50.目的の話
カイ、シロ、コユ、ショウ、クロの5人は、管理事務所の休憩所の席に座っていた。
昼食を食べ終えたものの、これといってやることがない。
「何もできることがないなんてね……。何ていうか、もどかしいわ」
コユはそう言って、今日何度目かの溜息を吐いた。
その時、カイのスマホの着信音が鳴った。
カイは慌てて通話に出た。
「もしもし!?トウか!?今どうしてんだ!?」
『………えっと、カイ?』
電話を掛けてきたのはアオだった。
カイは思わず苦笑する。
「なんだアオか」
『何かごめん。……その、ニコちゃんが心配で掛けたんだけど、今どうなってるの?トウ君にも何かあった?』
「あぁ。ニコを追ってトウまで山に入っちまって大変なんだ。変な化け物もいるしよぉ」
『変な化け物?』
「……いや、心配すんな!トウもニコもすぐ帰ってくるからな!お前は今は何も考えずにゆっくり休んどけ!なっ?」
『……………うん』
スマホから聞こえてくるアオの声は、明らかに沈んでいた。
「何かあったら俺から連絡する。それじゃあまたな!」
『うん』
カイはアオとの通話を切った。
それからカイは、わかりやすく落ち込む。
「はぁ……。何やってんだ俺………」
「いやいや、そう落ち込むなって!」
「アオちゃんを気遣ってのことだよね?少し失敗しちゃったようだけど」
ショウとクロがカイを励ました。
今のアオには、心を休める時間が必要なのだ。
「アオを巻き込むわけにはいかないし、これから何かやるってなったら、あたし達5人で動かないとね」
「そうだな。……つーかよぉ、そのアガリビトって奴は、あの2人に何かするのか?お前らの話からすると、トウを追ってったんだろ?」
ここでシロが、アガリビトについての疑問を述べた。
「ん?捕まえて喰うんじゃねぇのか?」
「あぁ、山で肉は貴重そうだしな」
カイとショウは、食糧化説を唱えた。
しかしコユが別の意見を出す。
「アンタら何想像してんのよ?………あたしがアガリビトだったら、山から出ないようにするわね」
「ん?何でだ?」
「仲間を増やすためよ。ここの山にいすぎたらアガリビトになっちゃうんでしょ?それまで粘ってるんじゃない?………まぁ、あたしの勝手な想像だけど」
「…………いや、もっと恐ろしい可能性が考えられるよ」
4人はクロに注目した。
クロは微笑しているが、その顔には焦りが混ざっていた。
「トウ君を追うのは食糧目的で合っているかもしれない。でも、ニコちゃんは違うよ」
「ニコは別の目的ってこと?」
「うん。……生き物には生殖本能が備わっている。アガリビトも幽霊とかの類いじゃないから例外ではないだろうね」
「……ちょっと、それって!」
「………これ以上は何も言わないでおこう」
また4人の顔が青ざめる。
目的がどれであろうと、2人はただでは済まない。
何も言わないと言いつつ、クロは心の中で続けた。
(アガリビトも元は人間。人間の女性との性交でも子孫は増やせるだろうね。しかもあれなら栄養を付けさせるために、肉を喰わせるなんてこともしかねない)
「…………いや、違うよな?」
突然カイがそう言い出した。
「トウがあんな変な奴に負ける訳がねぇ!絶対ニコを連れて帰って来るだろ!なぁ!?お前ら!」
カイはそう言うと、ニッと笑ってみせた。
「そうよね……」
「あいつ剣道やってるし、なんとかなるよな!」
「死んで帰ってきたらぶっ飛ばす……」
カイの言葉で、コユ、ショウ、シロに元気が戻ったようだった。
それを見て、クロは微笑む。
(そうだよね。あの2人はこれからなんだ)
「うゆぅ…………。こっち、やだ……………」
ニコは震えながら、歩く方向を変えた。
崖をよじ登ってくるアガリビトの恐ろしい顔が、未だに脳裏に浮かんでくる。
敏感なニコは嫌な気配を避けつつ、山の中を彷徨っていた。
「うゆ?」
歩き回っているうちに、ニコは巨大な木を見つけた。
根元が盛り上がっており、人が入れそうなスペースがある。
ニコはそこに駆け込んだ。
中は薄暗かった。
ニコはリュックサックを横に下ろし、根の壁に背中を付けて体育座りをした。
「怖いよ………。トウ、助けて……………」
ニコは膝元に顔を埋める。
瞳からは自然と涙が溢れた。
この話で50話です!




