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八百万  作者: マー・TY
第二章
24/115

24.赤信号の話

 時刻は午後の8時。

 トウは帰路を辿っていた。

 ニコの家に寄った際に夕食を振る舞われ、今に至る。


(ニコに勉強教えてたらこんな時間になってしまった……。あいつ理解してたのか?)


 目の前の横断歩道を渡ろうとしたが、間に合わずに赤信号になった。

 トウは静かに待つことにした。


(ここ青になるまでが地味に長いんだよなぁ。暇だ)


 トウはポケットからスマホを取り出した。

 きっとニコからLINEでメッセージが来ていることだろう。

 LINEのアイコンを押そうとしたときだった。


『イエ~~~~~~~~~~~~~~~~イ!』


 どこかから声が聞こえた。

 声は大きいようで小さい。

 周りにはトウ以外誰もいない。


『空前絶後の~~~~~~!』


(は?池崎?)


 トウは耳を澄ました。


『超絶怒濤の信号機~!』


 声は上から聞こえてきていた。

 トウが見たそこには、歩行者用の信号機があった。

 この横断歩道の向かい側から確認するためのものなので、こちらに背を向けている。


『歩行者を愛し!歩行者に愛された男~~~~~!』


(これだよな?)


 トウはその信号機を、そっと下から覗いてみた。


 『その名も~~~!サンシャイ~~~~ン、し~~~ん~~~!ボコ~~~~ン!ご~~~~き~~~!』


(は?)


 赤信号は、赤い背景に黄色い人間が直立したもので構成されている。

 トウの頭の中の赤信号はそうだった。

 しかし、頭上の赤信号は違った。

 赤い背景の中を、黄色い人間が動いていた。

 

『イエ~~~~~イ!ジャ~~~スティス!!』


 声も出している。

 どうやら赤信号の中の人物は、お笑い芸人のネタを再現しているようだった。


(なんだこれ……。てかなんで赤信号がサンシャイン池崎知ってんだよ?)


『いや~、やっぱこうして動けるときって、誰もいないときに限るわぁ。今の、時々やりたくなるんだよなぁ』


 赤信号の中の人物は、普通に独り言を言っていた。


(誰もいないって……。後ろも真下も見えてねぇじゃねぇか)


 赤信号の中の人物は、その後も有名なお笑い芸人のネタを披露し続けた。

 トウはそれを聞くことにした。

 いつの間にか、信号機は青に変わっていた。


(本当になんだったんだ?あれ)


 それ以降、トウは動く赤信号の中の人物を見ることは無かった。




 別の日の同時刻。

 シロは夜の街を歩いていた。

 好きな漫画の最新刊を買った帰りにチンピラに絡まれ、ついさっき潰したところだった。

 

(奴らも飽きねぇなぁ……。喧嘩したら腹減った)


 シロは横断歩道に着く。

 赤信号になっていたので、立ち止まった。


『俺は~~~~赤信号~~~~♪』


「あ?」


 突然歌声が聞こえてきた。

 シロは頭上の信号機を見た。


『だいたい~~~2分くらい、待機だよ~~~♪』


 車は来ていない。

 シロは少しだけ横断歩道に出て、その信号機を確認した。


「!?」


 シロが見たのは、赤信号の中の人物が歌っているところだった。

 手をマイクのようにして、体をくねらせている。


『たまに~~~無視~~~され~~るけ───』


 赤信号の中の人物は、シロに見られているのに気づいたようだった。

 元の直立不動の姿勢に戻る。

 それ以来動くことはなかった。

 信号機が青に変わると、シロは首を傾げながら歩き出した。


「何だったんだ?あの信号」




 隠神高校の昼休み。

 晴れていて、全員揃っていたので、アオ、カイ、シロ、トウ、ニコ、コユ、ショウの7人は、屋上で昼食を食べていた。

 世間話をしながら食べていると、ショウがある話題を持ち出した。


「なぁ、動く赤信号の話知ってるか?」


「ん?なんだそれ?」


 カイが食いつく。


「赤信号って赤い背景に直立の黄色い人で構成されてるだろ?だけどこの街の1カ所だけ、その中の黄色い人間が動き出す信号機があるんだよ」


「なんだそれ!おもしれぇ!」


 カイがケタケタ笑い出した。

 コユは呆れていた。


「どうせ作り話でしょ?子供でも思いつきそうよ?そんなの」


「ほ、本当かもしれねぇだろ!」


 ショウがコユに反論する。


「アオ、本当なの~?」


「う~ん………、この街ならありえるのかなぁ?」


 ニコとアオは、半信半疑のようだ。

 しかし、この場に目撃者が2人もいることを、彼らは知らない。

 トウとシロは気にする素振りを見せることなく、食べながら心の中で囁いた。


(芸人の真似してたぞ)


(歌ってたぞ)

海外にある赤信号の中の人は、踊るそうですよ。

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