48.呼び声の話
「うゆぅ……。どうしよう。帰れないよぉ……。ここどこ?」
ニコは山の中で道に迷っていた。
どこを見ても木しかなく、こがらし公園へ戻るための手がかりも見つからない。
どうしようもなくなり、ニコは近くにあった倒木に座った。
「………まだ聞こえる」
ニコは何者かの呼び声を聞き、それに釣られて山に入った。
こがらし公園にいた時よりも声は聞こえてくるため、着実に声の主に近づいてきている。
“グ~~”
「うゆ………」
ニコの腹が鳴った。
スマホを見ると、昼食の時間になっていた。
「お腹空いた。もうここで食べちゃえ!」
ニコは背負っていたリュックサックを開け、弁当を取り出した。
ウキウキしながら蓋を開ける。
中身は、ニコが好きな魔法少女アニメのキャラ弁だった。
「いただきま~す!」
ニコは弁当を食べ始めた。
ふっくら甘い玉子焼き。
カリッとした食感のウインナー。
ウサギの形に切られたリンゴ。
食品で作られた魔法少女の顔を食べるのはもったいなくて気が引けたようだが、空腹には勝てずに食べてしまった。
「ごちそうさまでした!」
ニコは弁当箱の中身を、綺麗に完食した。
「美味しかった~!………でも、みんなと一緒に食べたかったなぁ~……」
本当は友人達と食べるつもりだった昼食。
しかし遠足にも関わらず、ニコの昼食は孤独なものだった。
「………そうだ!プリン!」
ニコはリュックサックに弁当箱を仕舞い、焼きプリンが入ったカップを取り出した。
ニコの母親がデザートとして入れたものだった。
「う~ん。……やっぱり後のお楽しみにしよ!」
そう言うとニコは、焼きプリンをリュックサックに戻した。
そして倒木から立ち、お尻を払う。
「元気出た!よ~~し!頑張るぞ~~~!!!」
ニコは再び歩き出した。
「こっちかな?……うん、こっち」
耳を澄ましながら、ニコは歩く。
ニコは声の主を捜していた。
声の主を見つければ何か解るかもしれない。
山から出る方法を知っているかもしれないと考えたのだ。
“お~~い………お~~い……………”
声はだんだんはっきり聞き取れるようになってきた。
もう少しだと思い、ニコは小走りになった。
「はぁ、はぁ、どこ~~?…………わぁっ!」
ニコは急に足を止めた。
目の前は谷底になっていた。
もう少し反応が遅ければ、真っ逆さまだった。
「うゆぅ……」
ニコは涙目で震えた。
ニコがいる位置から谷底までは、十数メートル離れている。
「お~~い!お~~い!」
「うゆっ!?」
声は谷底から聞こえていた。
ニコは恐る恐る谷底を覗く。
「お~~い!お~~い!」
谷底には、一人の男がいた。
男は古着に下駄と、一昔前の格好をしている。
ニコに気づくと笑顔を見せ、両手で手を振ってきた。
「お~~い!お~~い!」
「いた、あの人だ!」
「お~~い!お~~い!」
「お~~い!お~~い!」
男の笑顔を見たからか、ニコも楽しそうに男の真似をした。
男は嬉しそうな笑い声を上げる。
「ねぇねぇ!山から出る方法知ってる~~!?」
ニコは谷底の男に、早速質問してみた。
「お~~い!お~~い!」
しかし、男の動作は変わらなかった。
ニコはもう一度訊く。
「ニコ、山から出たいの!知ってたら教えて~~~!」
「お~~い!お~~い!」
それでも男は一連の動作を辞めない。
その後も何度か訊いたが、何の変化もなかった。
「知らないのかなぁ?」
ニコはしょんぼりとした。
その束の間────
「!?」
ニコはただならぬ気配を感じ取った。
谷底を見ると、灰色で全裸の男が歩いてきていた。
アガリビトだ。
「あれ………何………………?」
ニコはアガリビトのことは知らないが、それが危険なものであることは感じ取れた。
谷底の男もアガリビトに気づく。
先程の笑顔が恐怖に染まる。
「ひっ!……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男は悲鳴を上げて走り出した。
走る男は徐々に姿が薄れていき、そして消えてしまった。
「………お化けだったの?」
驚くニコを、アガリビトは谷底から見上げる。
そしてニヤリと笑うと崖に近づき、登り始めた。
ニヤつく血走った目が、ニコの怯える顔をしっかりと捕らえている。
「いやっ………やだ………………来ないでーーーーーーーーー!!!!」
あまりの恐ろしさに、ニコは逃げ出した。
谷底の男は、『洒落にならない怖い話』で掲載されていた、『谷底のアレ』という話を参考にしました。




