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八百万  作者: マー・TY
第二章
11/115

11.廊下での話

 図書室で本を借りたアオは、教室に戻っている最中だ。

 自分好みの本を見つけられたので、とても楽しみにしている。


「あ、その本知ってる。おもしろいよ」


 急に話しかけられたアオは、短い悲鳴を上げて驚いた。

 本を全て落としそうになったが、なんとか耐える。

 横を見ると、一人の女子生徒が窓から顔を出して、ニコニコ笑っていた。

 黒髪ロングで黒縁の眼鏡。

 見るからに文学少女といった感じだ。

 何故窓から話しかけてくるのだろうか。

 アオは不思議に思った。


「私も以前、あなたみたいに喜んだりしてたなぁ」


 彼女は懐かしそうにそう言った。

 “以前”という言葉に、アオは引っかかる。

 

(どうして過去形で話すんだろう?それは…、以前借りて読んだことがあるということを示してるんだろうけど………。それとも本を読むのをやめちゃったとか?)


 いずれにせよ、なんとなく違和感があった。


「フフフ。そうだ。どんなお話なのか教えてあげようか?」


「い、いいえ!大丈夫です!」


 その女子生徒に突然そう言われ、アオは反射的に断った。

 今から読む本の内容を教えてもらっては、読む意味を無くしてしまう。

 さらに言えば、アオが借りたのは推理小説だ。

 犯人を言われたら堪らない。

 ずっとその人を気にしながら読む羽目になる。


「真相は自分で確かめますので!」


 そんなアオを見て、女子生徒は微笑んだ。


「そうよね。今から読もうとしてるときに、ネタバレなんてつまらないものね。ごめんなさい。ちょっとからかっただけよ。でも私、これでも本を愛してるの。これからも楽しんで」


 女子生徒はアオにそう言うと、再びニッコリと笑った。




「…………あれ?」


 いつの間にか、女子生徒はいなくなっていた。

 どこかに行ってしまったようだ。

 しかし、彼女はそんな素振りを見せなかった。

 いなくなる前に、アオはせめて名前を聞いておけばよかったと後悔した。

 どの学年なのかは知らないが、きっと仲良くなれるだろう。


「よぉアオ!何やってんだ?」


 声がした方を見ると、カイが不思議そうにアオを見ていた。

 アオは話した。

 図書室からの帰りに、窓から顔を出していた女子生徒に声をかけられたこと。

 本の内容を教えようかと言われたこと。

 彼女が本好きなこと。

 いつの間にかどこかに言ってしまったこと。

 全て話した。

 するとカイは、ありえないとでも言いたげな表情を見せた。


「どうかした?」


「どうかしたって……お前……ここ……」


「ここ?………!」


 アオは違和感の正体に気づいた。

 今アオがいる校舎の構成は、1階が進路指導室、進路資料室と空き教室、2階が3年生、3階が2年生、4階が1年生となっている。

 3年生が進路について考えやすいように、このような構成になっているという。

 そしてアオが今いるのは4階。

 つまり………。


「窓から顔出せるとかありえねぇだろ」


 アオは慌てて窓の外を見た。

 中庭が遙か下に見える。

 窓の外には人が立って話せるようなスペースはない。

 アオは何も言えなかった。

 これが物語の表現でよく出てくる、“絶句”なのだろう。


「まぁ、多分本の読みすぎなんじゃね?本と現実を合わせちまった……みたいな?読書しすぎて疲れたんじゃないか?好きなことでも休憩は必要だって言うしな」


「そうなのかな?」


「きっとそうだろ」


 それにしても、あの女子生徒は何者だったのだろうか。

 霊的な類いなのか……それとも……。

 それとは別に、アオはカイの意見も正しいのではないかと考えた。

 そして少し怖くなった。

 自分が現実とフィクションの区別がつかなくなっているのではないかということに。

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