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皆さんこんにちは。
突然の異世界転移から30年経ちました。
色々大変だったんですよ。勉強とか勉強とか勉強とか。
お世話になることになったオールセント院は修道院と孤児院を足して2で割った様な施設で、ナム院長は優しいけど厳しくて10年でこの世界で生きていく術を叩き込んでくださいました。
言葉は通じるけど文字は全く読めなかったので、読み書きに始まり、生活魔法(家電を使うための燃料が魔力になっただけの様な簡単なモノだけど初使用は感動した)に家事全般、一般常識に最低限のマナー。
護身術も教えようとしてくださったけど、空手を披露したら「護身術に関しては教えることがありませんね。寧ろ私が襲えていただきたいくらいです。」と苦笑された。
護身術が必要なのは私が女だから。
なんとこの世界女が少ない。比率で言うと男:女=7:3らしい。
女不足で一時期嫁取り戦争が多発し、誘拐騒ぎもあったらしい。
事態を重く見たお偉いさん達が開発したのが妊娠薬。
同性同士の運命の番のみに効果がある薬で、何故か運命の番で無い夫婦が使用しても効果は全く無いらしい。
と言うことでこの世界は同性カップルでも普通に子供がいる。これが一番衝撃だったよ。
セクシャルマイノリティーに偏見は元から無かったけど、流石にビックリしたよ。
だって、近所に住むマッチョお兄さんが妊娠してるとか、地球人なら誰だってビックリすると思うの。
でも、割とすんなり受け入れられた方だと思うよ。
一番苦労したのは人の名前を覚えることかな。
この世界の皆さん名前が無駄に長いの。
院長はナム・アーゲンハイヴ・ナバ・ルーフ。これでも短い方。
長いよ。日本人見習えよ。ミウ・キリサキとかめっちゃ簡単だよ。
院長は男爵の爵位持ちだけど、平民も同じくらい長い。
ミドルネームとファミリーネームの間が無いくらい。この謎のネームでどの貴族階級かわかるようになってる。
ファーストネームの頭文字と、男爵は『バ』が付く。
分かりやすいんだか、分かりにくいんだか。30年もしたら流石になれたけどね。
今は院を出て一人暮らし中。
王都の隅にある小さな宿で働かせてもらっている。
昼間は部屋の清掃や雑務、夜は1階の酒場でウエイトレスの様なことをやってる。
成人するまで飲酒できないけど、酒場の雰囲気は好きだしチップがよく貰えるから今の仕事は気に入っている。
酔っ払って半獣化した人の耳を触らせて貰えるのもポイントが高い。寧ろこの為にココで働いていると言っても良いくらい。
科学が発展していないから不便なことも多いけど、慣れれば快適だし、モフモフ好きにはこの世界たまらない。
だって生まれたての赤ちゃんみんな獣モードなんだもん。
フワフワモコモココロコロで可愛いのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。
人間の赤ちゃんも可愛いけど、お母さんの腕の中で眠る仔犬とか、もぅたまりません。
あ、ちなみにこの国『ライラプス』は犬族の国でした。獣モードで生活している方も沢山いて、町中ワンちゃんがいっぱい、種類もいっぱい。
獣モードでも会話できるのが凄いよね。
王族は狼でした。何年か前の祭典で遠目から王様だけ見えたけど、めっちゃ美形だった。ハリウッド俳優なんて目じゃないくらい美形でした。キリッとした眼差しが凛々しくて、こんな人いるんだなとビックリしたよ。
更にビックリしたのが、王妃様が私と同じ日本からの落とし子だったこと。しかも男性。
転移して3日で国王とたまたま出会って、運命の番だからとそのまま後宮へ。
今では2人の王子のお母様。人生何が起きるかわからないね。
絶対に無理だろうけど、できるものならお話ししてみたい。
姿絵だけ見たことがあるんだけど、絶対に平成の若者だよ。見てたテレビの話とかしてみたい。
落とし子が多いと聞いていたけど、1つの国で100年に2・3人いるかどうからしい。
地球の感覚で言うと1年に10人くらいだから多いかもしれないけど。
人種もバラバラたし、地球とは別の世界から来てる人が多いから同じ地球人ましてや同じ日本人に出会えるなんて、目ん玉飛び出るくらいの確率だろう。(オールセント院には私以外に2人いたけど、別の世界の方でした)
「やあミウちゃん、買い出しかい?」
「こんにちは、今日は花祭りの見物のお客さんで満員で、思っていたよりお肉の消費が激しくて。いつもの3倍運んでもらえますか?」
「3倍⁉︎えらく盛況だね。さては、可愛い看板娘の噂を聞きつけて若い男どもが集まって来たな。」
「看板娘って言って貰えるのはありがたいんですけど、可愛いって付いちゃうと詐欺にかけてるような気になって、申し訳ないんですよね。」
女性が少ないからって、もてはやしすぎなんだよね。
元の世界でさえ平凡フェイスだった私が、村人でさえ芸能人並みの世界で可愛いわけがない。
こっちに来てから生活運動量が増えてダイエットには成功したけど、日本人特有の短足は変わらなかった。身長は日本人平均はあるけど、周りが脚長長身なのでチンチクリンだし、確実に実年齢より下に見られる。
持てる知識をフル活用して、頑張って育てたバストが唯一自慢できるポイントかな。セクハラに合う確率も増えてる気がしなくもないけど。
「何言ってるんだい明るくて気立てが良くて、おまけに働き者だ。こんな子がウチの息子の番だったら万々歳なんだが。」
「残念ですが、違うみたいですね。本人から“運命の番じゃないが行き遅れたら貰ってやる”って言われましたし。」
「あいつそんな事言ったのか⁉︎あのドラ息子、行き遅れるのは確実に自分だろうが。残念だがミウちゃんがあいつの運命じゃなくてよかった。あいつじゃどう頑張ったって幸せにできん。」
彼はただのツンデレをこじらせてるだけの気もするけど、ツンが前面に押し出せれ過ぎてデレがほぼ見えないんだよね。顔は良いのに残念だ。いや、この世界では平凡なのか?悲しくなってきたから考えるのやめよ。
「そういえば今年は花子やらないのか?毎年やってただろ。」
花子は日本人女性の名前じゃありませんよ。発音は『舞妓』と同じ。
毎年開催される豊穣を祈るお祭り『花祭り』で縁起物の花輪を配り歩く女性や子供たちを『花子』と言う。
誰でもできるわけじゃなくて毎年会議に会議を重ねて厳選しているらしいが、なぜか毎年私も選ばれていた。
笑顔を褒められることが多いからそのせいかな?無愛想な子から花輪貰っても嬉しくいもんね。
コレが結構大変で、大量の花輪を配るだけではなく、観光客の案内やパレードの踊り子も兼ねているので休憩する暇が無い。
報酬は貰えるけど、結構ハードで祭り期間の3日が終わるといつもヘトヘトで仕事にならない。
人族に比べて獣人は体力あるけどそれでも皆口を揃えて「疲れた」を連呼するくらいだもん。私頑張ってるって言っていいと思う。
「今年は宿の予約が多くて人手が足りないから辞退したんです。
そのかわり休憩貰って屋台巡りする許可貰っちゃいました。毎年見たくても忙しくてできなかったんで楽しみです。」
「それは良かった、楽しんでおいで。
ミウちゃんが好きなノウレンのカステラも王城正門前に屋台を出すらしいから行っておいで。」
「本当ですか⁉︎絶対行かなきゃ。ありがとうございます。」
ノウレン辺境伯領は牧場に力を入れている地域で、そこで取れる新鮮な卵と牛乳で作られるカステラは絶品。
1日に作れる数に限りがあるし何より賞味期限が短い。持って3日。
だから取り寄せるなんて出来ないし、辺境伯領は王都から馬車で丸1日かかるのでなかなか行けない。
なかなか食べることのできない私の大好物が出店してるとか見逃せるわけがない。
良い情報貰いました。さすが城下町一番の情報通と名高い精肉店女店主。
井戸端会議で仕入れた情報とは思えないほど何でも知ってるんだよね、絶対敵に回したくないよ。
さて、楽しみが増えたし買い出しも終わった。
急いで帰ってお仕事頑張ります。