呼吸をアワセタイ
魔導兵器の構造は、駆動機関を組み込んだフレームに魔導水を循環させる管を巻き付け、その上を装甲で覆う。
操縦席は胸部、出力機関は腹、魔導水タンクは腰に設置するのが一般的なレイアウトだ。
俺はエリサが乗りやすいように、片膝をつき屈みこむ。
「うう、緊張するッス」
シートに腰を掛け、各部に異常がないかチェックをする。
しかしコレさ、 自分の中に女の子が入っているっていうのは妙な気分だねぇ。
座られると、膝に乗せて全身でハグしているかのような感覚に陥り、、レバーを握られると、手を重ね合わせているような気分になり、ペダルに足をかけられると、踏みつけられているかのような…
ハッ、いかん、集中せねば。
「行くッスよ!」
彼女の操作に合わせて立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
基本的な動作の確認、エリサの操作も俺の動きも問題はない。
以前一人で行った動きを彼女の操作で行う。
普段三下っぽいので心配していたが、テストパイロットに選ばれるだけあって優秀なようだ。
そして徐々に動きを速めてゆく。
走る跳ぶ、突く、蹴る、操作に合わせ動きをアシストし、そして……
ずべしゃぁぁぁぁ
こけた。
その後、しばらくジタバタもがいてからゆっくりと起き上がり、何度か動作を繰り返したのだが、ある程度以上動きが速くなると、対応しきれずこけるということを繰り返してしまい、途中で切り上げることになってしまった。
「はぁぁぁ、自分が情けないッス」
夜になって話しかけるとエリサが凹んでいた。
「気にしないでいいわよ、たぶんソイツの責任だから」
慰めるエディナ様、って俺のせいなのか?
「エリサの操作には問題はないわよ。ただね、ソイツのアシスト仕方に問題があるの。まだ人間気分が抜けきっていないせいで自分主体で動こうとして、操作に合わせきれていないのよね」
「ぐぬぅ、たしかにその通り。どうすればいい?」
「例えるなら二人羽織のようなものだから、もっと相手のことを考えて理解してあげなさい。それじゃ私は先に寝るからオヤスミ」
二人羽織……この世界にもあるのか。
エディナ様は毛布をかぶって寝てしまった。
さて、とりあえず相互理解を深める為、何か話しかけてみるか。
「な、エリサ。お前さ、どうして軍人になろうと思ったんだ?」
「唐突ッスね。深い理由は無いんッスけど、適性が高かったんで士官学校に張ると補助金が出してもらえて、ウチ貧乏だったんで、食いつなぐ為みたいな感じッス」
「そういや帝国軍って女の子多いの?」
「全体で3割くらいッスけど、女性の方が体重が軽く衝撃耐性が高いのでパイロット比率高くて4割くらいッスね。技術士官なんかは9割男性らしいッス」
そんな感じで彼女が寝入り、歯ぎしりをしだすまでゆっくりと話をした。
そして翌日。
「今度こそ行くッスよ!」
まず自分の動きではなく、彼女の操作を意識し、彼女がどう動くかを考え、反応する!
彼女の些細な動き、目線に注目しその動きを捉える!
「え、ちょっと何よこのスピードは!?」
傍らでデータを取っていたエディナ様と技術士官たちがざわつき始める。
走る、跳ぶ、駆ける、それら一連の動きのスムーズさが今までと段違いに早い。
「せんぱい、すごいッス、まるで自分の体みたいに思い通りに、いたそれ以上に動けるッス!」
流麗な拳法の型のような動きから、体操選手のようなアクロバティックな動きまで、従来の魔導兵器の常識を超えたその動きに、エデュイナ様も技術士官達も大いに感心し喝采を送る。
そして技術士官達の操る量産型ルインと模擬戦である。
技術士官達はエディナ様のような素人ではなく 十分な戦闘技術を有している。
相手は3体。多対一ではあるが十分勝機はある、いや負ける気がしない。
「せんぱい、今なら何でもできる気がするッス、一緒に戦うッスよ!」
右から打ちかかってくる技術士官の攻撃をかわし、反撃一発で武器を叩き落す。
動きを止めず打ちかかってきた他の機体の足を払って地に落とし、流れるような動きで最後の一体と間合いを詰め一撃で跳ねのける。
「せんぱい、やったッス、自分達の初勝利ッスよ!」
エリサは上機嫌ではしゃいでいる、昨晩の凹みようが嘘のようだ。その後何戦も行ったが一撃も食らうことなく圧勝してしまった。
それから数週間、訓練を繰り返すうちに俺たちの動きは速さと精度を増してゆき、その動きを解析しフィードバックすることで、人工知能の開発は予想より遙かに早く完了することになるのだった。