21.使命感の話
「頑張れーー!!」
「カイ!イケるぞ!」
「灰崎くーーん!!」
この時期の体育では、リレーが行われている。
2クラスでチームが8つ作られ、2つのブロックに分かれて競争をし、それぞれの上位2チームで決勝戦が行われる、という小さな大会になっていた。
そして現在、決勝戦のクライマックス。
4チームそれぞれのバトンが、アンカーに渡ろうとしていた。
どの生徒も、大歓声を上げていた
(うるさいなぁ……。まぁ、やるからには本気なんだけど)
無理矢理アンカーにされたレオンは、軽くストレッチをしていた。
レオンのチームは1位争いをしている。
彼はその相手チームのアンカーを横目で見た。
「よしっ!いいぞ!そのまま来い!」
レオンと同じクラスのカイは、チームの仲間に声援を贈っていた。
(カイ君か。速いのかな?)
いよいよバトンがレオンに渡った。
ほんの少し早く、レオンが走り出す。
後ろを見ると、カイも走り出していた。
声援がさらに大きくなる。
本気で走るレオンは、すぐ後ろにカイの気配を感じ取っていた。
(速っ……)
レオンとカイは、スピードを落とすことなく、ゴールまで走りきった。
後の2チームのアンカーが、遅れてゴールする。
結果は僅かな差で、レオンのチームの優勝だった。
「お前速いじゃん!」
「灰崎足速いんだなっ!」
「すごいよ灰崎君!」
レオンはクラスメイト達に囲まれ、賞賛されていた。
褒められることに慣れていないせいか、少し頬を赤くする。
「レオンだっけ!?速かったなお前!陸上やってたのか!?」
「うん。……まぁね」
カイにそう訊かれたレオンは、目を逸らして応えた。
深夜、アパートの一室から赤い狐の仮面を付けたレオンが出てきた。
この部屋には、一人の女性の死体がある。
その女性はストレス解消のため、よく電車内で痴漢と言い張り、無実の男を吊し上げてきた。
中には人生が台無しにされた者も存在する。
そんな訳で、レオンはその女性を殺した。
アパートを出たレオンは、仮面を付けまま住宅街を歩く。
深夜なのか、人が見当たらない。
何の音もせず、ごくたまに動物の鳴き声が聞こえてくるくらいだった。
“コツッ……コツッ……”
「ん?」
静寂の中から、馬の足音のようなものが聞こえた。
人に姿を見られたくないレオンは、近くにあった電柱の陰に身を隠した。
音はだんだん近くなる。
音の主は、前方の曲がり角から姿を現した。
(なんだあれ……)
街灯に照らされてはっきり見えた。
それは、首がない馬に乗った、一つ目の鬼だった。
首なし馬の黒い身体には、ところどころ赤茶色の液体が付着していた。
一つ目の鬼の肌は暗い紫色で、腰に太刀を差している。
馬に乗った鬼は、レオンが隠れる電柱に近づいてきた。
(来た……!)
鬼は一つ目しかない目玉で、キョロキョロと辺りを見回していた。
レオンは電柱を利用して、視線を上手く躱す。
鬼が持つ太刀、馬に付いた血の痕のようなシミを見て、見つかってはいけない気がした。
レオンは身軽で運動神経が良く、今までそれを利用して人を殺めてきた。
パルクールのように、街の障害物を軽々と利用し、素早く走ることもできる。
しかし、目の前の怪物に勝てる自信が無かった。
自分が持つナイフやアイスピックよりも、鬼の太刀の方がリーチが長い。
鬼だけでも厄介なのに、さらにその鬼は馬に乗っている。
馬に蹴飛ばせれれば一溜まりもない。
逃げ切れる気もしなかった。
首がない馬は、どう考えてもこの世のものではない。
レオンが近くの住宅の屋根に登ったとしても、馬は軽々と乗り越えてくるだろう。
馬に乗った鬼が、レオンがいる電柱を通りすぎた。
それに合わせてレオンも立ち回る。
鬼はレオンに気づくことなく、その場を去って行った。
路地裏まで来たレオンは、壁に寄り掛かって座る。
鬼の視線に入らないために、かなりの集中力を使った。
おかげで疲れがドッと出てきた。
「この街、変だとは思っていたけど、あんな怪物も存在するのか……」
この街に関する噂は、いくつかクラスメイトから聞いていた。
異常者の存在は認めていたが、あの鬼のような怪物の存在までは信じていなかった。
レオンは赤狐の仮面に手を置いた。
(まだ死ねない。地獄に行く前に、より多くのクズを道連れにしてやる。さっきの怪物も殺せるくらいにならないと。……やるよ、姉さん)
レオンには姉がいたが、彼が言うクズのせいで、この世を去った。
レオンがクズを殺すのは、救えなかった姉への償いのためだった。
(僕はあの怪物からは逃げ出してしまったけど、彼だったらどうしたのかな……?)
レオンは建物の隙間から見える夜空を見上げ、呟いた。
「君なら戦った?シロ君」
今回登場した怪異
夜行さん
首なしの馬に乗った一つ目の鬼の姿をした妖怪。大晦日、節分、庚申の日、夜行日の夜に現れ、見つけた人間を馬で蹴り殺すと云われている。




