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八百万  作者: マー・TY
最終章
100/115

100.もう一人の話

「はぁ………」


 その日の夜、風呂上がりのアオは疲れた様子でリビングのソファに腰掛けた。

 殺意剥き出しの少年。

 胎児で作ったお菓子を薦めてくる女性。

 そして、死体に群がり嗤う人達。

 恐いと言うべきか、不快と言うべきか、とにかくアオにとっては最悪な一日だった。

 

「もう、しばらく街に行くのやめようかな……」


 そう言って溜息を吐き、オレンジジュースを飲む。

 そこへ、2階からカイが降りてきた。


「ん?どうしたアオ、元気ないのか?」


「ううん。何でもないよ……」


 アオは笑顔で応えた。

 辛そうな顔をカイには見せられない。

 カイは不思議そうに首を傾げ、アオの隣に座った。


「あのさ、アオ。俺、前から気になることがあるんだけどいいか?」


「ん?何?」


 実はカイは、以前からアオに疑問を持っていた。

 話すとアオを混乱させそうなため、今まで黙っていた。

 とはいえ、それが危険なものだと考え、ついに話すことにしたのだ。

 

「俺も上手く言えないんだけどな、……なんつーか、お前の中に誰かいるような気がすんだよな」


「えっ……?」

 

 これだけ聞いただけでは、アオには何が何だか解らない。

 カイは話を続ける。


「前にな、お前が何も言わずに帰ってきたことがあったんだ。その時は俺が話しかけても無反応で、なんか無視されてるみたいだったんだよな」


「……」


「それと、嫌なこと思い出させるようで悪いんだけどな、村山からお前を助けに行った時、お前、椅子で村山をぶん殴ろうとしてたんだ。その時のお前、なんか別人みたいな感じだった」


「………椅子で?」


「ん?あぁ。椅子で」


「私……そんなことしてない」


「えっ!?」


 今考えてみれば、アオには欠如していると思われる記憶がいくつかあった。

 ある時、図書館から帰っていた筈が、気づけば家のベッドで眠っていた、なんてこともあった。

 誘拐された時は、アオは村山からスタンガンを受けて気を失った。

 その後カイに起こされたため、カイ達が助けてくれたと思い込んでいた。

 村山を椅子で殴ろうとした記憶はない。


「そ……そうか………」


「う、うん……」


「いや、わりぃな。……それじゃあ、風呂入ってくる」


「いってらっしゃい」


 気まずくなったのか、カイは浴室に向かった。

 一方アオの胸の内には、もやもやが残る。


(私、本当にどうしたのかな?……私の中に誰かいる?……それって………)


 アオはネムのことを思い浮かべた。

 ネムはたまにアオが見る夢の中で現れる少女で、姿形はアオと全く一緒だ。

 入り口も何もない部屋でいつも眠っており、全く起きる様子がない。

 

「………ネム……なのかな?」


 アオはオレンジジュースが半分入ったコップを見つめて呟いた。

 自分の中にいるもう一人の人物といったら、彼女しか思いつかない。

 

「……調べてみようかな。………………よし!」


 そう言うとアオは、残りのオレンジジュースを全て飲み干す。

 ネムがどのような存在なのか、いまいちよく解っていない。

 アオはネムを知りたくなった。




 翌朝、アオは眠そうな顔をしながら登校していた。

 昨日のこともあり、あまり眠ることができなかった。

 欠伸の頻度もいつもより多い。

 ちなみに、そんな睡眠不足気味だが起きているアオとは違い、遅刻常習犯のカイはまだ寝ている。


「カイ大丈夫かなぁ……。今日、起こす元気なかったよぉ……。でもいつも起きてくれないもんなぁ……………あっ!」


 ボケ~ッとしていたアオは我に返り、両頬を叩いた。

 

「よし、ちょっと目が覚めたかも……」


 気合いを入れ直したところで、アオはまた歩き始める。

 するとそのタイミングで、馴染みの声が聞こえてくる。


「アオ~~~!!!」


 明るく無邪気で元気な声。

 アオにはその声だけで誰だか解った。

 振り返ると、ニコがこちらに走ってくるのが見えた。

 

「あっ、ニコちゃん」


「アオ~~~!!!おはよ~~~~!!!」


 例え朝だろうと、ニコのテンションは変わらない。

 いつだろうと彼女は元気だ。

 その元気な状態のまま、思いっ切りアオに飛び込む。


「うわっ!?」


 飛び込んできたニコを受け止めきれず、アオは仰向けに倒れた。


「……ニコちゃん…加減、して?」


「えへへ。ごめんね~」


 ニコはアオの手を引っ張って立たせた。

 このニコの純真無垢な笑顔に、アオはいつも癒やされている。


「………あ、そうだ」


「ん?な~に?」


 アオはニコに、ネムについて聞いてみることにした。

 こういうことは、まず仲の良い者に訊くに限る。

 アオは昨晩カイに言われたことをニコに話した。


「もう一人の、アオ?」


「うん……」


「う~ん……なるほど!」


 ニコには怖い話だったのではと思うところもあったが、案外心配はいらなかったようだ。

 普通にコクコクと頷きながら聞いていた。

 それからニコは一拍置き、話し始めた。


「前から思ってた!アオの中に、もう一人いるって!」


「えっ?解ってたの?」


「うん!……でも、アオ、そういう娘なんだって思ってた。だから言わなかったんだけど、悩んでたの?」


 アオは驚きを隠せなかった。

 ニコはネムのことを見抜いていたようだ。


「その……もう一人の私って、表に出てたりした?」


「う~ん……見たことないかも。ただね、ニコ、時々アオが2人に見える時があるの。それだけ」


「そう…なんだ…………」


「あっ、トウだ!!」


 アオとの会話で真面目な口調になっていたニコだったが、急にいつものテンションに戻る。

 2人の前をトウが歩いていた。

 トウのことが大好きなニコは、アオを置いて走っていってしまった。


「待ってニコちゃん!………いや、まぁ、いいか」


 トウにくっついて幸せそうにしているニコに、これ以上は野暮だと考える。

 とはいえ、今のは良い手掛かりになっただろう。

 この調子で、アオは他の友人や知り合いにも訊いてみることにした。




「もう一人のお前……なぁ…」


「うん……」


 アオは学校に到着すると、今度はシロに相談をした。

 よく一緒にいるシロだからこそ、何か知っているのではないかと考えた。

 

「……そうだな。お前を村山から助けに行った時、お前、まるで人が変わったみてぇだった。一瞬だけどな」


「もしかして、椅子で村山先生を殴ろうとした時?」


「あぁ、その時だ。マジで別人だったぞ。思いっ切り村山殺す気だったな」


「そ、そっか……。その、他に何か知らない?」


「わりぃ、俺が知ってんのはそれくらいだ」


「ありがとう」


 シロから聞けたことは、カイと大体同じだった。

 どうやら「もう一人のアオ」というのは、簡単には表に現れないらしい。

 そう考えると、ニコの勘はかなり鋭いものと捉えられる。

 アオはすっかり考え込んでいる。

 そこにシロが、一つ提案をした。


「そんなに悩んでんなら司波先生のとこ行ったらどうだ?」


「えっ?」


「あの人なら俺ら以上にいろいろ知ってるだろ」


 担任である司波は、気怠げに見えてよく生徒のことを見ている。

 放課後に話をする時期もあったため、アオにとっては話しやすい大人の一人になっていた。


「そうだね。行ってみるよ」

 

 アオは放課後、司波がいる科学準備室に向かうことにした。

今回で100話です!

いや~長かった……。

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