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八百万  作者: マー・TY
第三章
29/115

29.降霊術の話

 週末、トウはショッピングモールに買い出しに来ていた。


「シャー芯、消しゴム、アオに薦められた本。……欲しいものは粗方買えたか………ん?」


 トウは前方に、自分の担任である村山が歩いているのを見た。

 咄嗟に近くにあった観葉植物に身を隠す。


(思わず隠れてしまった………。まさか担任と出会すとはな。何してるんだ?)


 トウは距離を保ちながら、村山を追った。

 村山は洋服売り場に入っていった。

 トウもそこに入り、村山の様子を伺った。


(………何してんだよあの人)


 村山は女性用の服を見ており、時々ニヤリと笑っていた。




 部活が終わり、胴着から制服に着替えたトウは、教室に向かっていた。

 ペンケースを教室に置いてきてしまったのだ。


(………奥さんへのプレゼントか何かか?それとも女装の趣味でもあるのか?)


 トウは未だに村山のことを考えていた。

 彼自身村山は、良い教師だと思っていた。

 しかし、以前の村山の変質者を肯定する発言から、何か嫌なものを感じるのだった。


「あっ!トウ!」


「ん?」


 後ろからニコが追いついてきて、トウの横に並んだ。


「剣道、終わったのー?」


「あぁ。お前も部活終わったのか?」


「うん!……トウどうしたの?難しい顔してるよ?」


「そうか?」


「うん!何か気になることがあるって顔だよ!」


「…………エスパーかよ」


 ニコは子供っぽいが、感受性が異様に高いところがある。

 トウには見えないものが、見えるくらいに。

 きっとどんな隠し事をしても、ニコなら見破ってしまうだろう。


「よ~し!気になることは、こっくりさんに訊いてみよう!」


「は?」




 ペンケースを発見し、鞄に入れたトウは、ニコの様子を見た。

 ニコはスケッチブックの紙を一枚破き、そこに文字を書いていた。


「できた~~~~!」


 ニコが紙を掲げる。

 紙には、「はい」「いいえ」のふたつと、その間に鳥居、五十音と、0~9までの数字が書かれていた。

 ニコは紙を机に置くと、鳥居の位置に10円玉を乗せた。


「……マジでやるのか?」


「うん!やろう!」


 トウの知っているこっくりさんは、いわゆる降霊術の一種だ。

 本当に霊が呼べるのか疑わしかったが、ニコは目を輝かせていた。

 こうなるとニコは、何を言っても聞かない。

 トウはニコと一緒に、10円玉に人差し指を添える。

 そしてニコが呪文を唱えた。


「こっくりさんこっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら、『はい』へお進みください」


 すると、2人の指が乗った10円玉が、ゆっくりと動き出した。

 そのまま「はい」の上に着くと、動きを止めた。


「やったー!来てくれた!」


「マジかよ」


 よくこっくりさんに関するインチキで、自分の指で10円玉を操作し、思い通りに答える、というものがある。

 しかしトウ自身、指を動かしていない。

 ならばニコか、と思うが、喜び方からして嘘をついているようには見えなかった。

 そもそもニコは嘘が下手なので、すぐに解るのだ。

 トウには本当にこっくりさんが来たとしか思えなかった。


(………まぁ、あり得るか。ここ隠神市だもんな)


 トウが心の中で納得する。

 10円玉がひとりでに鳥居に戻ると、ニコがいきなり質問をした。


「こっくりさん、トウはニコのこと好き?」


「はっ!?」


 10円玉が「はい」の方向に移動を始めた。


「ちょっ、おま……ふざけんな!」


 トウは指に力を入れて、必死に抵抗した。

 しかし10円玉は止まらない。


「トウ、こっくりさんの邪魔しちゃダメだよ!」


(なんだよこの力!ニコがこんな力出せる訳がない!やっぱりマジで来てるのか!?)


 トウは途中で力尽きた。

 10円玉は「はい」の上に止まった。


「やったー!やっぱりトウ、ニコのこと好きなんだね!最近トウ冷たいから心配しちゃったよ」


「………お前の振る舞いのせいだよ」


 ニコの言うとおり、トウはニコのことが好きだ。

 ニコの幼稚園から変わらない振る舞いのせいでもあるが、トウ自身、素直になれないでいるのだ。


「ししゅんき?はんこーき?」


「黙れ!」


「エヘヘ。こっくりさんこっくりさん、鳥居の位置までお戻りください」


 10円玉が再び鳥居に戻った。


「そうだ!トウが何か気になってることあるんだった!ねぇねぇ、訊いてみようよ!」


「あ、あぁ……」


 こっくりさんは都市伝説のひとつだ。

 トウはまさか、このような形で都市伝説に関わろうとは、思いもしなかった。

 とはいえ、こっくりさんはどんな質問にも答えると聞く。

 この際悪い気はしなかった。


「………担任を疑うのは良くないことだと思うが、村山先生は何か、悪いことしようとしているのか?」


 10円玉はゆっくりと動き出す。

 そして、また「はい」の上に止まった。


「それはどんな───」


「おや?阿久津君、七楽さん、何をしているのですか?」


 後ろを振り返ると、村山が立っていた。


「村山先生………」


「こっくりさんですか。懐かしいですねぇ。しかしもう下校時間を過ぎてますよ。早く帰りなさい」


「はい、すみません」


 トウとニコはこっくりさんを帰らせ、儀式を終了させた。


「先生さよなら~」


「さようなら」


「阿久津君」


 村山はトウを呼び止めた。


「何か迷っていることがあるのでしょうが、それを霊に聞くのもどうかと思いますよ」


「………どういう意味ですか?」


「こっくりさんの言うことが本当であると、自身を持って言えますか?」


「…………」


「霊は嘘つきなものですよ。生者を連れて行きたがりますからねぇ」


「……それこそ根拠がないでしょう」


「まぁ、何にしても、人のことを探るのは、良いこととは思えませんよ。君らしくもない。……おっと、お喋りもいけませんね。また明日」




 暗くなった夜道を、トウはニコと歩く。

 思えばニコは、村山が入ってきてから静かだった。


「ニコ、あの先生嫌い」


 ニコがそう呟いた。


「何故だ?」


「わかんない。でも、なんか嫌な感じなんだもん」


「………」


 ニコの勘は当たりやすい。

 それに帰り際の村山の発言も、何かを隠しているように思えた。


「ニコ、ちょっと付き合え。さっきの続きだ」


 トウはニコと公園のベンチに座り、再びこっくりさんを始めた。


「こっくりさん、何でも知っているなら、本当のことを教えてくれ。村山先生は、何をしようとしている?」


 トウとニコの人差し指を乗せた10円玉は、五十音の文字の上を動き回る。

 こっくりさんはこう示した。


『あおをてにいれる』

今回登場した怪異


こっくりさん


狐の霊を呼び出す、降霊術や占いの一種。ちなみに、途中で10円玉から指を放すのは危険である。



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