44.道中の話
遠足当日。
隠神高校の1年生は、それぞれのクラスのバスに乗って目的地に移動していた。
「ニコ、チョコチップクッキー持ってきたの!コユ、食べる?」
「いいの?ありがとう」
ニコはリュックサックからチョコチップクッキーの袋を取り出し、コユに差し出した。
コユは袋に手を入れ、チョコチップクッキーを1枚取り出し、口に入れた。
焦げ茶色の生地のほろ苦さと、チョコチップの甘さが口内に広がる。
「そんなに好きって訳じゃないけど、やっぱチョコって美味しいわね。自分のこの病気が無ければ普通に楽しめそうだけど」
コユは一定時間内にチョコレートを摂取しなければ、痒みや頭痛、幻覚が見えるという症状に悩まされている。
一度チョコレートを学校に持ってくるのを忘れた日に、コユはニコ達と仲良くなった。
その日からコユはチョコレートの常備を忘れていないが、ニコは毎日のようにチョコレートを持ってくるようになった。
「チョコレート美味しいよね!幸せ~♪」
ニコも口の中にチョコチップクッキーを入れた。
サクサクと咀嚼しながら、窓の外を見る。
バスは山道に入っており、辺りは木が生い茂っていた。
バスは遠足の目的地である“こがらし公園”に向かっている。
「コユ!こがらし公園ってどんなところ!?」
「山の上の広い公園らしいわね。花が沢山植えられてるそうよ」
「お花!アオ喜ぶ!?」
「花を見て気分悪くする子なんていないんじゃない?まぁ、アオって花好きそうじゃん?写真撮ってLINEで送ろうか」
「うん!いっぱい撮る!」
「シロも付き合わせないとね」
この会話には参加していないが、シロはニコ達から離れた座席にちゃんと座っている。
ただ黙って窓の外を眺めており、彼の隣の座席の男子はビクビクしていた。
一方こちらは、1年1組の生徒達が乗るバス。
トウはぼんやりと窓の外を眺めていた。
「トウどうした~?」
「遠足楽しみじゃなかったか~?」
前の座席から身を乗り出したカイと、隣の座席のショウが、トウに話しかけた。
トウは顔を2人に向ける。
「いや、木しかねぇなって……」
「そりゃそうだろ。こがらし公園は山の上にあるんだぞ!」
そう言うとショウは、こがらし公園について語り出した。
どうやら事前に調べてきたらしい。
トウは呆れた顔をする。
「お前、こんな時だけ予習するのか?」
「おぅ!遠足楽しみじゃない奴なんていねぇだろ!なぁカイ!」
「ははは!そうだな!アオにお土産買って帰らねぇと!」
カイはケラケラと笑った。
やはりと言うべきか、アオは今日の遠足を休んだ。
「……にしても、窓側になったのに木ばっかじゃ退屈だなぁ」
言葉通りカイは、退屈そうに窓の外を見てそう言った。
そこで再びショウが喋り出す。
「そんじゃ着くまで俺が、お得意の怖い話してやるよ!」
「怖い話?」
ショウはこの手の話題に詳しい。
人気動画サイトでも自身のチャンネルを持っており、怖い話をよく取り扱っている。
「山ってな、怖い話の宝庫って言っていい程そういう話がたくさんあるんだ!その中でも有名な話するから、聞いてってくれ!」
「おっ、いいな!話せ話せ!」
カイがショウを煽ると、他のクラスメイト達も注目した。
「怖い話?」
「おもしろそう!」
「聞かせて聞かせて!」
「よ~し!そこまで言うなら話してやろう!これはある男性が、娘と山道をドライブしていた時の話だ!」
ショウはすっかりテンションが上がったようで、意気揚々と話し始めた。
(ショウの奴、ビビりのクセに好きだよな、そういうの。つーか怖い話のテンションじゃないだろ)
呆れたトウは、再び窓の外を眺めた。
たくさんの木を通り過ぎていくという光景が繰り返される。
それをつまらなく感じていたトウは、ある違和感を見逃さなかった。
「ん?」
視界に一瞬、木と木の間から顔を出した、灰色の人間のようなものが映り込んだ。
それが何なのか確認する前に、トウ達が乗るバスは既にそれがいた場所を通り過ぎてしまっていた。
「………気のせい……か?疲れてんのかな………」
トウは目を擦りながらそう呟いた。
バスは走り続ける。
この山が次の事件の舞台になることを、トウはまだ知らない。
ニコの好物はプリンですが、その他のお菓子もよく食べます。




