表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八百万  作者: マー・TY
第二章
12/115

12.雨の日の話

「はぁ……。シャトルラン疲れるわー。ホント」


「ニコも疲れたー!」


「そうだね」


 コユ、ニコ、アオの3人は、女子更衣室で体操服から制服に着替えながら話していた。

 高校に入学してからの体育の授業は、体力テストが続いている。

 この日の4時限目の内容は、シャトルラン。

 どんどん速くなる音楽に合わせて、体育館の端から端へ走り続ける、持久力を計るテストだ。

 このテストを受けた生徒達はヘトヘトである。


「まさか男子の番でカイとシロの一騎打ちになるなんてね。どっちも限界まで走りきったし」


「トウだって凄かったよ!3番!」


「体力あるんだなぁ………」


 体育の授業は2クラス合同で行われる。

 1、2組が一緒だったので、コユ達はカイ達1組の様子を見ることができた。


「ショウはいつ抜けたのかわかんなかったわね」


「うん……。ていうかコユちゃんも凄かったよ!」


「いや、あたしが残ったの最後から5番目くらいよ?」


「コユ!100行ったじゃん!凄い凄い!」


「いやそんな………。そういえばニコは問題ないけどアオ、抜けた後倒れてたけど大丈夫なの?」


 アオはなんとか健闘していたが、もともと運動が苦手だ。

 音楽に間に合わなくなり、走行エリアから抜けたと同時に床に倒れ込んだ。


「大丈夫だよ。休んだら良くなったから」


「それならいいけど……。体力付けたらどう?ちょっと貧弱よ?」


「そうします……」


「2人共行こ行こ!昼休み終わっちゃうよぉ!」


 ニコに急かされると、アオとコユはクスリと笑った。

 3人は女子更衣室を後にした。




 教室に戻った3人は、机をくっつけた。


「あれ?シロは?」


「カイ達と先に食べてた。楽しそうだったからそっとしておいたけど……」


「男子って教室で着替えられるから便利よねー。ま、いいか。ガールズトークでもしながら食べよ!」


「賛成ーーーーー!」


 3人は楽しそうに話しながら、昼食を摂った。

 しかし、ガールズトークを提案したとはいえ、コユの身体は食物を求めていた。

 シャトルランでかなりエネルギーを使ったようだ。

 デザートのチョコレートも胃に収め、アオやニコよりも先に完食してしまった。

 

「ご馳走様!」


「え?もう?」


「いやぁ、話ながらでこのペースかぁ……。自分でもなんか引くなぁ。とりあえず歯磨きしてくるわ」


「うん、わかった」


「いってらっしゃーい!」


 コユは廊下に出た。

 歯を磨きながら、校庭を眺める。

 今日は朝から雨が降り続いていた。


(まだ降ってるのかぁ……。最悪)


 コユは雨が嫌いだった。

 妙にジメジメして蒸し暑い。

 登校中も、傘を差していても雨粒は入ってくる。

 それで荷物が濡れてしまうし、制服も少し被害を受ける。

 靴下も濡れて気持ち悪かった。

 この雨は夜まで続くという。

 雨季も近づいている。

 学校に来るのが憂鬱になりそうだった。


「………ん?」


 コユは校庭の真ん中辺りに、一人の女子生徒がポツンと立っているのを見つけた。

 こちらに背中を向けていて、顔が見えない。

 雨が降っているというのに、彼女は傘も差していなかった。


(ずぶ濡れじゃん。何やってんの?……まさか、いじめられてる!?)


 そう思ったコユは、歯磨きセットをポケットに入れ、傘立てから自分の傘を抜き取り、急いで階段を下った。


(風邪引かなきゃいいけど!)


 靴箱に到着し、靴を履き替えて傘を差し、校庭に走った。

 パシャパシャと雨水が泥を含んで飛び跳ねた。

 ようやく女子生徒のところに着くと、コユは傘を彼女の方に寄せた。

 彼女は振り返る。

 前髪が長く、両目はほとんど隠れていた。


「ほら。こんなところにいたら風邪引くよ。校舎に戻ろう。体操服とかある?もし無かったらあたしの貸すから」


 女子生徒は、コユの方に身体を向ける。

 そして口を開いた。


「遅い……」


「え……?」


 彼女の声は、とても冷たく感じた。


「何で今?何で今なの?どうしてもっと早く助けてくれなかったの?死んでからなんて、意味ないよ」


「え…………?」


 コユは茫然とする。

 その隙を突いてか、彼女はコユの首を両手で締めた。


「あっ!?………がっ……………」


 コユは傘を落とし、顔を苦痛で歪めた。

 彼女の両手を引き剥がそうとするが、力が強く、離れない。

 彼女はコユの顔に、自分の顔を近づけて怒鳴った。


「もう…、遅いんだよ!!!!!!!!!!」


 首を締める力が強まる。

 コユの意識がだんだん遠のいていく。

 窒息するのが先か、自分の首が折れるのが先か。

 コユが死を悟ったその時……。


「グェ……!!」


 女子生徒の口から蛙のような声が聞こえた。

 コユの薄れていた視界に、彼女の首に傘の先端が刺さったのが見えた。

 彼女はコユの首から手を離し、苦しそうに首を抑える。

 コユは後ろに倒れそうになったが、それをアオが受け止めていた。

 右手で畳んだ傘を持っていた。


「コユちゃんは大切な友達なの!連れて行かせないから!」


 普段大人しいアオが怒鳴った。

 しかし、そこに女子生徒の姿は無かった。




 その後、コユはアオに連れられ、保健室に向かった。

 保健室にはそこの先生と、タオルを持ったニコが待っていた。

 ジャージに着替えたコユは、5、6時限目は保健室で休み、翌日には正常に戻った。

 ちなみにこの学校、隠神高校にはこんな噂がある。

 昔、隠神高校には、心臓が弱い女子生徒が通っていた。

 彼女はいじめを受けていた。

 ある雨の日のこと、彼女はいじめっ子達に校庭に追い出された。

 雨に濡れた彼女は低体温症になり、そのまま亡くなってしまった。

 彼女は死の直前まで、いじめっ子達を、見て見ぬフリをしていたクラスメイト達を恨んでいた。

 それから、雨の日の隠神高校の校庭には、悪霊となった彼女が現れるのだという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ