42.楽しみな話
「─────どうだ?行けそうか?」
科学準備室。
自分の耳に受話器を当てた司波は、通話相手であるアオにそう訪ねた。
アオは残念そうな声色で応える。
「ちょっとまだ……怖いんです。……すみません」
「いや、無理すんな。別に授業とか関係ないしな。しっかり休め。休みすぎたら単位に響くだろうが、まぁ、お前の成績なら問題ないだろう。自習はしてるか?」
「はい、頑張ってます」
「復帰してから授業に着いて来られるようにな。そんじゃあまた、学校でな」
「はい。ありがとうございました」
通話が切れたのを確認すると、司波は受話器を置いた。
そして溜息を吐く。
「日之道…………兄と区別つけるためにアオと呼ぶか。アオ救出、村山死亡から5日しか経ってねぇってのに……。簡単に切り替えられるかっての」
司波は机の上のプリントを手に取った。
その内容は、隠神高校の行事のひとつである、遠足についてのものだった。
「遠足楽しみだな~」
そう言ってニコは、満面の笑みでメロンパンに齧りついた。
遠足のことが待ち遠しいようだ。
「呑気だなお前……」
「見習いたいわ」
ニコと机をくっつけているシロは呆れ顔をし、コユは苦笑いをしていた。
今日は教室で昼食を摂っていた。
アオがいないせいか、どこか物寂しい。
「アオ来れるかなぁ?遠足」
「いや、難しいんじゃねぇか?」
シロは難しい顔をして応える。
「あの時、アオが病院行くのにカイと付き添ったけどよぉ、あいつ怯えっぱなしで会話どころじゃなかったぞ」
「村山から外が怖くなるように調教されたのよね」
「じゃあ、来られない?」
ニコはすっかりへこんでしまった。
アオに受け入れられてから、ニコはアオのことが好きなっていたのだ。
落ち込むニコの頭を、コユは優しく撫でる。
「そうは言ってないでしょ?放課後アオの顔見に行くわよ。美術部自由だし、行けるでしょ?」
「!!……うん!!!」
ニコは満面の笑みで頷いた。
「どう育ったらここまで純粋になるんだよ」
シロは溜息を吐いて呟いた。
放課後、ニコ、シロ、コユの3人はカイと合流し、日之道家を目指していた。
「アオって今、家で何してるわけ?」
「読書と自習しかしてねぇよ」
「へぇ。偉いわね」
「ずっと部屋の中ってのもなぁ。寧ろ病気になるだろあいつ」
「えぇ!?アオ大丈夫かなぁ!?」
「大丈夫だって。あいつあぁ見えて強いんだぞ」
他愛もない会話で盛り上がっているうちに、日之道家に到着した。
カイが家のドアを開ける。
「ただい──!?」
玄関に、アオが蹲っていた。
頭を抑えて震えている。
入ってきたニコ達も驚く。
「アオ!どうしたんだよ!?」
「アオ!」
リビングの方から、サラが駆け寄ってきた。
アオを立たせて玄関から遠ざける。
「焦らなくていいの。少しずつ治していかないと」
「うん。……ごめんなさい」
アオは弱々しい笑みを浮かべて謝った。
アオの部屋に来た4人は、アオから事情を聞いた。
どうやら、一人で家から出られる訓練をしていたようだった。
「無茶するわねアンタ」
「ありがとう」
「褒めてないわよ!」
アオの天然な返しに、コユがツッコむ。
そんな中、ニコは浮かない顔をしていた。
「どうしたんだ?ニコ」
「アオ、やっばり遠足行けないの?」
ニコの質問を聞いたアオは、困ったような笑みを浮かべた。
「ごめんね。行きたいんだけど、今のままじゃ、きっとみんな楽しめないよ」
「うゆ……」
「司波先生からも遠足について電話が来て、それで出られるかどうか試したんだけど、やっぱりまだ怖いなぁ……」
「うゆぅ…………」
ニコはまた落ち込んだ。
そんなニコを見かねたアオは、ニコを優しく抱き締めた。
「ありがとね、ニコちゃん。私は行けないけど、その代わり、遠足から帰ってきたら、思い出たくさん聞かせてね」
「うゆぅ……」
「遠足は1年生の時だけじゃないよ。来年は一緒に行こう。だからさ、そんな顔しないでよ。私は笑顔のニコちゃんが好きだなぁ」
「うゆ……。うん、わかった」
ニコは微笑んで応えた。
「よ~し。じゃあ、もっと笑顔になるために、こちょこちょタイムだ~!」
そう言うとアオは、ニコの体を擽り始めた。
「ニャハハハ!やめて!くすぐったいよ~!」
ニコは涙を流して笑い転げた。
そんな様子を見て、3人も釣られて笑った。
ちなみに、アオはニコのことを妹のように思っています。




