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八百万  作者: マー・TY
第三章
41/115

41.差し伸べる話

「ぐっ……ごほっ………………」


「…………」


 アオは村山の首に、どんどん力を加えていった。

 村山はアオの手を引き剥がそうと試みる。


「…………」


 無表情で首を絞めるアオの手は、徐々に離されていく。

 力自体は変わらないようだった。

 村山は自身の体を横に転がした。

 体勢を崩したアオは、床に転がる。


「はぁ……はぁ…………。やりますねアオさん。………おや?」


 息を整えて村山は顔を上げたが、視界からアオは消えていた。

 その代わり寒気を感じ、村山はその場をすぐに移動した。


“ドンッ!!”


 今し方村山がいた位置に、アオが椅子を振り下ろした。

 あと一歩遅ければ、村山の頭に直撃していただろう。

 村山は立ち上がり、アオと向かい合った。


「殺す気まんまんですねぇアオさん」


「………」


「すっかり目の色が変わっていますね。あの時見せた闇の広がり。あれは見間違いではなかったようです」


 この状況でも、村山はまだ笑っていた。

 アオもまた、変わらぬ目つきで村山を見据える。

 テーブルの上にある、食パンが載った皿が目に入った。

 アオは食パンを他の皿に置き、空の皿を片手で掴むと、躊躇なく村山の顔目掛けて投げつけた。


「ッ!」


 村山は反射的に両腕でガードした。

 当たった皿が、足下に落ちて割れる。

 アオの攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 椅子を盾にして、村山に体当たりをした。


「ぐあっ!」


 庭へ続く、カーテンが掛かったガラス製のスライドドア。

 体当たりを諸に食らった村山は、そこに背中を打ちつけた。

 その際に、持っていたスタンガンを床に落とす。


「!!」


 追撃は終わらない。

 アオは両手で椅子を振り上げて、村山の顔面目掛けてフルスイングをした。

 村山は間一髪でそれを避ける。

 勢い余った椅子がスライドドアに当たり、ガラスにひびが入った。




 外にいる8人にも、中の音が聞こえていた。


「何が起きてるの?」


「中で乱闘でもしてるのかな?」


 カイとシロが庭に入った。

 家中カーテンが掛かっていて、庭からでも中の様子が見えない。

 しかし、スライドドアの状態は確認できた。


「ひびが入ってるぞ!」


「ならやることは一つだなァ!!!」


 シロはガラス製のスライドドアのひびに蹴りを入れた。

 しかし、余程頑丈なようで、割れることはなかった。

 とはいえ、ひびは広がっている。


「せーのでいくぞ!」


「あぁ!」


 カイもシロに加勢する。


「「せーの!!」」


 2人同時に蹴りを入れた。

 ガラスは粉々になり、家の中に飛び散った。

 残る6人も、庭に集まってきた。


「割ったか!」


「行こうぜシロ!」


「あぁ!」 


 2人は割れたガラスに戸惑うことなく、中に侵入した。

 入ってから、2人は驚く。

 中では、額から血を流す村山と、椅子を構えるアオが向かい合っていた。


「おやカイ君にシロ君。入ってきてしまいましたか」


 村山の目線がカイ達に向けられたのを、アオは見逃さない。

 村山に急接近し、椅子を下から上に振り上げた。

 椅子は村山の腹部に命中する。


「ぐふっ……。油断しましたね」


「アオ……お前何やって………」


 アオは膝を着いた村山の頭に、椅子を振り下ろそうとしていた。


「アオ待て!!!」


 カイはアオの目の前に立ち塞がり、椅子で殴らせないよう抑えた。

 その時、アオと目が合う。

 それは、カイが知るアオの目ではなかった。


「お前……誰だよ…………?」


 カイもシロも、驚きで動けずにいた。

 そこに司波が入ってくる。


「何だこの状況は……?」


「………これはまずいですね。退きますか」


 分が悪いと踏み、村山はリビングから逃げ出した。


「待て!村山!」


 司波は村山の後を追いかけていった。




「アオ!おいアオ!」


「……………ん」


 カイに肩を揺さぶられ、アオは目を覚ました。

 カイ、シロ、ニコ、コユ、トウ、ショウ、クロ。

 視界にこの7人が映った。


「カイ……。シロ君……………。みんな…………」


「よかった!やっと会えたなぁ!!」


 カイはアオを抱き締めた。

 アオの体の痣を見て全員心配していてたが、アオが正気に戻ってからは安堵した。

 アオはカイの肩に顔を埋めて泣いた。


「ごめんね。……いなくなってごめんなさい……」


「何謝ってんだよ。悪いのは村山だろ?ごめんって言うなら、そんなになるまで見つけられなかった俺達もだ」


 カイはアオの頭を優しく撫でた。

 しばらくして、村山の家に警察が到着した。

 複数の警察官が村山の家の中に入り、捜査の準備を始めていく。

 地下室に囚われていたガレンも救出された。

 女性の刑事が、アオに上着を掛ける。

 警察の判断により、アオはこれから病院で検査を受けることになった。


「日之道さん、行きましょう」


「ッ……!」


 女性刑事に握られた手を、アオは離した。


「日之道さん?」


「ご、ごめんなさい……。外が怖くて………」


 床に両膝を着いたアオは、その場で震える。

 女性刑事は困り果ててしまった。

 無理矢理連れ出す訳にもいかない。


「アオ?」


「どうした?」


 先に外に出ていてカイとシロが、再び中に入ってきた。


「あ、コラ君たち!」


「まぁまぁ、ここはコイツらに任せとけって」


 ガレンが女性刑事の肩に手を置き、ニッと笑った。

 牢獄に閉じ込められていたとは思えないような表情だった。

 

「アオ、何か怖いものでもあんのか?」


「うん。……私、変になっちゃったみたい。外が怖いんだ」


「そっか。怖いならさ、手ぇ繋いでいこうぜ」


 カイはアオに手を差し伸べた。


「なんか襲ってきたら俺らが守ってやるよ」


 シロも微笑んで、手を差し伸べる。


「カイ………。シロ君…………」


 アオは胸に手を当て、呼吸を整えた。

 そして頷き、右手でカイの手を、左手でシロの手を握り、立ち上がった。




 家の裏口から逃げ出した村山は、塀に手を置き、息を荒げていた。


「はぁ……はあ…………。こんなに走ったのはいつぶりでしょうか」


 村山は顔を上げ、歩き出した。


「どうやら彼らを甘く見ていたようです。捕まるのも時間の問題ですかね?ですが、アオさんのあの、虚ろで美しい瞳が見られて良かったです。……そうですね。機会を窺い、取り返すとしましょうか……」


「諦めが悪いなぁ」


 突然背後から話しかけられた。

 振り向くと、そこには赤い狐の仮面をした人物が立っていた。

 右手にナイフを持っている。


「殺人鬼…赤狐ですか」


「今のを聞いて思ったよ。やっぱりアンタは殺さなきゃ。ねぇ、村山先生」


「………もしかして君は、私の生徒ですか?」


 そう問われた赤狐は、仮面を外した。

 冷めた目つきのレオンの顔が現れた。


「灰崎君でしたか。なるほど。どこかで聞いたことがある声だと思いました」


「僕はアンタみたいなのを殺すためにいる」


 レオンは仮面を付け直し、赤狐に戻ると、ナイフで村山の首を切り裂いた。

 村山は口角を上げて目を見開き、背中から倒れた。


「村山!!」


 背後から司波の声が聞こえたのを確認すると、赤狐は走り去っていった。

 司波が駆けつけた頃には、血溜まりの中で村山は絶命していた。




 事件から3日後、シロは日之道家を訪ねた。

 サラに招き入れられ、シロは2階のアオの部屋にノックをして入った。


「あ、シロ君いらっしゃい」


 パジャマ姿のアオは、ベッドで読書をしていた。

 病院に行った後、アオはしばらく自宅療養をすることになった。

 村山から受けた調教の効果を、少しずつ治していくという。

 病院からの帰りはガレンが運転する車に、カイ、シロと一緒に乗った。

 家に着くとサラが出迎え、アオを抱き締めた。

 泣きながら何度も謝っており、アオもサラの胸の中で思いっきり泣いていた。

 家族の時間を邪魔してはならないと思い、シロはその日こっそり帰宅した。


「調子はどうだ?」


「いいかも。傷も癒えてきてるし。……外はまだ、ちょっと怖いけど、……少しずつ慣れていくよ」


「そうか」


「早く学校にも行けるようにしないと……」


 昨日はシロだけでなく、ニコ、コユ、トウ、ショウ、クロの5人も見舞いに来た。

 そこでアオは全員に助けてくれたお礼を言った。

 皆、「気にするな」「早く元気になってね」「一緒に学校行きたい」と、口々に言って、アオを元気づけた。

 アオはその時、嬉しくてまた泣いた。


「本当にありがとう。私、あのままだとどうなっていたか……」


「もういい。ダチを助けんのは当たり前だろ。俺の方こそすまない。次は守ってみせる」


「シロ君こそ、もういいって」


 アオもシロも、顔を見合わせて笑った。

 アオは、素敵な仲間に巡り会えたことを、嬉しく思った。

これで第三章終了です。

次の章は、別のメインキャラ2人に焦点を当てたいと思っています。

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