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八百万  作者: マー・TY
第三章
39/115

39.尾行の話

「………ん?」


 気を失っていたガレンは、目を覚ました。

 目の前に鉄格子が見え、ここが牢獄であることを悟る。

 牢獄の中は布団と洋式便所だけで、ガレンは現在布団の上にいた。

 体の様子を確認する。

 両足は自由だが、両手には手錠をはめられており、後ろ手に拘束されている状態だった。


「服はそのまんまか。……ここどこだ?眠らされてから別の場所に運ばれたのか?」


 そう思えるほど、村山の一軒家にこの牢獄はミスマッチだった。


“コツン……コツン………”


 ふと階段を下りるような声が聞こえてきた。

 ガレンは身構えた。

 やがて、音の主が姿を現す。


「ッ!!!……アオ!!!」


 牢獄の前に現れたのはアオだった。

 アオはお盆を両手で持っており、その上に白飯と卵焼き、サラダ、水が入ったコップと、箸が一人分載っていた。

 ガレンはアオの元に駆け寄った。


「大丈夫なのか!?お前……こんな……」


 精気を失ったような目をしたアオは、悲しそうに顔を背けた。

 白いワンピースには一部赤茶色に染まった部分がある。

 痣は昨日より引いたように思えたが、それでも目立っていた。


「……ごめんな。そんなになるまで助け出せなくて。寧ろ俺が捕まっちまったな。本当にごめんな。ダメな父ちゃんで」


 ガレンは変わり果てた娘の姿を目の当たりにし、涙ぐんだ。

 しかし、泣いてはいられないと思い堪えた。

 ガレンはアオに、いろいろ聞き出すことにした。


「アオ、ここは村山の家か?」


 アオはガレンに顔を向けると、首を縦に振った。

 構造的に考えると、ここは地下室のようだった。


「村山は今、この家にいるのか?」


 アオは首を横に振った。


「それならアオ、外に逃げ出せないか?助けを呼んできてほしい」


 見たところ、アオは自由に行動できるように思えた。

 ドアを強引に開けるなり、窓ガラスを割るなりして逃げ出せそうだった。


「………」


 しかしアオにはそれができないようだ。

 お盆を床に置いたアオの顔色は悪くなっており、小さく震えていた。

 どうやら簡単にはいかないようだ。


「すまん!怖いことを思いしちまったようだな。………そ、そうだ。それ朝食か?お前が作ったのか?」


 アオは胸に手を当て、息を整えた。

 そして箸で卵焼きをつまみ上げ、左手を添えてガレンに差し出した。


「……アオ、……俺一人で食えるからさ、この手錠外せないか?」


 アオは俯くと、再び首を横に振った。


(無理かぁ……。まさかこんなところで娘に直接飯を食わせられるとはな……)


 観念したガレンは、卵焼きを口で受け取って食べる。

 その味はサラが作ったものと、少し似ていた。




 一方、放課後になると、カイ達は村山を尾行していた。

 ガレンとも連絡が着かなくなり、その後も進展が無かったため、尾行して村山の家を突き止めることにしたのだ。

 とはいえ、さすがに7人全員で実行すれば気づかれやすくなるため、尾行自体はカイ、トウ、ショウ、コユの4人で行い、シロ、クロ、ニコの3人は学校付近の公園で待機。

 スマホのリモート機能を利用して、お互いにコミュニケーションを取っている。


「村山、駅に入ってったぞ」


 カイが遠くを歩く村山にスマホを向けて言った。


『よし、そのまま追跡して。定期券は持ってるね?』


「あぁ」


『持ってるぜ』


『あるわよ』


『問題ない。尾行を続ける』


 4人急いで駅に進入する。

 ちなみに、4人は互いに距離を取って尾行している。

 1人が気づかれた時の保険だ。

 村山は改札に定期券を通し、ホーム内に入っていった。

 4人も間隔を開けて入場していく。


『順調かい?』


「人多いなぁ」


『いた!騎射場方面の4番目のところだ』


 ショウの知らせを聞き、残った3人はその付近に集まった。

 列車に乗るための行列に並ぶ。

 しばらくすると、列車が来た。

 並ぶ人達の丁度目の前に入り口が来るように止まり、自動の扉が開く。

 帰宅ラッシュの影響か、中にはたくさんの人が詰まっており、一気になだれ出てきた。

 すると、そこで村山は動いた。


「!?」


 村山は、列車から出てきた人達の群れの中に紛れ込んだ。


『ッ!?』


『はぁ!?』


『なっ!?』


 スマホ越しに、トウ、コユ、ショウの不意を突かれた様子の声が同時に聞こえてきた。


『おいどうした!?』


「待て!」


 シロの問い掛けに応えず、カイは人混みの中に飛び込んだ。

 人にぶつかりながらも、村山の姿を探した。

 しかし、いくら見渡しても見つからなかった。

 気づけば駅には人がほとんどいなくなり、列車も行ってしまった。


「カイ!」


 カイの隣に、トウが駆け寄って来た。


「やられた。行かれたぞ」


「は?」


「さっきの列車に村山が乗って走り去った。あいつ、窓越しに手ぇ振ってたぞ」


「くっそぉ!気づかれてたのかよ!?」


 カイはその場に座り込み、コンクリートの床を殴った。

 コユとショウも合流する。


『……どうやらあっちの方が上手だったようだね』


 クロは悔しそうに呟いた。


『今回で見つかったからなぁ。次は村山先生も帰り方とか変えてくるだろうし、簡単にはいかないかも。今回も何も得られなかったなぁ……』


「……いや、今回であいつの通行手段のひとつを潰せたんじゃないか?俺達、確実にあいつを追い込んでる筈だ。そうだろ?」


 カイはそう言い、ニッと笑った。

 他のメンバーも、釣られて笑った。

 その時、カイのスマホに電話が掛かってきた。


「わりぃ、ちょっと出る」


 カイはスマホの通話ボタンを押した。


「もしもし?」


『もしもし、カイ君?こちら灰崎玲音』


「レオン?どうしたんだ?」 


 電話は、カイのクラスメイトであるレオンからだった。

 レオンは自分の状況を、一言で説明した。


『今、村山先生を追ってる』




 時刻が午前0時になった頃、村山はガレンがいる地下室の牢獄に下りてきていた。


「さすがに起きていましたか。ガレンさん?」


「目覚めは最悪だったけどな」


 ガレンは笑っているが、目で村山をしっかりと睨み付けていた。


「訊きてぇことがある」


「なんですか?」


「アンタ、アオに何しやがった?見たところあいつはこの家では自由に動ける。脱出しようと思えばできる筈だ」


 数時間疑問に思っていたことを質問する。

 村山はニヤリと笑って応えた。


「簡単なことですよ。調教したんです」


「調教?」


「えぇ。私の命令には必ず従うように。そして、この家から出ないようにね。ちなみに、今のアオさんは外の世界に恐怖を抱いています。そのように調教しましたからね。結局、人を支配するのは恐怖なんでしょうね」


「てめぇ!」


 ガレンは鬼の形相で村山を睨んだ。

 手錠が掛けられた両手が震える。

 それでも村山は表情を変えなかった。


「ちなみに、あなたが反抗的な行動や態度を取った場合、アオさんに罰を受けていただきます」


「なっ!?」


「アオさんがあなたとコミュニケーションを取った場合でも、罰を執行することにしています。実はこの部屋には、あなたから見えない位置に監視カメラを仕掛けてあります。先程今朝の様子を拝見し、罰を与えました。アオさんには事前に伝えていたのですが、あなたの問い掛けに反応してしまってたのでね。家族を前にすると、調教の効果が弱まるんですかねぇ?」


 ガレンの顔が青ざめていく。


「アオは、生きてるんだろうなぁ?」


「もちろん。少々やりすぎたようで、今は気を失っていますけどね。それにしてもアオさん、傷だらけなのに美しいのはどうしてでしょうねぇ」


 村山はアオの苦しむ顔を思い返し、うっとりとしていた。




「─────?」


 気づけば、アオは何もない小部屋に横たわっていた。

 隣にネムが眠っていることから、ここが夢の中であることを理解する。

 ネムは現在のアオと同じ格好をしていた。


「ネム………」


 アオはネムに後ろから抱きつき、背中に額を当てた。

 夢の中の筈なのに、ネムの体温をリアルに感じ取れた。


「いつまでこんな生活が続くのかな?…………怖いよ………。それに、私変なの。……逃げ出したいのに、……外が怖いの。………それに、……村山先生も……………」


 アオは啜り泣き、現実世界のことを考えて震えた。


「………」


 その時、アオには見えていないが、ネムの目が微かに開いた。

 その瞳は虚ろで、闇を含んでいた。

キャラクターと作者の思想は異なっているので、そこのところはよろしくお願いいたします。

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