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八百万  作者: マー・TY
第二章
26/115

26.リンフォンの話

 バザーというイベントがある。

 そこでは家庭でいらなくなったもの、使わなくなったものがたくさん売られる。

 所謂リサイクルショップのようなものだ。

 様々な商品が置いてあるが、たまに珍しいものが見つかることもあるようだ。




 日曜日。

 この日はバザーが開かれ、シロはアオに誘われて会場である隠神高校の体育館にやってきた。

 食器、本、おもちゃ、選り取り見取りだ。


「すごいね。スーパーみたい」


「全部中古品だけどな」


 アオは興味津々で、商品を見たり手に取ったりしていた。

 そこへカイとショウがやってきた。


「アオ、起こしてくれてもいいだろ?」


「起こしたじゃん。でも二度寝したでしょ?」


「あっ!」


 図星のようだ。

 アオはカイのことなら何でもお見通しなのだろう。


「いや~シロが来てるなら他校の不良が入ってきても安心だな!」


 ショウが揶揄うように言った。

 シロの強さは他校にも広がっているらしい。


「面倒くせぇなぁ。今日くらい楽しませろよ」


「あっちにトウとニコとコユもいたぜ。そんじゃあまた後でな!」


 カイはそう言うと、ショウと一緒に別の商品を見に行った。


「みんな来てんのか。……ん?」


 シロの横にいたはずのアオがいなくなっていた。

 とはいえ、すぐに見つかった。

 アオは近くのおもちゃコーナーで何かを見ている。


「何見てんだ?」


 シロはアオに近づき、声を掛けた。


「……これ。綺麗だなって」


 アオは手に持っている物をシロに見せた。

 それはソフトボール程の大きさで、正二十面体になっていた。

 それぞれの面に、違う配色が施されている。


「なんだそれ?」


「知らない。でも、オブジェにはいいかな……?」


 アオは正二十面体に目を移した。

 手の中で転がし、配色を眺める。


「………よし、買おう」


 アオはそう決心した。

 特に異論もないシロは、レジに向かうアオに着いていった。

 店員の女性は、アオから正二十面体を受け取ると、少しの間それを不思議そうに眺めていた。

 そしてアオがお金を出したところで、声を上げた。


「あ、ちょっと待っててね」


 店員は何かを思い出したようで、レジから出て行った。

 しばらくすると、少し黄ばんだ紙を持ってきて、アオに渡した。


「この紙、このおもちゃの説明書だったのね。落とし物のところにあって、何なのか気になってたのよ」


「……これについて知ってるんスか?」


 シロが店員に質問した。


「それね、リンフォンっていうらしいのよ」


「リンフォン……?」


 アオは紙を見た。

 そこには熊、鷹、魚の順に描かれた絵と、外国語が書かれていた。

 どうやら外国のおもちゃのようだ。


「詳しい遊び方は説明書読んでみてね。あ、お次のお客様どうぞ~」


 店員は忙しいようで、これ以上何も聞けそうになかった。

 清算は済ませたので、シロとアオはその場を離れた。




 2人は校庭に続く階段に腰を降ろした。

 アオはリンフォンとその説明書をバッグから出し、交互に見つめていた。


「何か解ったか?」


 シロもリンフォンのことが気になるらしい。


「説明書が解読できれば……。英語と、これは…」


 よくわからない言語を混じっているようだ。

 アオは両手でリンフォンをいじった。

 すると、カチッと音がした。

 よく見ると、リンフォンの表面の一部が隆起していた。


「あ、こうするんだ」


 アオはリンフォンの表面を触り続けた。


「パズルみてぇなもんか」


「うん。……シロ君もやる?」


「いや、いい」


 シロは頭を使うゲームが苦手だった。

 説明書によると、この正二十面体を、熊→鷹→魚の順に仕上げていくらしい。

 魚以降は何も描かれていないため、そこで終了なのだろう。

 アオの手つきは最初はゆっくりだったが、カイ達と再び合流し、食事休憩をした際には少し上達していた。

 アオ曰く、隆起だけでなく、陥没させることもできるらしい。


(俺はこういうの無理だな。続かねぇ。……まぁ、コイツならやるかもな)


 シロはリンフォンに没頭するアオを見ながら、そう思った。




 月曜日、アオは学校にリンフォンを持ってきた。


「やっとできたよ」


 アオがシロ達にリンフォンを見せる。

 あの正十二面体が、熊の形に変わっていた。


「すご~い!!」


「よくやるわねアンタ」


 ニコは単純に褒めていたが、コユは少し呆れ気味だった。


(ん?)


 シロはアオの顔をよく見た。

 目の下にくまができていた。


(どんだけ夢中になってたんだよ……)


 授業のときも、シロはアオの様子を伺った。

 とても眠そうにしていた。




 放課後、シロはアオ、カイと共に下校していた。

 その間もアオは、リンフォンをいじり続けている。


「歩きながらすると危ねぇぞ」


「うん……」


 カイが注意をするが、アオは手を止めようとしなかった。

 真面目で素直なアオの、こんな姿を見たのは初めてだった。


「おい、こんなに夢中になれるもんなのか?」


 シロはアオについて、カイに訊いた。


「いや?俺1回借りてやってみたんだけどな、そこまで熱中できなかったぞ。だけどアオ、昨日帰ってからあればっかやってたんだよな」


「………依存してねぇか?」


 心配する2人を余所に、アオは嬉しそうな声を上げた。


「できた」


 アオの手の中のリンフォンは、鷹の形になっていた。


「おぉ!やったな!」


 何故かカイも喜んでいる。

 説明書に描かれていた3種類の動物のうち、2種類が完成した。


「………次の魚で最後だな」


「うん。多分」


「多分?」


「まだ、先があるのかなって……」


 アオのリンフォンへの尽きない意欲に、シロは引いた。

 魚が終われば、犬や猫でも作るつもりなのか。

 この先何度もできた作品を、嬉しそうに見せるアオの姿が目に浮かぶ。

 シロがそんなアオに幻滅しそうになったその時だった。


「君、待ちなさい!!」


 怒鳴り声が聞こえた。

 3人が通りかかったのは、この街唯一の神社である隠神神社だった。

 その階段を一人の住職が、焦った様子で駆け下りてきた。

 住職はアオの目の前に着くと、息を切らしながら訊いた。


「君、それ、どうしたんだ!?」


「あの……バザーで買ったんです。そしたら……おもしろくて」


「それを持っていたらダメだ!危険だ!今なら間に合う!捨てなさい!」


 住職は厳しい口調でそう言い放った。

 シロとカイは、顔を見合わせる。


「え………でも……」


「君はそれがどういうものか解っていないんだな!?………それは………」


 住職の言葉に、シロ達3人は驚愕した。




「おはよう」


 翌日、アオが教室に入り、シロ達に挨拶をした。


「具合悪くねぇか?」


「うん。元気だよ」


「くま取れたじゃん!アンタの顔、元の可愛さになったわね!」


 喜ぶコユに対し、アオは顔を赤くした。


「アオ、リンフォンは?」


「あ、ニコちゃん。今からそれについて話そうとしてたんだ」


 結局アオは昨日、リンフォンを住職に渡した。

 リンフォンは鷹の形をしたままだった。


「魚までいかなかったわけね。で、何で住職に渡すなんてことになったのよ?」


「……信じてもらえないと思うんだけど」


 アオは昨日あの場にいなかったコユとニコに、住職から聞いたことを話した。


「リンフォンを完成させたら、その日のうちに、地獄に落とされるらしいの」


「は?」


「え?」


 コユとニコは、理解できないようだった。


「どういうことよ!?」


「リンフォンの正体は地獄の門なんだと。リンフォンをあの順番で解くと、地獄の門が開かれるらしいぜ」


 シロがアオに代わって説明した。

 コユとニコは、顔色を悪くしていた。

 あのままリンフォンを解読していれば、アオは死んでいたとも捉えることができた。


「シロ君、あのあとちょっと調べたんだ。そしたら………見てて」


 アオは鞄からノートとシャーペンを取り出した。

 机の上にノートを開く。

 シロ、コユ、ニコは、それに注目した。


 “RINFONE”


 アオはノートにそう書いた。


「リンフォンをアルファベットにすると、こうなるの。それをアナグラムで………」


 アオはもうひとつの単語を書いた。


 “INFERNO”


「なんだ?」


「………リンフォンと、全く同じアルファベットが使われてるわね」


「いんふぇあの?」


 アオは3人に、この文字の読み方を教えた。


「インフェルノって読むの」


「えっと……どういう意味だっけ?」


 コユは恐る恐るアオに訊いた。

 アオは少し間を置き、こう言った。


「地獄っていう意味だよ」

今回登場した怪異


リンフォン

熊→鷹→魚の順に形を変える、正十二面体のおもちゃ。その正体は、極小サイズの地獄の門。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リンフォンのエピソードをわかりやすく、かつほぼ忠実に従って執筆されているので読みやすくて面白かったです。 [気になる点] 話の内容は面白かったです。 でも、せっかくなら非通知の電話や悪夢の…
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