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八百万  作者: マー・TY
第二章
27/115

27.眠っている話

 気づいたらアオは、薄暗い部屋の中にいた。

 何もない、殺風景な個室。

 そんな空間の中に、一人の少女が横たわっていた。


「…………私?」


 それはどこからどう見ても、アオ自身だった。

 アオはもう一人の自分に、恐る恐る近寄った。

 もう一人のアオは、何の反応も示さない。

 体を揺すってみても同じだった。


「死んで……ないよね?」


 どのような存在なのかは解らないが、もう一人の自分が死んでいるのは気分が良くない。

 不安になったアオは、もう一人のアオの胸部に触れた。


“トクン…………トクン……………”


 心臓の鼓動が手に伝わる。

 生きていることがわかり、アオは安堵した。

 ただ眠っているだけのようだ。

 次にアオは、部屋を隅々まで調べてみた。

 本当に何も置かれていない。

 それどころか、出口すら存在しない。


「壁に何かないかな?」


 壁に何かしらの仕掛けがあると踏んだアオは、壁を叩いたり、摩ったりして調べた。

 しかし、何も見つからなかった。

 アオは再び、もう一人の自分に注目した。


(あとはもう、“私”を起こすしか………)


 アオは先程より少し激しく、もう一人の自分を揺すった。

 肩を叩いたり、耳元に起きるように声をかけたりもした。

 しかし、目覚めることはなかった。

 万策尽きたアオは、眠るもう一人の自分の横に座り込んだ。


「わからないよ……。ここどこなの?どうしたらいいの?寝てる“私”は何者?」


 アオは自分の太ももに、顔を埋める。

 そして、ゆっくりと目を閉じた。




 スマホのアラームが鳴る。

 アオは手探りでスマホを探し出し、アラームを止めた。

 ベッドの上から見えるのは、机、お気に入りの本、学校の制服、その他様々な私物。

 そこはアオの部屋だった。


「………夢、だったんだ」


 その後、母親が来るまで、アオはぼんやりとベッドに座っていた。




 それからアオは、時折その夢を見るようになっていた。

 眠るもう一人の自分に“ネム”という名前を付けみた。

 すると、不思議と愛着が沸いた。

 夢の中でネムがいる個室に行き着くと、アオはいろいろな話をネムに聞かせた。

 頭を撫でたり、腹をくすぐったりもしたが、それでもネムは目覚めなかった。


(何なのかな?あの夢、何度も見せられる。ネムは私に何か伝えたいのかな?)


 放課後、そんなことを考えながら、アオは校内を歩いていた。


「おぉ、アオさん!」


 階段の踊り場で、アオは村山と会った。

 村山の目が、眼鏡越しに妖しく光る。


「村山先生。お疲れ様です」


「私を労ってくれるんですか?嬉しいですねぇ」


 村山はニヤリと笑った。

 アオはそんな村山を、少し不気味に思った。


「ところでアオさん。昨日実施した古典の小テスト、満点でしたよ。教師として鼻が高いです」


「あ、ありがとうございます」


「それに、………なんて美しいのか」


 村山は持っていた書類を、全て床に落としてしまった。


「あ、拾います」


 アオは散らばった書類に手を伸ばす。

 しかしその手は、村山に両手で掴まれた。


「せ、先生……?」


「美しいうえになんて優しいのでしょう。あぁ、なんて細い指。簡単に折れてしまいそうです」


 そう言いながら村山は、アオの右手を愛でる。

 アオにはどうしたらいいのか、解らなかった。

 村山は、今度はアオの髪に触れた。


「サラサラで気持ちいい。そしてこの輝き。毎日丁寧に手入れをしているのですね?」


「村山先生……?」


「輝きといえば!」


 村山は手をアオの頬に置いた。


「やはりいつ見ても美しいですねアオさんの目は。奥に行くにつれてだんだん暗く……。まるで湖のようです!」


「あの……どうしちゃったんですか?」


 アオの声は震えていた。


「心配することはありません。あなたの美しさの再確認を………おや?」


 村山は不思議なものを見た。

 アオの目に宿る闇。

 それが少しずつ広がっていく。

 夢中になって見る村山。

 そのアオに触れている腕を、誰かが掴んだ。


「アンタ、何やってんだよ?」


 シロだ。

 シロは村山を睨み付ける。


「いえいえ。私は少しアオさんとお話してただけですよ」


「話するだけで顔触る必要あんのかよ?」


 シロとは対照的に、村山は笑っていた。

 そこへ下の階から、司波が上がってきた。


「ん?お前ら何やってんだ?」


「先生、コイツセクハラしてたぜ」


「何?」


 今度は司波が村山を睨む。


「やだなぁ。ちょっと話をしていただけなのに。それではアオさん、また今度」


 村山は落ちた書類を拾い集めると、その場を去った。


「大丈夫か?アオ」


「うん。……シロ君、司波先生も、ありがとうございました。私、どうしたらいいのか解らなくて」


「そういう時は、逃げるか助けを呼べ。抵抗しねぇとされるがままだ。それより日之道、今日指導の日だろ?」


「あ、そうでした!」


「今から行くか。……冬庭もどうだ?」


「は?俺?」


「毎週月曜日、日之道が何してるか気になるだろ?」


「………俺もいいんだったら」


 3人は科学準備室に向かう。

 その間、アオの目は元に戻っていた。




 アオは最近よく見る夢について、2人に相談した。


「寝てるもう一人の自分を夢で見るわけか……。なんだその夢?」


「眠ってるから“ネム”か。安直だな」


「ほっといてくださいよ……」


 話はそれなりに盛り上がった。

 ここでアオのネーミングセンスをいじった司波が、真面目に考えを述べた。


「ネムって奴は、自分の存在を日之道に主張してるのかもな」


「主張……ですか」


「何度も夢に出るんだ。そういうことじゃないのか?」


 あまりピンとこなかった。

 ネムはずっと眠っている。

 そして何をしても目覚めない。


「俺が気になるのは、もしネムが起きたらどうなるかってことだ」


「え……?」


 シロの言葉に、アオは固まった。


「ネムがどんな奴か、お前自身もわかってないんだろ?」


「冬庭の言うとおりだな。ネムの目覚めは吉か凶か」


「……………」


 アオの抱える不安が、またひとつ増えるのだった。




 その夜、アオの夢の中にネムが出てきた。

 相変わらず個室の中で、横たわって眠っている。

 アオはネムの傍に座り、話しかけた。


「ネム、あなたは、何者なの?」


 ネムからの返事はなかった。

毎週月曜日の、アオと司波先生の二者面談。たまに話題がなくてすぐ終わります。

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