29.降霊術の話
週末、トウはショッピングモールに買い出しに来ていた。
「シャー芯、消しゴム、アオに薦められた本。……欲しいものは粗方買えたか………ん?」
トウは前方に、自分の担任である村山が歩いているのを見た。
咄嗟に近くにあった観葉植物に身を隠す。
(思わず隠れてしまった………。まさか担任と出会すとはな。何してるんだ?)
トウは距離を保ちながら、村山を追った。
村山は洋服売り場に入っていった。
トウもそこに入り、村山の様子を伺った。
(………何してんだよあの人)
村山は女性用の服を見ており、時々ニヤリと笑っていた。
部活が終わり、胴着から制服に着替えたトウは、教室に向かっていた。
ペンケースを教室に置いてきてしまったのだ。
(………奥さんへのプレゼントか何かか?それとも女装の趣味でもあるのか?)
トウは未だに村山のことを考えていた。
彼自身村山は、良い教師だと思っていた。
しかし、以前の村山の変質者を肯定する発言から、何か嫌なものを感じるのだった。
「あっ!トウ!」
「ん?」
後ろからニコが追いついてきて、トウの横に並んだ。
「剣道、終わったのー?」
「あぁ。お前も部活終わったのか?」
「うん!……トウどうしたの?難しい顔してるよ?」
「そうか?」
「うん!何か気になることがあるって顔だよ!」
「…………エスパーかよ」
ニコは子供っぽいが、感受性が異様に高いところがある。
トウには見えないものが、見えるくらいに。
きっとどんな隠し事をしても、ニコなら見破ってしまうだろう。
「よ~し!気になることは、こっくりさんに訊いてみよう!」
「は?」
ペンケースを発見し、鞄に入れたトウは、ニコの様子を見た。
ニコはスケッチブックの紙を一枚破き、そこに文字を書いていた。
「できた~~~~!」
ニコが紙を掲げる。
紙には、「はい」「いいえ」のふたつと、その間に鳥居、五十音と、0~9までの数字が書かれていた。
ニコは紙を机に置くと、鳥居の位置に10円玉を乗せた。
「……マジでやるのか?」
「うん!やろう!」
トウの知っているこっくりさんは、いわゆる降霊術の一種だ。
本当に霊が呼べるのか疑わしかったが、ニコは目を輝かせていた。
こうなるとニコは、何を言っても聞かない。
トウはニコと一緒に、10円玉に人差し指を添える。
そしてニコが呪文を唱えた。
「こっくりさんこっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら、『はい』へお進みください」
すると、2人の指が乗った10円玉が、ゆっくりと動き出した。
そのまま「はい」の上に着くと、動きを止めた。
「やったー!来てくれた!」
「マジかよ」
よくこっくりさんに関するインチキで、自分の指で10円玉を操作し、思い通りに答える、というものがある。
しかしトウ自身、指を動かしていない。
ならばニコか、と思うが、喜び方からして嘘をついているようには見えなかった。
そもそもニコは嘘が下手なので、すぐに解るのだ。
トウには本当にこっくりさんが来たとしか思えなかった。
(………まぁ、あり得るか。ここ隠神市だもんな)
トウが心の中で納得する。
10円玉がひとりでに鳥居に戻ると、ニコがいきなり質問をした。
「こっくりさん、トウはニコのこと好き?」
「はっ!?」
10円玉が「はい」の方向に移動を始めた。
「ちょっ、おま……ふざけんな!」
トウは指に力を入れて、必死に抵抗した。
しかし10円玉は止まらない。
「トウ、こっくりさんの邪魔しちゃダメだよ!」
(なんだよこの力!ニコがこんな力出せる訳がない!やっぱりマジで来てるのか!?)
トウは途中で力尽きた。
10円玉は「はい」の上に止まった。
「やったー!やっぱりトウ、ニコのこと好きなんだね!最近トウ冷たいから心配しちゃったよ」
「………お前の振る舞いのせいだよ」
ニコの言うとおり、トウはニコのことが好きだ。
ニコの幼稚園から変わらない振る舞いのせいでもあるが、トウ自身、素直になれないでいるのだ。
「ししゅんき?はんこーき?」
「黙れ!」
「エヘヘ。こっくりさんこっくりさん、鳥居の位置までお戻りください」
10円玉が再び鳥居に戻った。
「そうだ!トウが何か気になってることあるんだった!ねぇねぇ、訊いてみようよ!」
「あ、あぁ……」
こっくりさんは都市伝説のひとつだ。
トウはまさか、このような形で都市伝説に関わろうとは、思いもしなかった。
とはいえ、こっくりさんはどんな質問にも答えると聞く。
この際悪い気はしなかった。
「………担任を疑うのは良くないことだと思うが、村山先生は何か、悪いことしようとしているのか?」
10円玉はゆっくりと動き出す。
そして、また「はい」の上に止まった。
「それはどんな───」
「おや?阿久津君、七楽さん、何をしているのですか?」
後ろを振り返ると、村山が立っていた。
「村山先生………」
「こっくりさんですか。懐かしいですねぇ。しかしもう下校時間を過ぎてますよ。早く帰りなさい」
「はい、すみません」
トウとニコはこっくりさんを帰らせ、儀式を終了させた。
「先生さよなら~」
「さようなら」
「阿久津君」
村山はトウを呼び止めた。
「何か迷っていることがあるのでしょうが、それを霊に聞くのもどうかと思いますよ」
「………どういう意味ですか?」
「こっくりさんの言うことが本当であると、自身を持って言えますか?」
「…………」
「霊は嘘つきなものですよ。生者を連れて行きたがりますからねぇ」
「……それこそ根拠がないでしょう」
「まぁ、何にしても、人のことを探るのは、良いこととは思えませんよ。君らしくもない。……おっと、お喋りもいけませんね。また明日」
暗くなった夜道を、トウはニコと歩く。
思えばニコは、村山が入ってきてから静かだった。
「ニコ、あの先生嫌い」
ニコがそう呟いた。
「何故だ?」
「わかんない。でも、なんか嫌な感じなんだもん」
「………」
ニコの勘は当たりやすい。
それに帰り際の村山の発言も、何かを隠しているように思えた。
「ニコ、ちょっと付き合え。さっきの続きだ」
トウはニコと公園のベンチに座り、再びこっくりさんを始めた。
「こっくりさん、何でも知っているなら、本当のことを教えてくれ。村山先生は、何をしようとしている?」
トウとニコの人差し指を乗せた10円玉は、五十音の文字の上を動き回る。
こっくりさんはこう示した。
『あおをてにいれる』
今回登場した怪異
こっくりさん
狐の霊を呼び出す、降霊術や占いの一種。ちなみに、途中で10円玉から指を放すのは危険である。




