38.無力な話
翌日の朝、カイ、シロ、トウ、ニコ、コユ、ショウ、クロの7人は、1年1組の教室に集合していた。
カイが全員に、昨日ガレンから聞いた情報を話した。
「アオの誘拐と、4人の女の子が行方不明って、何か関係ありそうね。……アオ、大丈夫かしら」
コユは不安に思った。
クロも険しい顔をする。
「人間にこっくりさんから自分の情報を守れるとは思えない。……その4人はもう亡くなっているかも……」
「なっ!?……おい、その4人を攫ったのが村山なら、アオも危ねぇじゃねぇか!」
「アオちゃんの居場所が解れば、後はもう助けに行くだけなんだけどね。こっくりさんにはもう、アオちゃんの安否しか訊くことがないかも。ニコちゃん、儀式の紙はあるかい?」
「あるよ!」
再びこっくりさんを呼び、アオの安否を確認する。
今の時点では、アオは生きているようだった。
「生死は解るのになんで居場所は解らねぇんだ?」
「何でだろうね?」
クロは考え始めた。
ホームルームが始まる時間帯になり、話の続きは昼休みになった。
昼休み、7人は再び1組に集まり、昼食を摂った。
そしてクロが、自分の考えを持ち出した。
「思ったんだけどさ、もっと単純に訊けば良かったんだと思う」
「どういうことだ?」
カイが首を傾げる。
「こっくりさんを通して、犯人は村山先生ということが解ってるんだ。なら単純に、村山先生の家がどこにあるか訊けば良かったのかも」
「でも、本当にそこにアオがいるっていう保証もないでしょ?」
「だから訊くんだよ」
机の上に、儀式の用紙と、その鳥居に10円玉を置く。
クロの指示で、カイ、シロ、ニコの3人が、10円玉に人差し指を置いた。
呪文を唱え、こっくりさんを呼び出す。
そして、クロの言うとおりに質問をした。
「こっくりさんこっくりさん、村山先生の家はどこですか」
10円玉はゆっくりと動き出す。
そして五十音に向かい、その上をデタラメに走り回った。
そしてしばらくすると、10円玉は鳥居に戻る。
アオの居場所を訊いたときと似た反応だった。
「結局解らないのかよ!」
「いや、反応としては同じなんだ。アオちゃんが村山先生の家にいると考えてもいいかも」
その後、7人はそれぞれアイデアを出し、次の行動を決めた。
「私の家に……ですか?」
「はい」
放課後、カイ、トウ、ショウ、クロの4人は、職員室で仕事をしていた村山の元にいた。
4人は、村山の家に遊びに行きたい、という頼みを持ち出した。
「ふむ………。私の家に来ても面白いものは何もありませんよ」
「そんなこと言わずに。僕は教師志望でして、村山先生には憧れているんですよ。それで、先生がどのような環境で生活なされているのか、拝見したいんですよ」
目を輝かせて話すクロ。
村山は苦笑して言った。
「プライベートなことですからね。あんまり見せたくはないですね」
「えぇ~?いいだろ?」
「良くないんですよカイ君。世の中には他人に自宅を見られたくないという人間がいまして、私もその一人です。私に憧れているのなら、そこのところを解ってもらえませんか?」
村山は微笑みながら、カイ達を説得する。
ここでクロが、村山を揺さぶりに出た。
「見せられない理由があるんじゃないですか?」
「はい?」
村山の眉がピクリと動く。
クロは小声で続けた。
「行方不明の日之道明生さんは、実は先生が攫ったんじゃないですか?」
「………何のことだか」
「コラコラ君たち、村山先生は忙しいんだ。邪魔するなら帰りなさい」
4人と村山の間に、教頭が割って入った。
「そうですね。すみません、お邪魔しました」
これ以上何も聞き出せないと判断し、4人は職員室を出た。
村山と教頭は、それを見送る。
「まったく、近頃の1年ときたら……。村山先生も、怒る時には怒っていいんですよ」
「すみません。私の指導不足です」
村山は微笑みながらも、ペコペコと頭を下げて謝った。
教頭が去ると、村山は仕事の続きをしようと、デスクに戻る。
(なかなか鋭いですね……。おもしろい……)
パソコンのキーボードを打ちながら、冷や汗を掻いていた。
一方、シロ、ニコ、コユの3人は、担任の司波から話を訊くために、科学準備室に来ていた。
「村山の家?」
「あぁ、先生なら知ってるんじゃねぇかと」
「……ちょっと待て、お前ら何調べてるんだ?」
コユがここまでの経緯を司波に説明する。
司波は溜息を吐いた。
「手を出すなと言ったはずだが……。まぁ、お前らをそうさせる俺達も悪いんだろうな」
「でも先生、アオのこと、と~っても心配してるんでしょ?ニコわかるよ!授業中たまに上の空だもん!」
「確かに。なんかボケーッてしてることあるわね」
ニコとコユが、悪戯っぽく笑った。
シロと司波も、釣られて笑う。
「そうか、お前らにはそう見えてんだな」
「まぁな」
「そうか……。さてと、本題に入るが……」
笑いから一変し、司波は深刻そうな顔をして、腕を組む。
「申し訳ないが、俺はあいつん家知らねぇんだ」
「は?たまに一緒にいることあるだろ?」
「確かに飲みに行くことはあるけどな、そんな友達感覚じゃねぇんだよ」
「じゃあ、学校に村山先生の資料とかないの?」
「確認できればいいんだがな……。数年前にそれが原因で教師同士のいざこざがあって、それ以来見れねぇ。教頭が管理しているが、頼んでも見せてもらえないだろう。しかもあの人、村山に信頼寄せてるもんなぁ」
「チッ、それが解りゃなぁ」
苛立ったシロは机を叩いた。
そんな様子を見て、司波は続けて言う。
「お前ら生徒の安全を守るのは教師の義務だが、何言っても通じなさそうだしな。今後何かあれば教えてくれ。俺も解ったことはお前らに話すつもりでいる」
「先生ありがとー!」
3人は司波に礼をいい、科学準備室を出た。
放課後は二手に分かれたが、どちらも有力な情報を聞き出せないまま、この日は解散となった。
時刻は夜の9時頃。
村山は家の門の前に、人影が立っているのに気づいた。
「こんばんは。村山直人さんですね?」
「はい。……あなたは?」
「隠神警察署特務課の日之道雅蓮と申します」
ガレンは警察手帳を村山に見せた。
「日之道明生さん、……私の娘なんですがね、その娘が行方不明になっているという事件はご存じですよね?」
「えぇ。ウチの生徒ですからね」
「それでですね。ウチの者達はあなたのことを捜査から外しているようなんですが、私はどうも気になりましてね……。夜分に申し訳ないのですが、家の中を見せていただくことってできませんかね?」
「………」
家宅捜索の申し出だった。
村山は少し考えた。
そして優しく微笑みながら、了承した。
「いいでしょう。お上がりください」
「そうですか。では遠慮なく」
村山は鍵を開け、ガレンを中に招き入れた。
鍵穴が2箇所あることに違和感を覚えたが、ガレンは村山の家に上がった。
「なかなか広そうですねぇ」
「いやぁ、……私、少しばかし育ちがいいもので。この家も両親から譲り受けまして」
「へぇ。お金持ちなんですね」
他愛もない会話をしながら、ガレンを先頭に2人は進んでいく。
そしてガレンは、リビングへのドアを開けた。
「なっ……!?」
ガレンは言葉を失った。
リビングには、白いワンピースを着た体中痣だらけのアオが、まるでガレンを待っていたかのように、椅子に座っていた。
顔を上げたアオは、ガレンを見て驚く。
「パパ……?」
「アオ、お前……その姿────」
すっかりアオに気を取られていたガレンの体に、激しい電流が走った。
村山が背後からスタンガンを当てていた。
そして十分に痺れさせたと判断すると、村山はスタンガンを離した。
ガレンはその場に倒れた。
「…………!」
アオは椅子に座ったまま、震えていた。
「大丈夫。気絶しただけですよ。それよりアオさん、ちゃんとお家にいられたんですね。偉いですよ」
村山はアオの頭を撫でた。
頭を触れられる際、アオの肩がビクリと反応した。
「あ……ありが…とう……ございます……」
「おや?元気がないですね」
村山はアオの横腹にスタンガンを当てた。
「───────ッ!!!!」
ガレンに当てた時より威力は抑えられ、当てられている時間は短かったが、アオにとっては激痛だった。
アオは椅子から転げ落ち、悶え苦しむ。
「おや、元気出ましたか」
村山は愉しそうに笑うと、アオの体を、髪を引っ張って起こした。
「それではまず、この人を拘束します。その後に夕食にしましょう。デザートにあなたの大好きなみかんのゼリーを買ってきましたよ。楽しみにしていてくださいね」
「はい……」
アオは頷くと、村山の部屋に行き、引き出しから手錠を取り出した。
今のアオは、村山に従うことしかできない。
こっくりさんの最中に10円玉から指を離すと、その人が呪われたっていう話を聞いたことがあるんですよね。




