24.赤信号の話
時刻は午後の8時。
トウは帰路を辿っていた。
ニコの家に寄った際に夕食を振る舞われ、今に至る。
(ニコに勉強教えてたらこんな時間になってしまった……。あいつ理解してたのか?)
目の前の横断歩道を渡ろうとしたが、間に合わずに赤信号になった。
トウは静かに待つことにした。
(ここ青になるまでが地味に長いんだよなぁ。暇だ)
トウはポケットからスマホを取り出した。
きっとニコからLINEでメッセージが来ていることだろう。
LINEのアイコンを押そうとしたときだった。
『イエ~~~~~~~~~~~~~~~~イ!』
どこかから声が聞こえた。
声は大きいようで小さい。
周りにはトウ以外誰もいない。
『空前絶後の~~~~~~!』
(は?池崎?)
トウは耳を澄ました。
『超絶怒濤の信号機~!』
声は上から聞こえてきていた。
トウが見たそこには、歩行者用の信号機があった。
この横断歩道の向かい側から確認するためのものなので、こちらに背を向けている。
『歩行者を愛し!歩行者に愛された男~~~~~!』
(これだよな?)
トウはその信号機を、そっと下から覗いてみた。
『その名も~~~!サンシャイ~~~~ン、し~~~ん~~~!ボコ~~~~ン!ご~~~~き~~~!』
(は?)
赤信号は、赤い背景に黄色い人間が直立したもので構成されている。
トウの頭の中の赤信号はそうだった。
しかし、頭上の赤信号は違った。
赤い背景の中を、黄色い人間が動いていた。
『イエ~~~~~イ!ジャ~~~スティス!!』
声も出している。
どうやら赤信号の中の人物は、お笑い芸人のネタを再現しているようだった。
(なんだこれ……。てかなんで赤信号がサンシャイン池崎知ってんだよ?)
『いや~、やっぱこうして動けるときって、誰もいないときに限るわぁ。今の、時々やりたくなるんだよなぁ』
赤信号の中の人物は、普通に独り言を言っていた。
(誰もいないって……。後ろも真下も見えてねぇじゃねぇか)
赤信号の中の人物は、その後も有名なお笑い芸人のネタを披露し続けた。
トウはそれを聞くことにした。
いつの間にか、信号機は青に変わっていた。
(本当になんだったんだ?あれ)
それ以降、トウは動く赤信号の中の人物を見ることは無かった。
別の日の同時刻。
シロは夜の街を歩いていた。
好きな漫画の最新刊を買った帰りにチンピラに絡まれ、ついさっき潰したところだった。
(奴らも飽きねぇなぁ……。喧嘩したら腹減った)
シロは横断歩道に着く。
赤信号になっていたので、立ち止まった。
『俺は~~~~赤信号~~~~♪』
「あ?」
突然歌声が聞こえてきた。
シロは頭上の信号機を見た。
『だいたい~~~2分くらい、待機だよ~~~♪』
車は来ていない。
シロは少しだけ横断歩道に出て、その信号機を確認した。
「!?」
シロが見たのは、赤信号の中の人物が歌っているところだった。
手をマイクのようにして、体をくねらせている。
『たまに~~~無視~~~され~~るけ───』
赤信号の中の人物は、シロに見られているのに気づいたようだった。
元の直立不動の姿勢に戻る。
それ以来動くことはなかった。
信号機が青に変わると、シロは首を傾げながら歩き出した。
「何だったんだ?あの信号」
隠神高校の昼休み。
晴れていて、全員揃っていたので、アオ、カイ、シロ、トウ、ニコ、コユ、ショウの7人は、屋上で昼食を食べていた。
世間話をしながら食べていると、ショウがある話題を持ち出した。
「なぁ、動く赤信号の話知ってるか?」
「ん?なんだそれ?」
カイが食いつく。
「赤信号って赤い背景に直立の黄色い人で構成されてるだろ?だけどこの街の1カ所だけ、その中の黄色い人間が動き出す信号機があるんだよ」
「なんだそれ!おもしれぇ!」
カイがケタケタ笑い出した。
コユは呆れていた。
「どうせ作り話でしょ?子供でも思いつきそうよ?そんなの」
「ほ、本当かもしれねぇだろ!」
ショウがコユに反論する。
「アオ、本当なの~?」
「う~ん………、この街ならありえるのかなぁ?」
ニコとアオは、半信半疑のようだ。
しかし、この場に目撃者が2人もいることを、彼らは知らない。
トウとシロは気にする素振りを見せることなく、食べながら心の中で囁いた。
(芸人の真似してたぞ)
(歌ってたぞ)
海外にある赤信号の中の人は、踊るそうですよ。




