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八百万  作者: マー・TY
第二章
13/115

13.ヤモリの話

「任真すぐ帰ってくるから、ニコちゃんは適当にくつろいでいて」


「はーい!」


 トウの母の言葉に甘え、ニコはトウの部屋のカーペットにチョコンと座った。

 休日になると、ニコはよくトウの家に来る。

 トウは迷惑そうにするが、結局は家に上げる。

 現在トウは、母にお遣いに行かされている。

 ニコに出すジュースや菓子が無いので、近くのコンビニに購入しに行ったのだった。


「トウ、まだかなぁ?」


 そう言うニコは、カーペットに寝っ転がる。


「エヘヘ。いつものトウの部屋~♪」


 トウとは幼稚園からの付き合いで、ニコはその頃からトウの家で遊んでいた。

 置いてある物はトウの成長に合わせて変わっていっているが、家具の配置はあまり変わらない。


「わーーーーっ♪」


 ニコは起き上がると、今度はベッドに飛び込んだ。

 毛布から温かみを感じ取っている。

 そして子犬のように毛布の匂いを嗅ぎ、幸せそうな笑みを浮かべた。


「随分と好き勝手しておるな」


「えっ?」


 老人のような、しわがれた声が聞こえた。

 ニコは慌ててベッドから飛び起きた。

 トカゲのような生物が、ニコを見下ろしていた。

 身長は160センチ程。

 白い和服姿で、黒い烏帽子を被っていた。


「トカゲ!」


「違うわい!」


 その生物はニコの言葉を否定し、自己紹介を始めた。


「わしはヤモリじゃ。この家に住んでおる」


「ヤモリ………?」


 ニコはポカンとしていたが、この家に住んでいるという言葉に引っかかった。


「えっ!?住んでるの!?トウの家に!?」


「そう言うておろう」


 ヤモリは胸を張って応えた。

 しかしニコには、あまり伝わっていないようだった。


「トウ、いつの間にこんな大きいトカゲ飼ったのかなぁ?」


「ペットではない!そしてトカゲでもない!ヤモリじゃ!」


 ヤモリのツッコミにぶれることなく、ニコは質問をした。


「ヤモリさん、あなたはいつからトウの家族になったの?」


「うーむ……。家族とはまた違うが、この家ができて間もない頃からいるのぉ」


「えっと………何年?」


「80年くらい前かの?」


「80年!?」


 ニコは驚く。

 トウが住むこの二階建ての一軒家、何度か整備はされているが、そこそこ歴史がある。


「おぅ。そしてお主と任真のことは、お前たちが幼子の頃から見ておる」


「えっ!?いたの!?」


「今まで姿を消していたからのぉ。わしは精霊のようなもんじゃからな」


「精霊………?妖精さん!?」


 ニコの目が輝いた。


「まぁ、そういうことじゃな」


「ねぇ、ヤモリさんって何してるの!?」


 ニコは完全に興味津々といった様子だ。

 ヤモリは自身について説明を始めた。


「まず、わしはヤモリと名乗ったが、ヤモリとはトカゲの仲間の生物のこと。精霊でない、動物の方が沢山いるぞい」


「そうなの?」


「わしには特に名前が無いのでな、そう名乗っとる。そしてヤモリは、家を守ると書ける。文字通りわしは、この家を守っておる」


「ヤモリさん、偉いね!」


「いや、守っておったの方が正しいか」


「え?」


 ヤモリは俯いた。


「この家に近づく悪いものを追い払うのがわしの役割なのだがな、もうそれができぬ」


「どうして?」


「この隠神市の、神がいなくなってしもうたのが原因かもしれぬ」


「神様が……?」


 ニコは少し意外そうにする。


「この街、神様がいないの?」


「左様。この街にひとつだけある神社に神が住んでおったのだが……。突然いなくなってしもうたのじゃ。それからなのじゃ。わしが力を失ったのは。今では壁や床をすり抜け、虫を食すくらいしかできぬな」


「そうなんだ………」


「まぁ、そういうわけじゃ。最悪わし自体が消されるのも時間の問題かもしれぬ」


 ヤモリはさらに表情を暗くする。

 そんなヤモリを見て、ニコは励ましのため、微笑んだ。


「ねぇねぇ!お話しようよ!」


「話?」


「今トウがいないから退屈なの!もっとお話聞かせてよ!昔のトウのこととか!」


 ニコの笑顔に、ヤモリは釣られて笑う。

 最悪消されるくらいなら、その前にいろいろ話してしまおう。

 そう考えたヤモリは、ニコの話に乗った。




 ジュースとクッキーを盆に載せ、それを持って自室に戻ったトウは、ただ立ち尽くしていた。

 先程からニコが、虚空に向かって話をしているのだ。

 勝手に笑って、勝手に驚く。

 時には、何故かトウ自身しか知らない内容まで上がっていた。


「これだから嫌なんだよ……。コイツといるのは……」


 トウのニコへの不快感が、また高まった。

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