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八百万  作者: マー・TY
第一章
5/115

5.中毒の話

 コユは、アオのことが少し気になっていた。

 もちろん恋愛的な意味ではなく、興味があるという意味で。

 アオはコユのクラスメイトで、おそらくクラスメイトどころか、学校中の男子が夢中になるくらいの美少女だ。

 コユが見たところ性格も良いので、性別関係無く好かれるタイプだ。

 そんなアオならスクールカーストの上位層にいてもおかしくないはずだが、彼女の性格上、そこにはいられないだろう。

 そんなアオの友人は2人。

 はっきり言って異色だ。

 1人は、精神年齢が幼稚園児から成長していないと思えるほどの幼さを持つニコ。

 そしてもう1人は、此所らの不良から恐れられる存在であるシロだ。

 実質幼児、実質不良。

 コユには、アオがどうしてこの2人と連んでいるのか、いまいちわからなかった。



 昼休み、コユは4人の友人と机をくっつけて食事を摂る。

 リーダー格のマリ。

 気の強いナオ。

 あざといチエリ。

 陰口が好きなアンナ。

 コユを含めたこの5人は、女子のグループの中では上位に位置している、所謂イケてるグループだ。

 男子の上位グループと共に、このクラスを支配していると言っても過言ではない。


「ニコだっけ?あいつ日之道たちと食ってるよ」


 ナオの言うとおり、ニコはアオ、シロの2人と食事をしていた。

 ニコとアオの会話に、シロがツッコミを入れるという状態になっている。


「……またあいつ?」


 マリは不服そうにしていた。


「日之道……。マジ何なのあいつ。うぜぇ」

 

「あ~言えてる!なんかあざといよね~」


「チエリがそれ言う?でも言えてるかも。シロを仲間にしてるのが、なんかねぇ」


 マリを筆頭に、アオへの悪口が始まった。

 平気で他人を傷つける。

 コユはこのグループの、そういうところが嫌いだった。

 とはいえ、4人とも中学からの付き合いなので、コユ自身ここを離れたくなかった。

 だからこういうとき、コユは止めに入る。


「止めなよ、アンタたち。あの子、悪い子じゃないでしょ?」 


「出た!コユの正義感!」


「またまたそんなこと言って~」


「どうせアンタもうざいって思ってんでしょ?」


 コユは溜息を吐いた。

 いつもこうだ。

 アオのことを、うざいだなんて思っていない。

 

(嫌なことにならなきゃいいけど)


 コユはそう思いながら、チョコレートを口に入れた。



 コユの嫌な予感は的中した。

 翌朝教室に入ると、アオの背中に目が止まった。


「なっ!?」


 アオの背中に紙が貼られていて、大きくこう書かれていた。


『セフレ募集』


 教室内がざわついている。

 コユはアオの元に急ぎ、その紙を思いっきり剥がした。


「わっ!?な……何?」


 アオは驚いて振り返った。


「………アンタ、いたずらされてたわよ」


「いたずら?」


 アオはコユが持っている紙の内容を見た。


「……セフレって、何?」


 どうやらアオはこのことについて無知なようだった。

 少し安心したコユだが、まだ終わらなかった。


「コユ、何してんの~?」


 2人の元に、マリたち4人が近づいて来た。

 チエリがクスクスと笑っている。


「これやったの、アンタたち?」


「は?知らないわよ。ねぇ?」


 マリはニヤつきながらそう言う。

 他の3人もまた、嘲笑っていた。

 その態度に、コユは怒りを覚えた。

 しかし、この4人を言い負かす言葉が出てこない。


「そうそう、日之道さん。アンタ、セフレの意味がわかんないの?」


「う……うん。何?お菓子?」


 アオがそう返すと、4人は爆笑した。


「キャハハハハハハw」


「それwサブレだろw」


「ヤッてそうなのにww」


 アオは困惑していたが、次第に顔が真っ青になっていく。


「……同じだ」


 と、小さな声で呟いた。

 足が震えている。


「止めなさいよ!!」


「はいはい。それじゃまた後でね。コユ」


「あ、ごめんw」


 マリたちはそう言って立ち去った。

 去り際にチエリがアオの脚を蹴った。

 アオはその場に転んでしまった。

 コユは深呼吸をして、アオをゆっくりと立たせた。

 

「大丈夫?ごめんね。うちの奴らが」


「……ううん。平気」


「顔色良くないけど?保健室行く?」


「大丈夫。ちょっと嫌なこと思い出しただけだから。優しいんだね」


「や……優しいって、そんな……」


 コユの頬が少し赤くなる。


「あ……あたし、霜野小雪。コユでいいよ。アオだよね?困ったらいつでも頼って」


「うん、ありがとう」


 可愛らしい笑顔に見送られ、コユは自分の席に戻った。

 そして、荷物を整理しているとき、コユはあることに気づく。


「あ……チョコ、忘れた」


 コユにとって、この時ほど焦ったことはなかった。



 気持ち悪い。

 コユがそう感じたのは、2時限目の授業のときだ。

 頭痛がして、所々体が痒い。

 それらはまだなんとかなるが、幻覚が見えだしてから厄介だった。

 10時を過ぎてからコユの目に、黒くグチャグチャしたものに真っ赤な目がいくつか付いた、化け物が見えるようになってきた。

 それが視線の端に写ったと思えば、目の前にいることだってある。

 コユはふと横を向くと、急に化け物が現れた。

 化け物はドロドロの液体を、口から吹き出して笑った。

 その液体が、コユの顔に掛かる。


「きゃあ!!」


 思わず出た悲鳴。

 クラスメイト全員がコユに注目する。


「どうした?霜野」


「あ………い、いえ。何でもないです。寝てました。すいません」


 コユは笑って誤魔化した。

 教師はコユに少し注意をして、授業を再開した。

 マリたちの小さな笑い声がする。

 きっと自分を嗤っているのだ。


(はぁ……。最悪)


 コユが見ているのは幻覚だ。

 化け物の粘液が実際に掛かったわけではない。


(チョコ忘れたせいだ。そうだ。購買にチョコサンド売ってたよね。それまで耐えよう。でもあれ結構人気だったはずなんだよね。買えるかなぁ?)


 コユの不安がだんだん大きくなっていった。



 昼休み、コユは購買部に急いだ。

 頭痛、痒み、幻覚がどんどん酷くなってきている。

 もう痒みには慣れたが、頭痛と幻覚は慣れそうにない。

 頭を抑え、視線を落として並んだ。

 そして、ようやく念願のチョコサンドを購入することができた。

 

(よかった。これがあれば今日は乗り越えられる!)


 しかし、そう思ったのも束の間。

 持っていたチョコサンドを引ったくられた。


「!?」


「へぇ。美味しそうなの持ってるじゃない。コユ」

 

 目の前にマリたち4人が立っていた。

 マリがチョコサンドをのパックの端を摘まんで、コユに見せびらかしている。

 

「マリ、それ……返して!」


 取り返そうとするが、躱されてしまう。

 ナオとアンナに両腕を摑まれて動けなくなってしまった。


「何?なんでそんな必死なわけ?そんなにこれが食べたいの?」


 目の前にいるマリとチエリが嗤う。


「お願い返して。それないとヤバいの。あたし」 


「確かに辛そうだねぇ☆マリちゃん、返してあげる?」


「そうねぇ。ただし条件があるわ」


 マリはその条件を、コユに告げた。



「アオ」


「あ、……コユちゃん、だよね」


 コユは教室に戻り、アオたちのグループに来ていた。

 目と頭を抑えて息を荒げるコユの姿に、アオは仰天した。


「どうしたの!?大丈夫!?」


「なんでもない。それよりアオ、あたしに付いてきて」

 

「え………?」


「いいから!お願い!」


 今にも泣きそう。

 アオはコユの声から、そう感じた。


「大丈夫なのか?」


「うん。シロ君、ニコちゃん、先に食べてて。ちょっと行ってくる」


 アオはコユと共に教室から出た。


「アオ、大丈夫かなぁ?」


「確かにやべぇかもな。よし……」


 シロとニコは、席から立った。



「ッ……!」


 背中を強く押され、アオは女子トイレの床に倒された。

 マリ、チエリ、ナオ、アンナが嘲笑いながらアオを見下ろしている。

 コユは相変わらず目と頭を抑えたままだ。

 アオは立ち上がろうとしたが、ナオに右腕を踏まれて阻止された。

 マリたちがアオの顔が見える位置まで移動する。


「アンタさぁ、自分がチヤホヤされてると思って調子乗ってるでしょ?マジウザいんだけど」


 そう言ってマリは、アオの顔を床に押しつけた。

 アオの顔に苦痛の表情が浮かぶ。


「シロなんか味方に付けてさぁ。気に入らない奴がいたらあいつに頼んでボコすわけ?」


「アオちゃんさぁ、もしかしてシロに身体でも売った?それであんな使えるボディガード手に入れたわけ?アオちゃん可愛いもんねぇ?そういうこと簡単だもんねぇ?」


「女子は嫉妬してるし、男子もどうせアンタとヤりたいとしか思ってないよ。可愛いそー」


 ナオ、チエリ、アンナもマリに続いてアオを罵倒する。

 チエリがアオの背中を踏んづけた。

 マリが続ける。


「ウチらさぁ、アンタのこと標的にするから。これからの行動全部気をつけてね。ウチらにかかればクラスの男子全員にアンタを襲うように命令することだってできるんだから。そうだ、手始めに……」


 マリは水が入ったバケツを、コユの目の前に置いた。


「コユ、これ、アオにぶっかけて。そしたらチョコサンド返してあげる」


「そんな!約束が違うじゃない!」


「別に断ってもいいよ?アンタが困るだけだけど」


 マリたちはアオとコユを嘲笑っている。

 アオをここに連れてくる。

 これが条件だったはずだ。

 しかしコユは、今度はいじめに加担させられようとしている。

 コユの体が震えだした。


「……違うよ」


 声がした。

 マリたちはアオに注目している。

 マリの手が離れ、顔を起こしたアオの声だった。


「シロ君は、友達だよ。だからシロ君は私を助けてくれるし、私だってシロ君を助ける。友達だから。もちろんニコちゃんも。私は、友達と仲良く過ごしたいだけ。それだけだよ」


 声は小さかったが、よく響いた。

 マリたちは茫然としていた。


「コユちゃん、水、掛けてもいいよ」


 その言葉にコユは驚く。


「よくわからないけど、それでコユちゃんが救われるなら、私は構わない。それに私、こういうのは慣れっこだったから」


 優しい声だった。


(………できない!!!)


 心の中で、コユはそう叫んだ。


(なんでこんな子をいじめられるの!?アオをいじめるくらいだったら、もう………)


 コユは頭と目を覆っていた手を、ゆっくりと外した。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 突然コユが叫び出した。

 トイレ中にコユの悲鳴が響き渡る。


「き、急に何!?」


「行こう!ヤバいよコイツ!」


「チッ、そんなに欲しけりゃくれてやる!」


 マリたちは女子トイレから出て行った。

 その際、チョコサンドをコユの頭に投げつけた。

 チョコサンドは床に転がった。


「コユちゃん……?」


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 コユは叫び続けた。

 アオは耳を抑えて困惑していた。


「アオ!」


「おい!どういう状況だ!!!」


 ニコとシロが女子トイレに駆け込んできた。


「わからないの!急に叫び出して!」


「もぉ!どうしたらいいの!?………あれ?チョコサンドだ!」


 ニコは、床に落ちていたチョコサンドを拾い上げた。


「エヘヘ。美味しそう!」


「お前、今それどころじゃねぇだろ!!」


「………チョコサンド?」


 アオは、先程のコユとマリのやり取りを思い出した。

 確か、自分をここに連れてきたら、コユはチョコサンドを貰えるのではなかったか。

 もしかして、チョコサンドで助けられるのでは?

 アオはそう考えた。


「ニコちゃん!それ頂戴!」


「うん、いいよーー!!!」


 ニコは素直に、チョコサンドをアオに渡した。

 受け取ったアオはパックを破り、中のチョコサンドを抜き出した。


「食べてみて、コユちゃん!!」


 アオは叫び声を上げるコユの口に、チョコサンドを入れた。

 すると、コユの悲鳴はピタリと止んだ。

 コユはチョコサンドを、夢中になって食べ始めた。



「はぁ……はぁ………。ありがとう。助かったわ」


 チョコサンドを完食したコユは、落ち着きを取り戻していた。

 頭痛や痒みは消え、幻覚も見えなくなっている。


「よかった。どうなるかと思ったよ」


「どういうことだ?お前の悲鳴は?」


「シロ?ここ女子トイレ……」


「うるせぇ!!ただ事じゃねぇってのにアオだけ置いておけるか!!!」


「じ、冗談だって。………それじゃあ、アンタたちになら話してもいいか」


 コユは、自身が持つ異常について語り出した。


「あたし、チョコレート中毒なんだ」


「チョコレート……中毒?」

 

「そう。そんなにチョコレートが好きってわけでもない。なんだけど、あたし、チョコレートが無いと普段の生活ができないというか……」


「それって、どういうこと?」


「あたし、3時間くらいに1回のペースでチョコを口にしないと、頭痛がしたり、全身が痒くなったり、幻覚が見えたりするんだよね。寝てる時は大丈夫なんだけど」


「叫んだのは何でだ?」


「結構ヤバいの見たからかな?あたし、今日チョコ持ってくるの忘れてたんだ。こんなこと初めで……。でも昼休みまでは耐えられそうだったから、チョコサンド買って食べようと思ったんだけど、マリたちに取られちゃって………。いつもの2回分抜くだけでここまでなるとは自分でも思わなかった」


「そっか。辛かったね」


「辛かったのはアンタもでしょ?ごめん!アンタのこと、いじめるところだった!」


「うん。もういいよ」


 アオは笑顔で許した。

 ここでシロがあることに気づく。


「そういや今のでチョコサンド完食しちまったよな?もうチョコねぇんじゃねぇか?」


「あっ!しまった!……はぁ。今日はもう早退しようかな?」


「大丈夫だよーー!」


 3人がニコに注目した。


「ニコ、いつもお菓子たくさん持ってきてるの!チョコレートもあるよ!後で分けてあげるよ!」


「ホントに!?……あ、ありがとう!!!」


 コユは泣いて喜んだ。


「で、お前、これからどうすんだ?」


「これから、どうするって……?」


「また連むのか?あんなクソ共と」


「いやクソ共って……」


 コユは少し考えたが、寂しそうな目をして言った。


「もうマリたちといるのはやめる。今回の件でもう連めそうにないし、あっちもあたしのこと歓迎しそうにないから。考え方が違ったんだよ。きっと」


「じゃあさ!ニコたちと友達になってよ!!」


「え………?」


「その方が楽しいよ!絶対!」


 友達が増えると思って、ニコははしゃいでいる。

 正直コユは、マリたちとの付き合いに限界を感じていた。

 しかし、アオたちのグループなら、なんとかやっていけそうだと感じた。


「そうね。アオ、ニコ、シロ、あたしを仲間に入れてくれない?」


「いいよ」


「やったーー!!」


「まぁ、アオとニコがいいならいいか」



 教室に戻ってから、コユは真っ先にマリたちのところに向かった。


「あ、コユ、落ち着いたの?」


「あれはヤバかったわー」


 マリたちはそう言って笑う。


「ねぇ、アオってムカつくでしょ?ウチらにあんな態度取ってさあ。放課後またシメに行かない?」


「………そのことなんだけどさぁ」


 コユはもう、決意していた。


「あたし、アンタたちと連むの、やめるわ」


「はぁ!?」


「あたし、アオたちと友達になったから」


 マリたちは唖然としていた。


「……裏切るわけ?」


「うん。もう絶好する。もうアンタらといるのに限界感じててさぁ。そのうえいじめもやるっていうんだから。もう付き合いきれないわ」


「俺も言いてぇことあるぞ」


 コユの背後から、シロが姿を現した。

 マリたちは、さらに困惑する。


「俺がアオに使われてるって?ふざけんなよお前ら。アオも、コイツもニコも、もう俺のダチなんだよ。上下なんてねぇんだ。だから俺のダチをいじめるってんなら、俺も黙ってねぇぞ?」


 声は静かだったが、はっきりと怒りを感じ取れた。

 シロに睨まれたマリたちは、声も出せずにいた。


「まぁ、そういうことだ。行くぞコユ」


「あ、シロ!」


 シロはコユを引っ張って、アオとニコが待つ机に戻った。


「どうだった?」


「さぁ?もう手ぇ出さねぇんじゃねぇか?」


「シロの忠告マジで恐かったんだけど」


「ああいうのは力で抑えんだよ」


「みんな!ご飯食べよ!お腹空いた!」


「そうだ、昼休み終わっちゃう!」


 アオたちは急いで昼食を摂り始めた。


(アオとシロって、友情厚いなぁ。あたしもこの3人、サポートしていかないとね!)


 コユは心の底からそう思った。

キャラ紹介


コユ

本名 霜野しもの 小雪こゆき

性別 女

学年 高校1年生

誕生日 2月9日

趣味 買い物 カラオケ

好きな食べ物 クレープ

嫌いな食べ物 イカの刺身


気が強く、言いたいことはハッキリ言うタイプ。

元スクールカースト上位だが、今回の件でアオたちの仲間に。

本人曰くチョコレート中毒で、チョコレートが無いと死んでしまうらしい。(チョコレートは好物ではない)

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