26.リンフォンの話
バザーというイベントがある。
そこでは家庭でいらなくなったもの、使わなくなったものがたくさん売られる。
所謂リサイクルショップのようなものだ。
様々な商品が置いてあるが、たまに珍しいものが見つかることもあるようだ。
日曜日。
この日はバザーが開かれ、シロはアオに誘われて会場である隠神高校の体育館にやってきた。
食器、本、おもちゃ、選り取り見取りだ。
「すごいね。スーパーみたい」
「全部中古品だけどな」
アオは興味津々で、商品を見たり手に取ったりしていた。
そこへカイとショウがやってきた。
「アオ、起こしてくれてもいいだろ?」
「起こしたじゃん。でも二度寝したでしょ?」
「あっ!」
図星のようだ。
アオはカイのことなら何でもお見通しなのだろう。
「いや~シロが来てるなら他校の不良が入ってきても安心だな!」
ショウが揶揄うように言った。
シロの強さは他校にも広がっているらしい。
「面倒くせぇなぁ。今日くらい楽しませろよ」
「あっちにトウとニコとコユもいたぜ。そんじゃあまた後でな!」
カイはそう言うと、ショウと一緒に別の商品を見に行った。
「みんな来てんのか。……ん?」
シロの横にいたはずのアオがいなくなっていた。
とはいえ、すぐに見つかった。
アオは近くのおもちゃコーナーで何かを見ている。
「何見てんだ?」
シロはアオに近づき、声を掛けた。
「……これ。綺麗だなって」
アオは手に持っている物をシロに見せた。
それはソフトボール程の大きさで、正二十面体になっていた。
それぞれの面に、違う配色が施されている。
「なんだそれ?」
「知らない。でも、オブジェにはいいかな……?」
アオは正二十面体に目を移した。
手の中で転がし、配色を眺める。
「………よし、買おう」
アオはそう決心した。
特に異論もないシロは、レジに向かうアオに着いていった。
店員の女性は、アオから正二十面体を受け取ると、少しの間それを不思議そうに眺めていた。
そしてアオがお金を出したところで、声を上げた。
「あ、ちょっと待っててね」
店員は何かを思い出したようで、レジから出て行った。
しばらくすると、少し黄ばんだ紙を持ってきて、アオに渡した。
「この紙、このおもちゃの説明書だったのね。落とし物のところにあって、何なのか気になってたのよ」
「……これについて知ってるんスか?」
シロが店員に質問した。
「それね、リンフォンっていうらしいのよ」
「リンフォン……?」
アオは紙を見た。
そこには熊、鷹、魚の順に描かれた絵と、外国語が書かれていた。
どうやら外国のおもちゃのようだ。
「詳しい遊び方は説明書読んでみてね。あ、お次のお客様どうぞ~」
店員は忙しいようで、これ以上何も聞けそうになかった。
清算は済ませたので、シロとアオはその場を離れた。
2人は校庭に続く階段に腰を降ろした。
アオはリンフォンとその説明書をバッグから出し、交互に見つめていた。
「何か解ったか?」
シロもリンフォンのことが気になるらしい。
「説明書が解読できれば……。英語と、これは…」
よくわからない言語を混じっているようだ。
アオは両手でリンフォンをいじった。
すると、カチッと音がした。
よく見ると、リンフォンの表面の一部が隆起していた。
「あ、こうするんだ」
アオはリンフォンの表面を触り続けた。
「パズルみてぇなもんか」
「うん。……シロ君もやる?」
「いや、いい」
シロは頭を使うゲームが苦手だった。
説明書によると、この正二十面体を、熊→鷹→魚の順に仕上げていくらしい。
魚以降は何も描かれていないため、そこで終了なのだろう。
アオの手つきは最初はゆっくりだったが、カイ達と再び合流し、食事休憩をした際には少し上達していた。
アオ曰く、隆起だけでなく、陥没させることもできるらしい。
(俺はこういうの無理だな。続かねぇ。……まぁ、コイツならやるかもな)
シロはリンフォンに没頭するアオを見ながら、そう思った。
月曜日、アオは学校にリンフォンを持ってきた。
「やっとできたよ」
アオがシロ達にリンフォンを見せる。
あの正十二面体が、熊の形に変わっていた。
「すご~い!!」
「よくやるわねアンタ」
ニコは単純に褒めていたが、コユは少し呆れ気味だった。
(ん?)
シロはアオの顔をよく見た。
目の下にくまができていた。
(どんだけ夢中になってたんだよ……)
授業のときも、シロはアオの様子を伺った。
とても眠そうにしていた。
放課後、シロはアオ、カイと共に下校していた。
その間もアオは、リンフォンをいじり続けている。
「歩きながらすると危ねぇぞ」
「うん……」
カイが注意をするが、アオは手を止めようとしなかった。
真面目で素直なアオの、こんな姿を見たのは初めてだった。
「おい、こんなに夢中になれるもんなのか?」
シロはアオについて、カイに訊いた。
「いや?俺1回借りてやってみたんだけどな、そこまで熱中できなかったぞ。だけどアオ、昨日帰ってからあればっかやってたんだよな」
「………依存してねぇか?」
心配する2人を余所に、アオは嬉しそうな声を上げた。
「できた」
アオの手の中のリンフォンは、鷹の形になっていた。
「おぉ!やったな!」
何故かカイも喜んでいる。
説明書に描かれていた3種類の動物のうち、2種類が完成した。
「………次の魚で最後だな」
「うん。多分」
「多分?」
「まだ、先があるのかなって……」
アオのリンフォンへの尽きない意欲に、シロは引いた。
魚が終われば、犬や猫でも作るつもりなのか。
この先何度もできた作品を、嬉しそうに見せるアオの姿が目に浮かぶ。
シロがそんなアオに幻滅しそうになったその時だった。
「君、待ちなさい!!」
怒鳴り声が聞こえた。
3人が通りかかったのは、この街唯一の神社である隠神神社だった。
その階段を一人の住職が、焦った様子で駆け下りてきた。
住職はアオの目の前に着くと、息を切らしながら訊いた。
「君、それ、どうしたんだ!?」
「あの……バザーで買ったんです。そしたら……おもしろくて」
「それを持っていたらダメだ!危険だ!今なら間に合う!捨てなさい!」
住職は厳しい口調でそう言い放った。
シロとカイは、顔を見合わせる。
「え………でも……」
「君はそれがどういうものか解っていないんだな!?………それは………」
住職の言葉に、シロ達3人は驚愕した。
「おはよう」
翌日、アオが教室に入り、シロ達に挨拶をした。
「具合悪くねぇか?」
「うん。元気だよ」
「くま取れたじゃん!アンタの顔、元の可愛さになったわね!」
喜ぶコユに対し、アオは顔を赤くした。
「アオ、リンフォンは?」
「あ、ニコちゃん。今からそれについて話そうとしてたんだ」
結局アオは昨日、リンフォンを住職に渡した。
リンフォンは鷹の形をしたままだった。
「魚までいかなかったわけね。で、何で住職に渡すなんてことになったのよ?」
「……信じてもらえないと思うんだけど」
アオは昨日あの場にいなかったコユとニコに、住職から聞いたことを話した。
「リンフォンを完成させたら、その日のうちに、地獄に落とされるらしいの」
「は?」
「え?」
コユとニコは、理解できないようだった。
「どういうことよ!?」
「リンフォンの正体は地獄の門なんだと。リンフォンをあの順番で解くと、地獄の門が開かれるらしいぜ」
シロがアオに代わって説明した。
コユとニコは、顔色を悪くしていた。
あのままリンフォンを解読していれば、アオは死んでいたとも捉えることができた。
「シロ君、あのあとちょっと調べたんだ。そしたら………見てて」
アオは鞄からノートとシャーペンを取り出した。
机の上にノートを開く。
シロ、コユ、ニコは、それに注目した。
“RINFONE”
アオはノートにそう書いた。
「リンフォンをアルファベットにすると、こうなるの。それをアナグラムで………」
アオはもうひとつの単語を書いた。
“INFERNO”
「なんだ?」
「………リンフォンと、全く同じアルファベットが使われてるわね」
「いんふぇあの?」
アオは3人に、この文字の読み方を教えた。
「インフェルノって読むの」
「えっと……どういう意味だっけ?」
コユは恐る恐るアオに訊いた。
アオは少し間を置き、こう言った。
「地獄っていう意味だよ」
今回登場した怪異
リンフォン
熊→鷹→魚の順に形を変える、正十二面体のおもちゃ。その正体は、極小サイズの地獄の門。




