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八百万  作者: マー・TY
第三章
30/115

30.警戒する話

「アオ!村山先生に気をつけて!」


 ニコの突然の発言に、アオだけでなく、シロとコユもポカンとしていた。


「えっと………どういうことかな?」


 アオがニコに訳を訊いた。


「昨日ね、トウとこっくりさんしたの。それでね、トウが村山先生について訊いたの。そしたらこっくりさんがね、教えてくれたの!村山先生がアオを手に入れるって!」


「村山先生が………私を?」


「ちょっと待って」


 コユが割って入った。


「村山先生は良い先生よ?質問にも解りやすく答えてくれるし。ていうかこっくりさんに聞いたって………。そんなの小学校の頃に流行った遊びでしょう?」


「ホントだもん!」


 ニコが子供のように頬を膨らませる。

 その会話にシロも入る。


「そもそも信用していいモンなのか?誰かが10円玉動かしてたっつーオチがよくあるぞ」


「ホントだもん!動いたもん!」


「トウが動かしてたって可能性もあるだろ」


「トウはそんなことしないもん!シロのわからず屋~!」


「いてて、やめろ!」


 ニコがポカポカとシロを叩く。

 この2人をほっといたコユが、アオに質問をした。


「ねぇ、アオはどう思う?村山先生のこと」


 アオは数日前の村山とのやり取りを思い出した。

 自分に迫り、「美しい」と夢中になって言っていた村山の姿が、まだ脳裏に残っている。


「良い先生……だと思う。ちょっと変なところはあるけど」


「変なところって?」


「上手く言えないけど………」


「ヤベぇと思うところは俺も同感だ」


 ニコを取り押さえたシロがそう言った。


「こっくりさんが本当なのか知らねぇが、ニコの言うとおり用心するに越したことはねぇだろ」


「そう……かもね……」


 アオは村山について考えた。

 彼に教えられたことで、大好きな国語がさらに好きになった。

 テストの結果を褒められたときは、本当に嬉しかった。

 だからこそ解らなかった。

 村山がどっちなのか。




 家に帰ってからも、同じような内容をカイに聞かされた。

 リビングでテレビを観ている時だった。


「アオ、トウが言ってたんだけどな、村山先生がお前のこと狙ってるらしいんだ」


「トウ君が?」


 村山を警戒しているのは、ニコだけではないらしい。


「でもトウの奴、それを村山先生に直接言うなってさ。何でだろうな?」


「……こっくりさんから聞いたからかな?」


「え?なんで知ってんだ?」


「ニコちゃんからも聞いたから」


 アオはトウの考えを、なんとなく理解できた。

 「村山先生が自分を狙っているって、こっくりさんが言っていました」

 そう説明して信じてもらえるとは思えなかった。

 そもそも村山は、まだアオに危害を加えたわけではない。

 シロの言うように、用心しろとのことだろう。


「それにしてもトウの奴、こっくりさんなんて信じるんだな!なんか意外だ!」


 カイがケタケタ笑っている横で、アオは深刻な顔をしていた。

 ニコはまだしも、トウはこっくりさんのような非現実的なことを簡単に信じるタイプではない。

 こっくりさんが本当なのかは定かではないが、村山への警戒は強まった。




 翌日からアオは、村山を少し避けるようになった。

 挨拶は交わすものの、話をするような流れになると、少しだけ聞いてから友達を理由に離れた。


(……失礼かな?)


 アオは自分の村山への対応に悩んでいた。

 もしニコやトウの言っていたことが間違いだったら、申し訳がなかった。

 とはいえ、友達を否定するのもどうかと思う。


(これからもこうしていかないと、ダメなのかな?)


 そう悩みながら、校舎から校舎への渡り廊下を歩いている時だった。


「ニャ~オ」


 猫の鳴き声が聞こえた。

 気になったアオは、校舎裏に回ってみた。

 そこには1匹の三毛猫が座っていた。

 猫は不思議そうにアオを見ると、また一声鳴いた。


「可愛い……」


 アオは三毛猫に歩み寄った。

 最近悩みすぎて疲れていたアオは、三毛猫に癒やされたかった。

 アオは三毛猫の元に着くと、しゃがんで優しく頭を撫でた。

 三毛猫は逃げ出すことなくアオを受け入れた。

 気持ちよさそうに欠伸をする。

 アオの顔に、自然と笑みが溢れた。

 その束の間───


「グルルルル………」


 唸り声が聞こえた。

 その声に反応した三毛猫は、身体を起こした。

 アオも立ち上がって警戒する。


「何………?」


 声の主が、校舎裏に姿を現した。


「えっ……?」


 それは一人の男子生徒だった。

 しかし、どこか様子がおかしかった。

 四足歩行になっており、口元からは涎が垂れている。


「あの、……具合が悪いんですか?」


 アオが話しかけると、男子生徒はこちらに注目した。

 その目は血走っていた。

 男子生徒は、ゆっくりと近づいてくる。

 それを見た三毛猫は、その場から逃げ出した。


「こ、来ないで………」


「グオオオオアアアアアアアアアアアア!!!!」


 男子生徒は獣のような咆哮を上げ、アオに襲いかかった。

 アオが反射的に身を庇ったとき、すぐ横を何者かが走ってきた。


“ガチッ!!”


 金属と何かが噛み合うような音がした。

 前を見ると、アオの前に黒いパーカーを着た少し小柄な男が立ちはだかっていた。

 彼が持つナイフに、男子生徒が噛みついている。

 小柄な男は、男子生徒を蹴飛ばすと、アオの方を向いた。

 彼は赤い狐の仮面を付けており、顔が見えなかった。


「こっちです。アオさん」


 背後から手を掴まれ、引っ張られる。

 アオは状況が飲み込めないまま、引っ張られるがまま走り出した。


「!」


 赤い狐の仮面の男は、2人と追おうとする。

 しかし、ますます狂暴化した男子生徒に阻止されるのだった。




「ここまで来れば大丈夫でしょう」


 村山は図書室前まで来たところで、アオの手を放した。


「……ありがとうございます」


「いえいえ、教師として当然のことをしたまでです」


「あの、……あの人達は……」


「何らかの原因で、あの生徒は狂暴化してしまったようですね。詳しくはわかりません。ちなみに、赤い狐の仮面の方は、最近有名な殺人鬼、赤狐のようです」


「殺人鬼!?………狂暴化してるあの人は大丈夫なんですか?」


「まぁ、大丈夫でしょう。そんな気がします」


 村山は遠くを見つめてそう言うと、アオの顔を見て言った。


「ところでアオさん。あなたは最近私のことを避けているようですが、私、何か気に障ることでもしたでしょうか?」


「い、いえ!そんなことは!………ご、ごめんなさい!」


「謝らなくてもいいんですよ。まぁ、そういうときもあるでしょう」


 村山はそう言って微笑む。

 アオには村山が、悪い教師には見えなかった。

 何故ニコとトウは、村山に警戒するように言うのか、解らなくなった。


「………村山先生」


 だからこそ、アオは村山に訊いてみた。


「私、先生のことを、信用していいんでしょうか……」


 村山は不思議そうな顔をしたが、再びニッコリと微笑んだ。


「もちろんです。おっと、こうしている場合ではありませんでしたね!それでは私はこれで」


 村山はアオを残し、小走りで去って行った。

ちなみにニコは美術部、トウは剣道部です。アオ達5人は帰宅部です。

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