトウの元に駆け寄った。
幸いトウには意識があった。
「はぁ………はぁ………、はい、ニコ」
トウは起き上がると、ニコに濡れたリボンを差し出した。
ニコはそれを受け取り胸に当て、また泣き出した。
「ニコ、どうしたの?」
「だって!だって!………。トウがおぼれちゃうんじゃないかって!」
「ぼくはおぼれないよ。リボンもとってきたよ」
「トウ~~~!!」
トウはニコを、優しく抱き締めた。
水に入っていたトウの体は冷たかった。
2人はしばらく階段に座っていた。
トウの服も少し乾いていた。
綺麗な夕日が2人を照らす。
「なきやんだ?」
「うん」
ニコは涙を拭った。
「ねぇトウ。あのいじめっこたち、ニコたちのことカップルっていってた」
「カップルって、なに?」
「こいびとっていういみだよ。しょうらいけっこんするんだって」
「けっこん……。キスするんだよね?」
トウは少し顔を赤らめた。
「ねぇトウ」
「な、なに?」
「トウはしょうらい、ニコと、けっこんしてくれる?」
そう言ってニコは、トウの顔を覗き込んだ。
トウの答は決まっていた。
「うん!ぼく、ニコをおよめさんにする!しあわせにするよ!」
「トウ!……うれしい!ありがとう!」
ニコは、とても嬉しそうに笑った。
そんなニコのことをトウは、とても可愛らしく思った。
「………言ってたなぁ、こんなこと。何か恥ずいな」
目を開けたトウは、懐かしそうに笑った。
「あんな約束したのに、いつまで経っても変わらないニコが、だんだん疎ましくなっていた……。でもニコは、あの日のことを未だに覚えてるんだよな……」
トウは立ち上がった。
そして山中を再び歩き出す。
「待ってろニコ!必ず見つけ出してやる!そして一緒にこの山を出るぞ!」
トウとニコの昔話でした。




