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八百万  作者: マー・TY
最終章
101/115

101.人格の話

“コンコン”


 放課後、科学準備室の扉が叩かれた。


「おっ?入っていいぞ~」


「……失礼します」


 司波が椅子を入り口の方に回転させ、許可を出す。

 静かに扉を開け、アオが科学準備室の中に入ってきた。

 

「よぉ、こうして2人きりで話すの久しぶりかもな」


「すみません、お忙しいところを……」


「いやいや、ンなことねぇよ。そんじゃあ話すか」

 

 アオは事前に司波に許可を取っていた。

 いつもの科学用の大きな机に、2人は向かい合って座った。

 それから司波がアオの前に麦茶を置く。


「んで、今日はどうした?」


「……昨日、カイから聞いたことで、…それで気になって調べてるんですけど………」


 カイの話から切り出したことを、アオは司波に説明した。

 今度はニコとシロの意見も取り入れた。

 話が終わるまで、司波は頷きながら静かに聞いていた。

 

「……えっと、以上です」


「お前の中に誰かがいるってわけだな」


「はい」


「お前は、そいつの正体をどう思ってんだ?」


「そうですね……。私は、ネムじゃないかって、思ってます」


「ネム?……あぁ、お前が以前話してた夢の中の奴か。確かいつも眠ってんだよな?…………なる程、それなら案外納得いくかもな」


「えっ……?」


 司波はコクコクと2度頷いてから意見を持ち出す。


「あの時は『もしネムが起きたらどうなるか』っていう疑問だけで終わったよな。……それで、お前が無意識、無自覚のうちに動く前はどんな状況だった?思い出してみろ」

 

「えぇと……」


 村山からスタンガンを受けた時。

 図書館から帰っている時。

 それから、リリを襲っていた怪人に気絶させられた時。

 アオが憶えているのは、これら3つだった。

 その後のことも含めて、3つを司波に話す。


「怪人ってお前………。まぁとにかく簡潔に言わせてもらえば、『ネムはお前を守るためのもう一人の人格』ってところだな」


「私を……守るための………?」


「俺の仮説も混ぜて話すが、お前自身が無意識無自覚になる時は、おそらくネムが体を乗っ取ってるんだろう。そんでもってその前に、お前は大体命の危機に遭ってる」


「確かに……。えっ?じゃあ図書館から帰ってる時は……?」


「その時は自宅で目が覚めたんだろ?多分図書館から帰ってる途中の道から家に着くまでの間に何かあったんだろう。お前にとってかなり辛いこととかな。お前は何も知らないだろうが、ネムがお前の記憶も好きにできるとしたらどうだ?」


「私の記憶を!?ネムにそんなことが………?」


「仮説って言ったろ?でも、もしネムがお前を守るためにいるなら、そんな芸当ができても不思議じゃないんじゃないか?お前の中に今もいるわけだしな」


「確かに………」


 アオは自身の胸に手を当てた。

 こうして司波と会話をしている今でも、ネムはきっと眠っている。

 アオに危害を加える者が現れるまで。


「………ありがとうございます。ネムについての理解が、深まったと思います」


「そりゃ良かった。もう帰るのか?」


「はい。お話を聞いていただき、ありがとうございました」


「おう。気をつけてな」


「はい。失礼しました」


 今回で多くのことを知れた気がした。

 アオはペコリとお辞儀をし、ゆっくりと扉を閉めた。




 司波と話したことで、かなりの収穫を得られた。

 寧ろ、それが正解だと思える程に。

 カイからもう一人の自分について聞かされ、少し不安になっていたが、それも解消された。


(ネムは今まで、私を守ってくれていたんだ……。ありがとう、ネム。これからも……………)


 これからも、から言葉が続かない。

 ネムがアオを守ってくれているということから、また新たな悩みが増えた。

 これからも怖いことから、ネムが守ってくれる。

 それに、おそらく嫌な記憶も消すことができる。

 しかし、果たして本当にそれでいいのかという疑問が、アオの脳内に浮かんだ。


(恐い記憶が、私から消える。恐いこと……危ないことは、全部ネムに丸投げ……。でも、本当にそれでいいの?私は、知らなくていいの?)


 このことに関して、アオは腑に落ちずにいた。

 このままいけば、ネムが本来負うはずのないダメージを、これからも負うことになるのだ。

 もう一つの人格とはいえ、アオの中にネムに対しての情が生まれていた。


(………カイ、シロ君……みんなに打ち明けた方がいい……よね?)


 「お前は人を頼らなさすぎる」「もっと頼れ」と、カイやシロ達によく言われているのを思い出す。

 まずは帰って今日のことをカイに話そう。

 そう思い立った時だった。


“ドッ”


 突然背中に衝撃が走り、アオはアスファルトの上に倒れた。

 何事かと思って振り返ると、一人の少女が立っていた。

 顔立ちが整っており、ピンクブラウンの短めなツインテールに、セーラー服のピンクのカーディガンが印象的だ。

 そしてアオを見つめるその瞳は、妖しく輝いていた。


「あはっ、あははははははは!!見つけた~❤やっと見つけたよアオちゃ~ん❤」


 少女は頬を紅くして喜んでいる。

 それとは対照的に、アオの顔は青ざめ、体が震えだして止まらなくなっている。


「アオちゃ~ん。当然憶えてるよね~。キララのこと❤ねぇ、ねぇ憶えてるでしょ~?」


「…………佐渡川…………さん……………………?」


「もぉ~、苗字呼び~?キララちゃんで、いいんだよ?」


 アオの目の前に突然現れたこの少女の名は、佐渡川希星。

 中学時代の同級生であり、いじめの主犯格だ。

「希星」と書いて「きらら」と読みます。キラキラネームです。

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