3.導く話
授業、そして午後のホームルームも終了し、放課後が始まった。
隠神高校1年2組の生徒たちは、すぐ帰宅する者、部活動の見学に行く者、友人と連んでいる者と、各々自由に過ごしている。
アオは帰り支度をしていた。
入学したばかりの現在のアオの楽しみは読書と、友人となったシロと話すことだ。
「シロ君、一緒に帰らない?」
「あぁ、わりぃ。俺先生に呼び出し食らってな。遅くなるから先帰れ」
「………何かしたの?」
「2年の不良ボコった件についてだ」
2日前、アオとシロは2年生の不良グループに、体育倉庫へ連れていかれた。
2人はそれぞれ別の目的で連れてこられたわけだが、アオの身が危険だと判断したシロは、十数人いた不良グループを、たった1人で全滅させたのだった。
アオとシロの交友関係が始まったのは、その後になる。
「ごめんね。私のせいだよね?」
「関係ねぇよ。お前がいなくてもボコることになってただろうからな。気にすんな」
「でも……」
「はぁ……。あのなぁ、ダチだったら助け合うのが当然なんだよ。お前は頭良さそうだから、そっち方面で俺を助けてくれや」
「うん!頑張る!」
「頑張れよ。そんじゃあ行ってくるわ」
シロは荷物を机に置いたまま、教室から出て行った。
シロを見送ると、アオは帰り支度を再開した。
教科書類を取り出すため、机の中に手を入れる。
「………?」
アオが触れた物からは、新品の教科書やノートのツルツルした表紙の感触が感じられなかった。
それを掴んで、机の中から引っ張り出す。
『ゴミ箱の中、見て』
出てきたのは、黒いペンでそう書かれたメモ用紙だった。
書かれた通り、アオはゴミ箱に近づき、中を確認した。
そこには、半分に折られたメモ用紙が入っていた。
アオはそれを取り出し、開いた。
『購買部横の自販機の下、覗いて』
ゴミ箱のメモ用紙には、そう書かれていた。
字体が一緒なので、アオの机の中に仕掛けた者と同一人物だろう。
それにしても、誰がこのようなことをしたのか、アオには見当も付かなかった。
かなり怪しいが、メモ用紙通りに動けば、何か解るかもしれない。
そう考えたアオは、教室を後にした。
自販機前は、奇跡的に人がいなかった。
とはいえ、メモ用紙通りに動くと、自身が自販機の下を漁っているようにも見えてしまう。
実際漁るようなものなのだが、アオは誰もいないことを注意深く確認すると、自販機の下を覗いた。
目の前に、メモ用紙があった。
アオは素早くそれを回収し、内容を確認した。
『生物室の人体模型の頭、外して』
「えぇ………」
少し物騒なことが書かれていた。
とはいえ、誰がこんなことをさせているのかが気になる。
きっとこのメモ用紙にも終わりがあるはずだ。
アオは生物室に向かった。
生物室は初めて入る教室だ。
アオは恐る恐るドアを開けた。
中は薄暗かったが、目的の人体模型はとても目立っていた。
その不気味さに怯むアオだが、深呼吸をして、人体模型の目の前まで進んだ。
無機質な目が、じっとアオを凝視している。
「…………ご、ごめんなさい!」
アオは下を向いて、人体模型の頭部を開けた。
すると足下に、ヒラヒラとメモ用紙が落ちてきた。
アオはゆっくりと視線を上げる。
人体模型の脳が剥き出しになっている。
さっきまでメモ用紙が、脳の部分に入っていたようだ。
不気味さが増した人体模型に耐えられなくなったアオは、素早く頭部を元に戻し、足下のメモ用紙を拾って生物室を出た。
4枚目のメモ用紙には、こう書かれていた。
『屋上、来て』
アオは再び深呼吸をして落ち着くと、屋上に向かって歩き出した。
『扉、開けて』
屋上入り口の扉に、そう書かれたメモ用紙が貼られていた。
アオは、もう後戻りはできない気がした。
扉を開いて、屋上に出る。
屋上には誰も居らず、代わりに1枚のメモ用紙がど真ん中に落ちていた。
アオはそれを拾って、内容を確認した。
『一緒に、いこう』
その文字は、赤かった。
……前方から、何か来る。
そう感じ取ったアオは、ゆっくりとメモ用紙から目を上げた。
「!?」
前方から、人のようなものが近づいてくる。
全身真っ白のそれには、顔の部分から股間の位置に掛けて、“一緒に、いこう”と、赤い文字が掘られていた。
それは、どんどんアオとの距離を詰めていった。
「い…いや…。嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アオは悲鳴を上げて、屋上から逃げ出した。




