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解けたゴカイとイキチガイ

諸事情により初稿からパイロットの名称が変更

誤字脱字修正

5話以降に合わせて文体変更

 この研究所の格納庫は広い。

 両端に試験用量産型ルインが数体、モスマをはじめとする旧世代機が数体並べられている。

 俺は、置き場所がないという理由で格納庫の真ん中に片膝をついて待機姿勢でいることが多い。

 そして何故か足元にデスクとソファーが置かれ、そのままエディナ様の研究開発事務所兼生活空間になる。

 研究所内にはちゃんとエディナ様専用の寝室や個室、研究室もあるのだが、俺が来てからはずっとこの格納庫で生活している。

 曰く「移動する時間がもったいない」らしいのだが、単にズボラなだけだろう。

 この女、こたつを与えたら一生出て来れなくなるタイプだ。


 その為、搬入された追加物資もここに運び込まれ、技術士官たちの自己紹介もここで俺の目の前で行われているのだが、その中に予想外の人物が混じっていた。


「自分は帝国軍所属エリサ・サニー少尉ッス!この度は試験機ルイン・リミテッドのテストパイロットを勤めさせていただくことになりましたッス!よろしくお願いしますッス!」

「な、なんだってー!初耳だ!」


 一人毛色の違う子が混じってるな―って思っていたけど、思わず声出しちゃったじゃないか。

 あ、エディナ様が怒ってる。


「喋んな、っつーたろーが、このポンコツっ」

 

 べしべしべし


 いや驚くだろ。

 もっとこう、勇気溢れる少年勇者が乗り込み、時に無鉄砲な行動をとるワンパクボーイを守り諫め導く的なやつとか。

 戦いの為だけに生まれ育ち、感情をなくした戦闘マシーンのようなクール銀髪貧乳ロリ美少女と、共に戦い心通わせ徐々に感情を取り戻してゆく的なやつとか。

 そういうのを想定していたのに。


 この娘、年は15~16前後、明るい表情に映える藤色のシュートヘアー、ところどころ跳ね毛があるのがチャームポイントか。胸は控えめ、尻は大きめ、足はやや太め。程よく筋肉が付き引き締まった体は若さと躍動感に満ち溢れているのだが。


「あ、あのー、博士、今の声は何だったんッスか?ルイン・リミテッドから聞こえてきましたっスけど。誰か乗ってるんッスか?」

「驚かせてごめんなさい、中は入ってないんだけど、ちょっとばかしデキの悪い人工知能がねぇ…」

「うえ!?確かに合成音声っぽかったッスけど、感情のこもり方とかやけにリアルっスよ。さすが最新型ッスね!」


 こっちに近づいて来て、まじまじと眺めてくる。


「テスト起動ですっごい数値を叩き出したんッスよね!マジパネッス!」


 なんで三下口調なんだよ、この子は。

 テストパイロットということは、当面の間この子が俺のバディになるということか。

 とりあえず、AIっぽくキャラ作って挨拶しておこう。


「ちゅいーん。俺は帝国試験機ルイン・リミテッド、アシストAIのダイジロー・ササキ。サニー少尉よろしくお願いします」

「しゃべったぁぁぁッス!ダイジローさん、よろしくお願いしまッス!あ、自分のことはエリサって呼んでもらって大丈夫ッス」

「ぴーぴーががが。了解しました、エリサ少尉」


 この若さで尉官ってことは普通は士官学校出だよな、この国の階級制度がどうなってんのか知らんけど。


「アンタ、そのわざとらしい電子音やめなさい、うざいから」


そう言うとエディナ様は、しばらく滞在するという技術士官達とエリサ少尉を居住区に案内して行った。

 何故か今までエディナ様一人で住んでたけど、ここって本来は団体さんで研究開発する施設のはずなんだよな。


 しばらく待っているとエディナ様一人で戻ってきた。


「じゃ、明日からアンタは強化改造に入るから、それが完成したらあの子、エリサ少尉を載せて本格的なテストするわよ」

「いいけど軍に納めるのは開発中の人工知能型タイプだろ?それ意味あんの?」

「完成までに何かやってごまかさないといけないでしょ。それに注入型の限界値を知っておきたいし」


 まぁ、要するに深い意味はないってことか。こんな作業に付き合わされるとはついてないな、あの子。


「明日から忙しくなるからもう寝るわ、オヤスミナサイ」


 そう言って毛布をかぶってソファに横になる。

 俺も朝まで機能をオフにしておくか。


 と思ったら、格納庫にお客さんが来た、毛布を抱えたエリサ少尉だ。


「ちわッス。失礼するっス」


 小声で挨拶してこそこそと近づいてくると、俺の足元にいそいそと毛布を敷き寝床造りを始めた。


「少尉、何をやってるんですか?」


 小声で話しかける。


「あ、起こしちゃいましたか、申し訳ないッス」


 もともと寝てないし寝る必要もないけどな。暇な時は省電モードにして意識落としてるけど。


「ついに自分専用機に乗り込めると思うとワクワクが止まんなくって、来ちゃいましたッス」

「部屋に戻ってください、こんな所では長旅の疲れは取れませんよ」

「博士もここで寝てるじゃないッスか」

「その人は変態なのでマネしないでください」

「自分も変態で構わないッス」

 

 そう言って俺の足元で毛布にくるまって丸くなると、すぐに寝息を立てはじめる。

 なんというか子供のような…


 ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎ


 歯ぎしり煩ぇ、オッサンか、こいつは。


 翌日から技術士官達はエディナ様の設計通りに俺の強化改造を進め、エディナ様は人工知能開発に専念することになった。

 エリサ中尉は改造終了後の操作マニュアル取得と量産型試験機での操作訓練をこなし、いつのまにか夜はまた格納庫で眠るようになってしまっていた。


「へへッス。せーんぱいっ、今夜も来ちゃいましたッス」


 ここの先住民だからという理由で、いつの間にかせんぱい呼ばわりされるようになった。


「ベッドで寝たほうがいいんじゃないか?疲れてるんだろう」


 俺もキャラ作りはやめて普通の口調になった。


「士官学校の軍事訓練のおかげで、ベッド以外のところで眠るのは慣れてるんッスよ」


 士官学校ではその三下口調は矯正されなかったのか。


「しかし、お話するようになって思ったんッスけど、せんぱいの思考回路すごいッスよね。ほとんど人間と変わらないんじゃないッスか?」


 まぁ、人間だったしな、異世界のだけど。しかし機密事項だから話すわけにはいかんしな…


「ソイツ、もともと人間だから」

 

うお、エディナ様起きてたんか。ばらしていいんか。


「うぇ!?マジスか!?どういうことッスか!?」

「たぶん、そのうちバレそうだから先に言っておくわ。実は人工知能開発に行き詰ってた時に、死者の魂を利用する方法を試しちゃってね…」

「古の暗黒魔法の技法じゃないッスか。そんなことしてたんッスか!?

「ああ、そうだ、それで俺は哀れ生贄に」

「ん?アンタもともと死んでたわよ」

「なんだと初耳!?異界から召喚して生贄の儀式をしたんじゃなかったのか?」

「生きてる人間を肉体や持ち物ごと転移召喚するのってすっごく難しいのよ。死者だと魂だけだからお手軽にできるってわけ」

「ええ!?あの時、四肢拘束されてたし、生贄とか末期の酒とか言ってたやん?」

「魂が逃げないよう術で呪縛してたからそう感じたんでしょ。他のセリフはまぁ、ノリとか雰囲気作りってやつ?それにアンタあの時騒いでばかりで全然話聞こうとしなかったじゃない」


 そういやそうだ。公園で酔っぱらって眠ってそのまま死んでた俺は、エディナ様に命を奪われたんじゃなく、むしろ救われていたのか。


「アンタ、まさか今まで私が殺したと思ってたの?」

「思ってました、素直にごめんなさい」


ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ


「歯ぎしり煩いわね、この子」

 エリサいつの間にか寝てたんかい。


 その後エリサは毎晩押しかけてくるようになり、格納庫にはエリサ専用のソファが設置されてしまったのだった。


 そして時が過ぎ、優秀な技術士官たちの努力により俺の改造が完了する。


「せーんぱいっ!いよいよッスね、ドキドキするッス」


 パイロットを搭載しての初の起動試験が始まった。

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