できれば皆でイキノビタイ
帝国の政治は皇帝が任命した官僚たちにより行われる。
かつて大陸の人間の活動領域が帝国に統一されていた時代は、血統主義の貴族たちがその地位を独占し好き放題していたらしい。
だがそれで政治が腐敗し民衆の不満が積り、各地で反乱がおこり、北方に半分近くの領土を持つ皇国が独立、さらに分裂対立を繰り返し、西部共和国、東部中立国連合などが設立、帝国は全盛期の半分以下の領土しか持たなくなり滅亡の危機を迎える。
さすがにヤバイと思った皇帝は政治改革に着手、無能と腐敗の温床である貴族主義を撤廃、官僚や軍人は地位身分を問わず実力主義で登用するようになり国力を回復する。
魔導兵器の導入で軍事力が上がり、かつて人間の支配領域を脅かしていた魔族や魔物の影響が弱まり、人間同士で小競り合いする余裕ができる。
そして貴族の権力を復活させようと目論む輩が動き出した。
その中で、特に再び貴族が政治を牛耳れば、また帝国による大陸統一ができるなどと、寝言を言いテロ活動をしているのが帝国貴族院復権委員会という奴らである。
「知っているのか震電!」
「なによそれ?」
エディナ様の解説がクドかったので思わずチャチャを入れる。
カキータが去ってから研究所内を探索し、拘束された技術士官たちを発見できたのだが、彼らは筋肉弛緩剤を撃ち込まれており、しばらくは動かせず、戦力にはなりそうにない。
「自分らだけで何とかするしかないッスね」
「投降すれば命だけは助けてもらえるぞ」
「お断りッス。せんぱいを置いていけないッス」
エリサはいい子やねぇ。
「技術士官達は利用価値があるから殺されないでしょうから置いといて。問題はあんなヤバイ連中にデータを渡さない事。そしてアンタを壊させない事」
エディナさまが優しい事言ってる。何か拾い食いでもしたのかな?
聞いてみたら怒られた。
「データを載せて脱出、町まで出て帝国の軍や警察組織に現状を知らせるしかない、わね」
「相手は1個中隊だぞ、勝算はあるのか?」
「もちろん、従来機に対してあなた対が持つアドバンテージは圧倒的なスピードよ。向こうだって一度に全機でかかってこられる訳じゃない。とにかくフットワークでかき乱して、包囲網に隙間を作り脱出、全力で移動すれば今のあなた達に追いつける機体は無いわ」
俺の脳裏にラグビーやアメフトのヒーローが何人もの敵をかわして走り、トライやタッチダウンを決める姿が浮かぶ。
「戦って勝つのは難しくても、逃げ切るだけなら可能なはずよ」
「行けるか」
「行くしかないッス」
ただし、問題がある。一番近くの町まで走って魔導水が持つのか?ましてや全力全開動作は通常より燃費が悪くなる。
しかし、やるしかない、他に方法も時間もないのだから。
さっそく準備に取り掛かる。
格納庫に残った実戦用の剣と魔導銃を持ち準備をする。
まだ火薬のないこの世界に、火薬を利用した実弾兵器は無い。
銃火器類は管を本体、銃ならば手首付近に装着し本体から魔導水を供給し、攻撃魔法として照射される。当然使えば使うほど本体の稼働時間も短くなるので、今回はうかつに発射できない。
主力は剣、かつてエディナが泣きながら振り回してたアレだ。
そして盾を両腕に装着すれば完成だ。
思い起こせばこの世界に来てからまだそれほど経っていないのに色々なことがったものだ。
最初はタカビーだったくせに徐々ににメッキが剥がれてダメ人間になって行ったエディナ様。
顔はかわいいのに、下っ端口調で歯ぎしりの煩いエリサ。
生真面目に開発をサポートしてくれた技術士官達。
そしてモヒカンのくせに俺たちを騙していたカキータ。
よく考えたら色々っていうほど無かったわ。
そして装備が整う頃、約束の正午が訪れる。
そういや研究所を出るのは初めてなんだよな、緊張する。
俺がブルっていると、エリサが操縦桿を優しく握りながら語り掛ける。
「大丈夫ッスよ、せんぱい。自分も一緒にいますッス」
こいつ、自分も初めての実戦でビビってるくせに。
「行きますか、戦力比約20倍の敵中突破、新兵と試験機の初陣にしては派手なお出迎えだ」
「パネッス。しかもホームなのに地の利も無いッスね」
「こちらの手の内は知り尽くされてる状況で」
「敵サンの機体、配置、その他情報は一切ナシッス、情報戦も完全敗北ッスね」
「籠城も投降も選択できない積んでる状況で」
「盤面をひっくり返すためにッス」
「出撃!」
「出撃ッス!」