46.戻れない話
トウは木々の間を歩いて行く。
その道は、人一人分くらいの幅しか無かった。
(何だこの道……。ここから登山でもできるのか?ニコは何故こんなところを……)
しばらく歩くと、少し拓けた場所に出た。
その先には木製の橋が架かっている。
「古そうだな……。ちゃんと渡れるのか?」
そう言いつつ、トウは橋を渡った。
少し揺れただけで、大したことはなかった。
「ニコはこの先か?」
トウはニコを追って進んでいった。
最初の道よりは幾分か広い。
とはいえ、道の端から下は急な斜面になっており、足を踏み外せば真っ逆さまだった。
この山道には時折大木が倒れていて、トウはそれを見る度に乗り越えて進んでいった。
「………ニコの奴、見当たらないな……」
トウの方がニコより歩幅が広い。
ニコがこの道を歩いているなら、もう追いついていてもおかしくはなかった。
しかし、10分以上歩いても、ニコは見つからなかった。
「あいつ……この道を行ってないのか?それか最悪足を踏み外して落ちたか……」
思わず嫌な想像をしてしまう。
落ち葉で埋め尽くされた斜面の下で、足を折って泣いているニコの姿が目に浮かんだ。
「ッ……!」
トウはポケットの中のスマホを取り出し、カイ達に連絡を入れようとした。
しかし、スマホは圏外になっており、電話もできなければ、LINEでのメッセージも届かなかった。
「スマホで助けは呼べないか……。戻った方がいいな……」
そう言ってトウは、来た道を引き返した。
公園の管理人にウシガエルを引き渡したカイとショウは、管理事務所を出た。
そこでクロとばったり出会う。
「やぁカイ君にショウ君。楽しんでるかい?」
「あぁ!楽しいぞここ!」
「なんか開放的になれるんだよなぁ!」
「そっか。ほどほどにね。ところで、ニコちゃんがいなくなったって?」
「あぁ、そうだった」
シロからのLINEのメッセージを、クロも呼んでいたようだった。
カイもLINEを見た。
『大丈夫?』
シロからのメッセージの下に、新たなメッセージが表示されている。
アオからだった。
「アオちゃんも心配しているようだね。ところで、トウ君はどうしたんだい?」
「あいつ遠目にニコを見たらしんだ。それでニコを追って山の中に入ってったぞ」
「山の中?……それは良くないかも…………」
クロは深刻そうな顔をした。
カイが首を傾げる。
「どういうことだ?」
「この山には良くない噂がいくつかある。全部怪異関係なんだけど、中でも恐ろしいのは……。いや、トウ君が入っていったところは解る?」
「え?そりゃぁ見たけどな……」
「ひとまず、そこに連れて行ってくれない?」
カイとショウは、お互い顔を見合わせ、覚悟を決めたような顔をして頷いた。
そしてクロを連れて、トウが入っていった山への入り口に向かった。
「そろそろか?」
トウは着実に元来た道を辿っていた。
スマホが使えない以上、自分が生きて帰らなければ意味がない。
ニコを救うために、トウは動いていた。
(……ったく。“楽しい遠足”が台無しだ)
心の中で愚痴を言っていると、先程渡った橋に辿り着いた。
「ッ………………!?」
トウは思わず立ち止まる。
橋の前に、灰色の肌をした全裸の男が立っていた。
髪の毛は生えていない。
灰色の男は、橋の床部分を何度も殴っていた。
その度に、木が砕けるような音が響き渡る。
「何してるんだよ……」
トウは冷や汗を掻く。
さらに、木が折れるような音まで聞こえてきた。
灰色の男は砕いた部分を顔の部分まで持ち上げると、手を離した。
トウがいる方に架かっていた山側の橋の、丁度一歩目に位置する部分が落ち、橋の足場を担う木材の集合体が公園側の崖にぶち当たる。
灰色の男は、橋を壊してしまったのだ。
「嘘だろ……?」
灰色の男は、トウの方を振り返る。
血走った目をトウに向け、黄ばんだ歯を見せてニヤリと笑った。
「トウ!」
「トウ君!」
公園側から、カイ、ショウ、クロの3人が走り込んできた。
「橋が……」
「何だよあいつ!」
「………遅かったか」
3人は落ちた橋と、山側で対峙しているトウと灰色の男を見て驚愕していた。
灰色の男は、ゆっくりとトウの方に近づいてきた。
「くっ………!お前ら!助けを呼んでくれ!」
橋を破壊するような相手に、戦って敵うとは思えなかった。
トウは公園側にいる3人にそれだけ伝え、自分は山の方へ走り出した。
灰色の男が今回の章の敵ポジションです。




