40.目覚める話
「アオさん、ガレンさんに食事は与えましたね?」
「はい……」
「私の言いつけは守っていますか?嘘を吐いても解りますからね?」
「……はい」
今日は休日。
村山とアオは食卓を囲んでいる。
この日村山は、自宅で仕事を終わらせることにしていた。
「それにしても、今日一日あなたと過ごせるとは感激ですねぇ。実はあなたに着てもらいたい服が他にもあるんですよ。あなたが着ているそれも血で汚れてしまってますからねぇ」
「……そうですか」
アオの声には抑揚が無かった。
村山はそれに気づく。
「おや?元気がないですねぇ。出させてあげましょうか?」
「!……あ、あります!元気あります!」
アオは精一杯自身の元気をアピールした。
無理矢理笑顔を作り、村山に見せた。
「フフフ。冗談ですよ。今のアオさん、なかなかキュートでしたよ」
「あ……はは……。ありがとう、ございます……」
「無理に笑おうとしているのが健気ですねぇ。私はずっと、そんなあなたが欲しかったんですよ。私好みの、動く人形がね」
「人……形………?」
その言葉に、アオは凍りついた。
今さらながら、自分が人間として見られていないことを理解する。
「大事なものだというのに。傷つけてしまってすみませんねぇ。あなたが地下室の4人とは違ったもので」
「……何が、……違ったんですか?」
「地下室の4人は私に好意を持っていましてね。簡単に私の言いなりになってくれたのですが、あなたはそうではなかったでしょう?」
「……あの4人を……どうして、殺したんですか?」
「簡単ですよ。彼女達と接していると、飽きが来るんです。でも手放すのもあれなので、人形にしてみたんです。そしたらそれがなかなか楽しいんですよ」
「…………」
「大丈夫です。あなたは生かしますよ」
村山はそう言って不気味に笑った。
「生かす」なんて言葉を信用できなかった。
いつかは自分も飽きられるだろう。
それから殺されて、ショーケースの中で人形として何年も過ごすのだ。
アオは自分の行く末を想像し、恐れおののいた。
その時だ。
「アオーーーーーーーー!!!!」
聞き覚えのある声が、アオの耳を刺激した。
「アオーーーーーーーー!!!!」
「馬鹿!叫ぶな!」
カイ、シロ、トウ、ニコ、コユ、ショウ、クロ、そして司波。
この8人が、村山の家の前にいた。
「本当にここで合ってるのか?」
司波がショウに確認を取った。
「あ、はい。レオンから送られてきた写真によるとここッス」
ショウはスマホを見て応えた。
実は、カイ達が動いている間、レオンも密かに行動しており、何度も村山のことを探っていた。
そして昨日、村山の家の写真がカイのスマホに送られてきた。
それからショウがそれを元に住所を暴き、今に至る。
「まずは警察だな」
司波がスマホで警察に連絡している間、カイとシロはアオを呼ぶ。
「アオ!そこにいるか!?」
「アオーーーー!!!返事しろーーーー!!!!」
「おや、ついにバレましたか?」
こんな時でも村山は笑っていた。
「アオさん、地下室に行きなさい。絶対に出てきてはいけませんよ?ガレンさんにも内密に」
アオが見つからなければ、自分はまだ助かる。
どうせあっちには決定的な証拠はない。
村山はそう考え、アオに命令した。
しかしアオは動かなかった。
放心状態になっているようだった。
「アオさん?お仕置きされたいのですか?」
「ッ!……わかりました」
さっさと行かなければお仕置きを受ける。
それはわかっているのに、足が上手く動かない。
「アオーーー!聞こえるかーーーー!?」
「アオ!お前そこいるんだろ!」
再び聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……………!」
村山からの調教で忘れていた。
アオはその声が、自分にとって大切な人達のものであることを思い出した。
「…カイ……シロ君………」
その瞬間、アオの体が動き出した。
リビングの窓に駆け寄ると、ガラスを叩きながら力の限り叫んだ。
「ここだよ!!!!私はここにいるよ!!!!」
「おい、今の!」
「あぁ。アオの声だ!」
「アオーーーーー!!!」
家の中のアオの声は、外の8人にしっかり届いていた。
窓ガラスを叩く音もする。
「みんな助けて!!!私は─────」
しかし突然声が、パッタリと止んでしまった。
カイ達はそれに動揺する。
「アオ!?どうしたアオ!!!」
「困りますねぇアオさん!」
村山はアオを後ろから羽交い締めにし、その口を塞いでいた。
後退してアオを窓から離す。
村山は猟奇的に笑っていて、丁寧な口調ではあるが、語気は強くなっていた
「───────!!」
「完全にバレてしまいました。どうしましょうかね!?」
村山はアオを突き飛ばした。
床に倒れたアオは、村山を睨みつける。
「ほぉ、まだそんな表情もできましたか」
「私は、あなたの都合の良い人形なんかじゃありません!帰ります!みんなと一緒に!」
「外に出られますか?」
「!!」
アオは言葉を詰まらせた。
村山はニヤリと笑い、右ポケットに手を入れてアオに近づいていく。
「完全には解けてませんねぇ。外がどれだけ怖いか教わったでしょう?」
村山はそう言うと、ポケットからスタンガンを取り出して、アオの胸に当てた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア─────!!!!」
「フフフ……」
村山がスタンガンを離すと、アオは倒れた。
完全に気を失っていた。
「まだ死んでませんよね?どうせ逃げるなら殺しましょう。私の中で生き続けなさい」
村山はアオの首に手を掛けた。
その時、テーブルの上のスマホから着信音が鳴った。
村山は立ち上がると、電話に出た。
入り口も何もない、小さな小部屋。
そこにアオは倒れていた。
「帰らなきゃ………。みんなのところに………。帰らなきゃ………」
そう呟くものの、体は動かず、まぶたがだんだん重くなっていく。
「…………」
ネムはそんなアオの目を、静かに覆った。
「帰らなきゃ………。帰……らな……………きゃ………。………………」
涙混じりの声で呟きながら、アオは眠りに就いた。
ネムはそれを確認すると立ち上がり、虚ろで暗い目で天井を見上げた。
『村山か?』
「司波先生、どうされましたか?」
村山は司波と通話を始めていた。
『今お前ん家の前にいる。日之道を連れて大人しく出てこい。今ならお前の罪が軽くなるよう証言してやる』
「それはできないですねぇ。あなたがいくら証言しても無駄でしょうし」
『どういう意味だ?』
「それくらい世間から見れば、悪いことをしてるんですよ。私は」
「………日之道の声が急に聞こえなくなったぞ。お前何した?」
「ちょっと眠ってもらいました。今から殺そうとしています」
『何だと!?』
司波の焦ったような声がする。
それに反応したかのように、玄関のドアが乱暴に叩かれる。
カイ達の怒鳴り声も聞こえてきた。
『ふざけるな!やめろ!!!』
「ではまた」
村山は通話を切り、スマホをテーブルに置いた。
「さて、待たせましたね、アオさ────」
突如アオが村山に飛び掛かってきた。
村山は咄嗟のことで動けず、そのまま仰向けに倒された。
そしてアオは村山の胸部分に跨がり、両手で首を絞め始めた。
「ぐあっ!!」
「……………」
アオは無言で村山の顔を見つめる。
その目は虚ろで暗かった。
第三章もいよいよクライマックスです。




