2.始まりの話 後編
「おーい、今からコイツを教育してやろうぜ」
シロが連れてこられたのは、体育倉庫だった。
中の器具は所々埃を被っている。
倉庫内にはざっと数えて10人程がいた。
不良の言葉遣いから、ここは2年生の不良グループの溜まり場になっているようだった。
3年生の目が行き届いていないので、やりたい放題なのだろう。
中の不良たちは、タバコを吸ったり、落書きしたりと、それぞれ楽しんでいた。
そんな不良たちの目は、シロに集中する。
「なんだそいつ」
「新入生か?」
「舐めた格好してやがんなぁおい!」
一人がシロの下まで近づき、胸倉を掴んだ。
「教育されてぇんならきっちり教えてやんよ」
「興味ないッス」
「んだとテメェ!」
胸倉を掴んだまま、その不良は拳を振り上げた。
顔面に向かって振り下ろすつもりでいた。
しかし、その動作が止まる。
「なっ……………!?」
「……………」
シロはその不良を睨み付けていた。
まるでカエルを睨むヘビのように。
がやがやしていた倉庫内は、瞬く間に静かになった。
「……放せよ」
「!!」
シロの胸倉を掴んでいた不良は、素早く手を離し、後退った。
「何なんだよお前!」
「ただの1年じゃねぇ…」
「ま……まさかお前、シロか!?」
不良の一人が、連れこられた新入生の正体に気付く。
それから再び不良たちが話し出した。
「シロって、あの?」
「あぁ、パイセンが手ぇ出すなって言ってた」
「1人で20人相手に勝ったっていう?」
「暴走族の総長とタイマンで勝ったって噂もあるぜ」
(……もう帰って良さそうだな)
不良たちの様子を見てそう思ったシロは、倉庫から出ようとした。
すると、新たに4人入ってきた。
シロはそのうちの1人を見て驚いた。
「お前……」
「…シロ………君?」
そこにはアオがいた。
涙で目が潤んでいる。
どうやら無理矢理連れてこられたらしい。
ここの連中が少女を連れてきてやることは、容易に想像できた。
「お前らぁ、この娘なかなか可愛いぞ!まわそうぜ!」
アオを連れてきた1人がそんなことを言う。
しかし、シロに威圧された連中は、そういうわけにはいかないようだ。
そんな中で、アオは言う。
「シロ君、逃げて!」
シロからすると、アオがどうしてそんなことを言うのか解らなかった。
「あん?何だお前?この娘お前の女か?」
「お前調教でもしたのか?ギャハハ」
アオを連れてきた3人がシロに気付いた。
「逃げろって、お前……」
「きっと、危ないから。だから逃げた方がいいよ」
「お前はどうすんだ?」
「わ、私は……大丈夫だから」
アオはそう言うが、絶対に大丈夫そうではない。
脚が震えている。
怖くて仕方がないのに、アオは助けを求めなかった。
寧ろ、自分よりシロのことを気にかけている。
「はぁ………。そいつ、今日知り合ったばっかだから、そんなに関係ないッスよ」
「そうかよ。それじゃ早速~」
一人の不良がアオの胸に手が伸ばした。
するとシロは、その手を掴んで阻止した。
「はぁ!?関係ないんだろ?なら引っ込んでろや!」
「関係ないッスけど、俺、アンタらみたいなクズに犯されそうになってる女を見過ごすほど、腐ってないんで」
「ンだとコラァ!!!」
不良はシロに殴り掛かった。
しかしシロはそれを軽く躱すと、相手の勢いを利用して顔面に拳を叩き込んだ。
殴られた不良はそのまま沈んだ。
「シロ……君…………?」
「心配すんな。俺強ぇから」
アオを連れてきた残りの2人も、威圧された10数人も、それぞれ武器を持ってシロを囲った。
そして、一斉に殴り掛かった。
相手が何人だろうと、シロには関係なかった。
向かってくる不良を、殴り、蹴り、投げ飛ばす。
それもほぼ無傷の状態で。
まるでアクション映画のように、不良たちは倒されていく。
体育倉庫は、あっという間に気絶した不良で埋め尽くされた。
シロはアオを見据えた。
「……お前、何でここに連れてこられたんだよ?」
「あ……、あの、えっと………。は、話すと少し長くなるんだけど……」
「ここじゃアレだな。移動するか」
2人は場所を、誰も居ない校舎裏に移した。
アオは、連れてこられるまでの経緯を話した。
「お前、騙されるなよ。肩ぶつけたくらいで骨が折れるわけねぇだろ」
「でも、本当にありがとう。シロ君がいなかったら、私、どうなってたか……」
「知らなねぇ方がいいな」
「そう……だよね………」
そう言いつつ、アオはシロのことを知りたくなった。
そこで、話題をシロにしてみることにした。
「シロ君、強いんだね」
「まぁな…………」
「空手とか、柔道とか習ってるの?」
「何も習ってねぇよ。喧嘩が絶えなかっただけだ。」
「喧嘩……?」
「まぁ、お前に話しても仕方ねぇかもな」
「そんなことないよ。聞かせて。不満なことがあったら、私に話してもいいよ。きっとスッキリするから」
「そうか……」
アオが何故ここまで自分を気にかけるのかわからないが、シロは言葉に甘えることにした。
「俺の出身校、小中通して荒れててな、小学のときなんかは学級崩壊は当たり前でな、生徒が教師を泣かすほどだったな」
「酷かったんだね……」
「あぁ。いじめと暴力が多かったな。だから弱ぇ奴は強ぇ立場の奴の下に着いてた」
「シロ君はどうしてたの?」
「奴らに負けたくなかったからな。絡まれる度に1人で喧嘩してたな。最初は負けてばっかだったが、今じゃこの通りだな」
「1人、寂しかった?」
「屈するよりはマシだったな」
「やっぱり、シロ君は強いね。私と大違い」
「………お前はどうだったんだ?」
「へ?」
「俺は喋ったぞ。だから今度はお前が話す番だ」
「……思い出したくないけど、シロ君なら、いいか」
アオは深呼吸をして、語り出した。
「小中学校は、私にとって地獄だった」
「地獄?」
「うん。私、その頃自分の意見や気持ちをはっきり言えなくて………」
「お前、いじめられてたのか?」
「うん。私には、双子のお兄ちゃんがいて、お兄ちゃんは私を助けてくれるんだけど、私、目立たない場所に連れて行かれて……、そこで殴られたり、蹴られたりした」
「何でお前みたいな奴が……」
「私がウジウジしてたからだと思う。私を殴るとき、みんな笑ってるんだ。私が泣くと、みんなはもっと笑うの」
「なんだよそのイカれた奴ら」
「そう言わないで。みんな、きっと事情があったんだよ」
「…………辛かったんだな。だが、お前も強ぇと思うぞ」
「どうして?」
「さっき、お前はヤベぇ状態だったのに、自分より俺を優先してたろ?普通できねーよ」
「……………」
アオは無言になる。
シロもそれに合わせた。
2人はただ、校舎裏で座っていた。
するとシロが、再び話を切り出した。
「アオ」
「あ、私の名前……。やっと呼んでくれた」
アオは笑顔になった。
「俺で良ければなるぞ。お前の友達」
「え……?」
「あ?嫌か?」
「う、ううん!嬉しいよ!ただ、ちょっと驚いちゃって………。私、友達って呼べる人を作れなかったから」
「俺もだ。それじゃあ今日からよろしくな」
「うん!!」
誰も来ることがない校舎裏。
そこで、2人の友情が生まれた。
キャラ紹介
シロ
本名 冬庭 志路
性別 男
学年 高1
誕生日 5月3日
趣味 散歩
好物 ガム、飴玉
制服の上に、白いパーカーを着ている。
アオが初めての親友となった。
不良っぽいが、本人は否定している。
喧嘩はかなり強い。