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硬直する女




質問です。


もし、目の前にナイフが何本も突き刺さっていたら、どうしますか。


アンサー。


固まる。


その後、動揺。


そして辺りを見回し。



「あ、気づいた。姫ー大丈夫?」



なんか、やたら前髪長くて目ぇ見えない少年を見つけました。


うん、意味わからん。


てか、犯人コイツか。



「殺す気か」


「え、姫、殺されたかった?」


「んな訳あるか!!」



日常や世界に疲れているからていって一々死んでたらキリないし、このままの状態で死ぬとか何か癪だし死んでたまるか…………!!



いや、しかして本当なんなの?



「てか、姫ってなに」


「え、桜のこと」


「馬鹿なの?」


「いや、天才だし」


「アホなの?」


「ないね」


「死ぬの?」


「死なねーし。あえていえば姫、死にかけた?」



「誰のせいだと思ってんのぉお!?」


「オレ?」


「間違いなくアンタだよ」



ボケにしては笑えないと思いながらも思わず、どこかで聞いたような言葉を放ってしまう私に動揺するでもなく淡々と。


いや、ぽんぽんと減らず口を叩いていく少年。


謎。


いや、もう本当、謎。


意味がわからない。




「で、なんなのアンタ」


「姫を迎えに来た王子」


「……………………」




頭、大丈夫かコイツ。



初対面ではあるが恐らく年下だろう不審者相手に警戒はあれど遠慮はあまりなく私は口許をひくつかせ。



「あのさー」



そう口を開いた。



次の瞬間。



「あ、電話」



なんとも軽快なメロディーと共に彼は来ていたコートのポケットからスマホを取り出し、さも当然かのように出た。



「もっしー、んあ?なんだソルディかよ。ん?あー、わかった」



何やら誰かと話しているらしかったのだが。



「ん」


「は?」


「姫に代われって」


「は?」



私に?


何の用で?



「とりあえず面倒くせーからスピーカーにする」



「あ、うん」



じゃねえよ私。


え、マジでなんなの知り合いでもないの話とか意味わかんないし。


そうは思いつつも通話の相手は私に話があるらしい訳で。


無視する訳にもいかない、よね。


無駄な律儀さ発揮な私は「もしもし」と疑問系ながらも恐る恐るスマホの向こうにいる相手へと声をかければ相手も「もしもし」と返答しながら話しかけてきた。



「姫?唐突に、ごめんね。けど悪いけど、もうあんまり時間がないんだ。だから話は手短にすまさせてもらうよ」


「…………はぁ」


「「今」の姫は記憶ないんだよね?とりあえず自己紹介だけするね。ボクはソルディ。そこにいる馬鹿王子もどきはベルマット。不信感でいっぱいだと思うけど、半信半疑でためいいから、よく聞いて」


「え、あ…………うん」


「ありがとう。あのね、姫は記憶ないかもしれないかもしれないけどボクらは姫と面識があるんだ」


「ええー・・・」



マジですか?



「簡単に説明するけど、これから先、姫は今いる世界から異世界であるボク達の世界に来て、更にはその過去でボク達と面識を作った」


「え?」



は、異世界?


一瞬宗教的な話か電波な話かとも思いもしたが。



「ごめん…………信じられないかもしれないけど今は信じて」と。



通話相手であるソルディに切羽つまった声で言われては否定の言葉も出にくく戸惑いながらも私は素直に「とりあえず、わかった」と返事をするれば彼は「ふふっ」と笑ったあと。



「…………お人好しなところも相変わらずだね」なんて言いながらも話を続けるねと続きを喋った。




「暫くの間は姫はボク達と共にいた。けれど、ある日突然ある言葉を残して姿を消した」


「ある…………」



言葉?



「うん。キミはこういった」




『ああ、もう時間なんだ。ごめん、もう一緒にいられない…………けどまた逢えるから安心して…………大分、待たせちゃうかもしれないけど、それでももし、まだ私と逢いたいと思ってくれるなら』




「『10年後の』今日この日に『私をこっちの世界に連れてきて』って…………まぁ、『10年後』っていうのは各々違ったみたいだけどね」



「ちなみにオレは『8年後』って言われた。マジ長くて気ぃ狂いそうだったし」



でも頑張ったよ。



誉めて誉めてと無邪気に笑うはスマホ片手に私に抱きつくベルマット。


ぴやぁああ!!


スキンシップ激しすぎだろ!!



「ベ、ル…………く、くるしぃ」



心臓バクバクながらも何とか言葉を紡ぎだす私に「あ、ごめん」と腕を緩めるベルマットがなんだか可愛くて条件反射か思わず、よしよしと頭を撫でてやれば彼は抵抗するでもなく嬉しそうに、微笑んだ。


くっそ、可愛いな。


めっちゃ母性本能くすぐられるじゃないか。


おばさん無駄にトキめいちゃったよ。



「ちょっとベル。ボクの桜に何してんの」


「は?オマエのじゃねぇし。オレのだし」



わぉ…………なんだか、やたらモテてる。


どうした私。


って、話ずれてません?



なんだか電話越しにバチバチと火花飛ばしあってる二人に。



「えっと、時間ないんだよね?」



と、先を促せば何だか納得しないまでも渋々ながら二人は話を戻し始めた。




「それでね。今日は約束のその日なんだ」




だから。




「これから姫にはボク達の世界に来てもらいたいんだ」



もう時間は残されていないとソルディは言う。


曰くソルディは、その世界では知る人ぞ知る特殊な能力を操る術師なのだが、それでも異世界との「道」を作り出すには多大な魔力を使うらしく時間的にも体力的にも、もう限界らしい。


そして、もし次の機会を狙うとしたら生きてる間に出来るかわからないとのこと。


つまりは。



「行ったら戻ってこれない」ってことで。



「こっちの世界に来るも来ないも選ぶのは桜次第だ…………けど」


「けど?」


「ボクもベルも…………キミに逢いたくてここまできた」


「……………………」



「それにまだ、キミに逢いたくて待っている人たちもいる」



「…………え」



まだ、私に会いたがってる人がいる?



「…………考えて」



残り時間はあと五分。



ソルディの言葉に胸がざわつく。



どうしよう。



どうしよう。

どうしよう。

どうしよう。



一度、あちらへ行ったら、もう二度と戻ってこれないかもしれない。



でも。



「あ、そうだ…………一つ過去の桜が今のキミに伝えろって言ってた言葉があるんだ」


「え?」



私が私に?


なんて?



「録音したボイスレコーダーあるから流すよ」


「え、うん」



え、私そこまでしたの。



そうは思いながらも、まぁ疑り深い自分なら自分に向けてメッセージ残すくらいはするかと妙に納得。



「お願い」とソルディに頼んで再生してもらった。



そしたら。



うん、ね。



なんかもうヤバかった。



だって、声。



「…………私じゃん」



自分の声を録音だなんて昔ふざけてやった事くらいしかないからどうだろうなんて思ったけど、すぐわかった。



ソルディが流してくれたソレは。



確かに私の声で。



内容も確かに私が心配して、ふんぎりつかなくなっていた事をズバリと当てられていたから。





『家族は、にゃんこ含めて幸せになってるから安心しろ馬鹿。キツイ事、怖いこといっぱいあるけど今、こっちきて私は幸せだし寧ろこっち来なきゃ死んだも同然だった。ソルディ達はさ、裏切らないよ。全部見せて大丈夫だから。色々あったけど私…………もう強がらなくてよくなったよ。皆、私を必要としてくれる。愛してくれる。だから…………強くなったよ。安心して…………ねぇ、私さ。本当に幸せなんだ…………だから頼むから皆に会わせて…………逢いたい…………絶対、逢いたいの。離れたくないんだよ…………!!』




切羽つまった声だった。



何泣いてんの。


馬鹿じゃないの。


何、必死になってんの。


マジ。




「かっこ悪」




「…………姫?」


「…………っ」


「━━━━━!!」




言葉にならなかった。



ああ、私、見つけたんだ。


見つけられたんだ。


必死になれるもの。


なりふり構ってられないぐらいすべてをさらけ出して護りたいもの。



「━━━っ、泣くなよ」


「…………ベル」



少し焦った様子でベルが私を抱き寄せる。



━━━━━あったかい。



おもわず、微睡むように目を閉じながら優しくぎゅっと背中に腕を回した。



「振り払わないの?」


「は?なんで」


「気持ち悪くない?」


「ねーし」


「うざくない?」


「ない。寧ろ役得。ソルディざまぁ」


「…………ベル、帰ってきたら覚えてろよ」


「うわ、こっわ」



私を抱き締めた腕を離さないままベルとソルディがする、やりとりが何だかおかしくて私は思わず笑ってしまう。



「ふふ」


「あ、姫笑った」



ああ、いいなぁ…………コレ。



「あっちいったら、傍に居てくれるの?」



「トーゼン」


「当たり前だよ」



私の質問に二人は迷いなく返答する。


うわぁ、マジかぁ。


これヤバイなぁ。


だって。


こんな安心できる場所。




「私、ベル達の世界に行く」




手離せるわけないじゃないか。




こうして、私は異世界に行くことになった。




















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