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八百万  作者: マー・TY
第二章
20/115

20.縫われた話

 どの学校にも退屈な授業を行う教師が1人はいる。

 また、そんな教師と5時限目という時間の相性は、悪い意味で良い。

 1年2組の教室は、まさかにその状況になっていた。


(授業……つまんな……)


 コユは時計を見たが、授業開始からまだ10分程しか経っていない。

 このまま寝てしまおうと思ったが、うとうとしながらも真面目にノートを執っているアオを見ていると、そうはしていられなかった。

 しかし、シロとニコはダウンしている。


(アンタらアオを見習いなさいよ……。ていうか真面目に授業受けてるのアオくらいね……)


 コユは教室を見回した。

 集中できなくなっている何人かの生徒が、ヒソヒソ声でお喋りをしていた。

 その中に、コユの元友人達も含まれていた。

 小さかった声は、だんだん大きくなっていく。

 教師は時々注意をする。

 一瞬静かになるものの、すぐにまた元の状態に戻ってしまう。

 新任のせいか、舐められているようだ。

 コユはその新任の教師にも、喋るクラスメイト達にも呆れていた。


(完全に無駄話してもいいっていう空気になってるわね……)


 コユは授業を聞いてみるが、声に遮られて時々聞こえない。


(ホントによく話すわねぇ。当てられたら答えられないくせに)


 コユは少し苛立つ。

 こんなに喋るなら、休み時間にしてほしいと思う。


(……休み時間かぁ)


 コユは、2時限目の休み時間に、どこかから聞こえてきた話を思い出していた。

 内容は、“縫子さん”という学校の七不思議についてだった。

 縫子さんは和服を着た小学生くらいの少女の姿をしており、裁縫が得意なのだという。

 その特技を使って、空いているところを糸で縫い付けてしまうらしい。

 そこまで聞いたところでチャイムが鳴ってしまい、あまり詳しく聞けなかった。


(縫い付けるんだったら、破れた服とか?全然怖くないんだけど)


 穴が空いた衣類を直す妖怪のどこが怖いのだろうか。

 これでは寧ろ親切だった。

 コユが縫子さんについていろいろ考えている時だった。


「ん!?んーー---!」


 突如一人の男子が、呻き声を上げた。

 彼は椅子から転げ落ちた。

 床を転がりながら、口を手で開けようとしている。


「おい!どうした高橋!」


「何!?どうしたの!?」


「ちょっ…怖いんだけど」


 教室中がパニックになっていた。

 呻き声を上げる高橋と呼ばれた男子に、その友人と焦る教師が駆け寄る。


「何なのよ急に……」


 困惑したコユは、思わずアオを見た。

 アオは目を見開いて震えていた。

 彼女もまた、何が何だかわかっていないようだった。

 シロとニコも、騒ぎで目を覚ましていた。


「何!?何!?どうしたの!?」


 ニコはパニックになっていた。

 シロは状況を掴めていない状態で、コユの元に来た。


「何が起こってんだ?」


「知らない!急にあんな感じになったの!」


 教室は授業の時以上に騒がしくなっていく。


「口が開かないんだ」


「え?」


 コユの席の近くに、アオとニコも来ていた。

 泣き出したニコを抱き締めながら、アオは続けた。


「急に口が開かなくなっちゃったんだと思う。高橋君、口を上下に引っ張ってるのに……」


「なんでそうなったわけ!?」


「わからない………。あれ?」


 アオは目を凝らした。


「高橋君の口元、光ったような……」


「はぁ?」


 コユも暴れる高橋を凝視する。

 少しであるが、高橋の口元が光ったように見えた。


「なんだありゃ?」


 シロにも見えたようだ。


「アオ、あれが何なのかわからない?」


「何だろう?口が開かない。ちょっと光ってる。何かで止められた?ホッチキス?」


「ホッチキスで留められたっていうの?それだったら痛みで気づ───」


 ふと、コユの目が教室の入り口に行った。

 そこには、和服姿でおかっぱの少女が立っていた。

 手に針が握られており、細長いものがキラキラと光っていた。

 少女はコユに見られていることに気づくと、バツが悪そうに笑い、走り去った。


「コユちゃん?」


「どうした?」


 アオとシロの声で、コユは我に帰った。


「い、いや、何でもない」


 苦笑いで応える。

 コユは先程の少女が、縫子さんなのではないかと考えた。

 姿形が噂と一致していたのだ。


(……空いているところを糸で縫い付けるって……。口が空いてたから縫い付けたってこと!?)


 しばらくして、高橋は保健室に運ばれていった。

 そして、ただ事ではないと判断され、救急車で病院に奔走された。

 高橋の口は、透明な糸で縫われていたという。

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