20.縫われた話
どの学校にも退屈な授業を行う教師が1人はいる。
また、そんな教師と5時限目という時間の相性は、悪い意味で良い。
1年2組の教室は、まさかにその状況になっていた。
(授業……つまんな……)
コユは時計を見たが、授業開始からまだ10分程しか経っていない。
このまま寝てしまおうと思ったが、うとうとしながらも真面目にノートを執っているアオを見ていると、そうはしていられなかった。
しかし、シロとニコはダウンしている。
(アンタらアオを見習いなさいよ……。ていうか真面目に授業受けてるのアオくらいね……)
コユは教室を見回した。
集中できなくなっている何人かの生徒が、ヒソヒソ声でお喋りをしていた。
その中に、コユの元友人達も含まれていた。
小さかった声は、だんだん大きくなっていく。
教師は時々注意をする。
一瞬静かになるものの、すぐにまた元の状態に戻ってしまう。
新任のせいか、舐められているようだ。
コユはその新任の教師にも、喋るクラスメイト達にも呆れていた。
(完全に無駄話してもいいっていう空気になってるわね……)
コユは授業を聞いてみるが、声に遮られて時々聞こえない。
(ホントによく話すわねぇ。当てられたら答えられないくせに)
コユは少し苛立つ。
こんなに喋るなら、休み時間にしてほしいと思う。
(……休み時間かぁ)
コユは、2時限目の休み時間に、どこかから聞こえてきた話を思い出していた。
内容は、“縫子さん”という学校の七不思議についてだった。
縫子さんは和服を着た小学生くらいの少女の姿をしており、裁縫が得意なのだという。
その特技を使って、空いているところを糸で縫い付けてしまうらしい。
そこまで聞いたところでチャイムが鳴ってしまい、あまり詳しく聞けなかった。
(縫い付けるんだったら、破れた服とか?全然怖くないんだけど)
穴が空いた衣類を直す妖怪のどこが怖いのだろうか。
これでは寧ろ親切だった。
コユが縫子さんについていろいろ考えている時だった。
「ん!?んーー---!」
突如一人の男子が、呻き声を上げた。
彼は椅子から転げ落ちた。
床を転がりながら、口を手で開けようとしている。
「おい!どうした高橋!」
「何!?どうしたの!?」
「ちょっ…怖いんだけど」
教室中がパニックになっていた。
呻き声を上げる高橋と呼ばれた男子に、その友人と焦る教師が駆け寄る。
「何なのよ急に……」
困惑したコユは、思わずアオを見た。
アオは目を見開いて震えていた。
彼女もまた、何が何だかわかっていないようだった。
シロとニコも、騒ぎで目を覚ましていた。
「何!?何!?どうしたの!?」
ニコはパニックになっていた。
シロは状況を掴めていない状態で、コユの元に来た。
「何が起こってんだ?」
「知らない!急にあんな感じになったの!」
教室は授業の時以上に騒がしくなっていく。
「口が開かないんだ」
「え?」
コユの席の近くに、アオとニコも来ていた。
泣き出したニコを抱き締めながら、アオは続けた。
「急に口が開かなくなっちゃったんだと思う。高橋君、口を上下に引っ張ってるのに……」
「なんでそうなったわけ!?」
「わからない………。あれ?」
アオは目を凝らした。
「高橋君の口元、光ったような……」
「はぁ?」
コユも暴れる高橋を凝視する。
少しであるが、高橋の口元が光ったように見えた。
「なんだありゃ?」
シロにも見えたようだ。
「アオ、あれが何なのかわからない?」
「何だろう?口が開かない。ちょっと光ってる。何かで止められた?ホッチキス?」
「ホッチキスで留められたっていうの?それだったら痛みで気づ───」
ふと、コユの目が教室の入り口に行った。
そこには、和服姿でおかっぱの少女が立っていた。
手に針が握られており、細長いものがキラキラと光っていた。
少女はコユに見られていることに気づくと、バツが悪そうに笑い、走り去った。
「コユちゃん?」
「どうした?」
アオとシロの声で、コユは我に帰った。
「い、いや、何でもない」
苦笑いで応える。
コユは先程の少女が、縫子さんなのではないかと考えた。
姿形が噂と一致していたのだ。
(……空いているところを糸で縫い付けるって……。口が空いてたから縫い付けたってこと!?)
しばらくして、高橋は保健室に運ばれていった。
そして、ただ事ではないと判断され、救急車で病院に奔走された。
高橋の口は、透明な糸で縫われていたという。




