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八百万  作者: マー・TY
第三章
40/115

40.目覚める話

「アオさん、ガレンさんに食事は与えましたね?」


「はい……」


「私の言いつけは守っていますか?嘘を吐いても解りますからね?」


「……はい」


 今日は休日。

 村山とアオは食卓を囲んでいる。

 この日村山は、自宅で仕事を終わらせることにしていた。


「それにしても、今日一日あなたと過ごせるとは感激ですねぇ。実はあなたに着てもらいたい服が他にもあるんですよ。あなたが着ているそれも血で汚れてしまってますからねぇ」


「……そうですか」


 アオの声には抑揚が無かった。

 村山はそれに気づく。


「おや?元気がないですねぇ。出させてあげましょうか?」


「!……あ、あります!元気あります!」


 アオは精一杯自身の元気をアピールした。

 無理矢理笑顔を作り、村山に見せた。


「フフフ。冗談ですよ。今のアオさん、なかなかキュートでしたよ」


「あ……はは……。ありがとう、ございます……」


「無理に笑おうとしているのが健気ですねぇ。私はずっと、そんなあなたが欲しかったんですよ。私好みの、動く人形がね」


「人……形………?」


 その言葉に、アオは凍りついた。

 今さらながら、自分が人間として見られていないことを理解する。


「大事なものだというのに。傷つけてしまってすみませんねぇ。あなたが地下室の4人とは違ったもので」


「……何が、……違ったんですか?」


「地下室の4人は私に好意を持っていましてね。簡単に私の言いなりになってくれたのですが、あなたはそうではなかったでしょう?」


「……あの4人を……どうして、殺したんですか?」


「簡単ですよ。彼女達と接していると、飽きが来るんです。でも手放すのもあれなので、人形にしてみたんです。そしたらそれがなかなか楽しいんですよ」


「…………」


「大丈夫です。あなたは生かしますよ」


 村山はそう言って不気味に笑った。

 「生かす」なんて言葉を信用できなかった。

 いつかは自分も飽きられるだろう。

 それから殺されて、ショーケースの中で人形として何年も過ごすのだ。

 アオは自分の行く末を想像し、恐れおののいた。

 その時だ。


「アオーーーーーーーー!!!!」


 聞き覚えのある声が、アオの耳を刺激した。

       



「アオーーーーーーーー!!!!」


「馬鹿!叫ぶな!」


 カイ、シロ、トウ、ニコ、コユ、ショウ、クロ、そして司波。

 この8人が、村山の家の前にいた。


「本当にここで合ってるのか?」


 司波がショウに確認を取った。


「あ、はい。レオンから送られてきた写真によるとここッス」


 ショウはスマホを見て応えた。

 実は、カイ達が動いている間、レオンも密かに行動しており、何度も村山のことを探っていた。

 そして昨日、村山の家の写真がカイのスマホに送られてきた。

 それからショウがそれを元に住所を暴き、今に至る。


「まずは警察だな」


 司波がスマホで警察に連絡している間、カイとシロはアオを呼ぶ。


「アオ!そこにいるか!?」


「アオーーーー!!!返事しろーーーー!!!!」




「おや、ついにバレましたか?」


 こんな時でも村山は笑っていた。


「アオさん、地下室に行きなさい。絶対に出てきてはいけませんよ?ガレンさんにも内密に」


 アオが見つからなければ、自分はまだ助かる。

 どうせあっちには決定的な証拠はない。

 村山はそう考え、アオに命令した。

 しかしアオは動かなかった。

 放心状態になっているようだった。


「アオさん?お仕置きされたいのですか?」


「ッ!……わかりました」


 さっさと行かなければお仕置きを受ける。

 それはわかっているのに、足が上手く動かない。


「アオーーー!聞こえるかーーーー!?」


「アオ!お前そこいるんだろ!」


 再び聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……………!」


 村山からの調教で忘れていた。

 アオはその声が、自分にとって大切な人達のものであることを思い出した。


「…カイ……シロ君………」


 その瞬間、アオの体が動き出した。

 リビングの窓に駆け寄ると、ガラスを叩きながら力の限り叫んだ。


「ここだよ!!!!私はここにいるよ!!!!」




「おい、今の!」


「あぁ。アオの声だ!」


「アオーーーーー!!!」


 家の中のアオの声は、外の8人にしっかり届いていた。

 窓ガラスを叩く音もする。


「みんな助けて!!!私は─────」

 

 しかし突然声が、パッタリと止んでしまった。

 カイ達はそれに動揺する。


「アオ!?どうしたアオ!!!」




「困りますねぇアオさん!」


 村山はアオを後ろから羽交い締めにし、その口を塞いでいた。

 後退してアオを窓から離す。

 村山は猟奇的に笑っていて、丁寧な口調ではあるが、語気は強くなっていた


「───────!!」


「完全にバレてしまいました。どうしましょうかね!?」


 村山はアオを突き飛ばした。

 床に倒れたアオは、村山を睨みつける。


「ほぉ、まだそんな表情もできましたか」


「私は、あなたの都合の良い人形なんかじゃありません!帰ります!みんなと一緒に!」


「外に出られますか?」


「!!」


 アオは言葉を詰まらせた。

 村山はニヤリと笑い、右ポケットに手を入れてアオに近づいていく。


「完全には解けてませんねぇ。外がどれだけ怖いか教わったでしょう?」


 村山はそう言うと、ポケットからスタンガンを取り出して、アオの胸に当てた。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア─────!!!!」


「フフフ……」


 村山がスタンガンを離すと、アオは倒れた。

 完全に気を失っていた。


「まだ死んでませんよね?どうせ逃げるなら殺しましょう。私の中で生き続けなさい」


 村山はアオの首に手を掛けた。

 その時、テーブルの上のスマホから着信音が鳴った。

 村山は立ち上がると、電話に出た。




 入り口も何もない、小さな小部屋。

 そこにアオは倒れていた。

 

「帰らなきゃ………。みんなのところに………。帰らなきゃ………」


 そう呟くものの、体は動かず、まぶたがだんだん重くなっていく。


「…………」


 ネムはそんなアオの目を、静かに覆った。


「帰らなきゃ………。帰……らな……………きゃ………。………………」


 涙混じりの声で呟きながら、アオは眠りに就いた。

 ネムはそれを確認すると立ち上がり、虚ろで暗い目で天井を見上げた。




『村山か?』


「司波先生、どうされましたか?」


 村山は司波と通話を始めていた。


『今お前ん家の前にいる。日之道を連れて大人しく出てこい。今ならお前の罪が軽くなるよう証言してやる』


「それはできないですねぇ。あなたがいくら証言しても無駄でしょうし」


『どういう意味だ?』


「それくらい世間から見れば、悪いことをしてるんですよ。私は」


「………日之道の声が急に聞こえなくなったぞ。お前何した?」


「ちょっと眠ってもらいました。今から殺そうとしています」


『何だと!?』


 司波の焦ったような声がする。

 それに反応したかのように、玄関のドアが乱暴に叩かれる。

 カイ達の怒鳴り声も聞こえてきた。


『ふざけるな!やめろ!!!』


「ではまた」


 村山は通話を切り、スマホをテーブルに置いた。


「さて、待たせましたね、アオさ────」


 突如アオが村山に飛び掛かってきた。

 村山は咄嗟のことで動けず、そのまま仰向けに倒された。

 そしてアオは村山の胸部分に跨がり、両手で首を絞め始めた。


「ぐあっ!!」


「……………」


 アオは無言で村山の顔を見つめる。

 その目は虚ろで暗かった。

第三章もいよいよクライマックスです。

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