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アップデートと次のシヒョウ

 出発まではまだ数日時間がある。

 戦う相手がわかっているなら、メタるのが対戦の定石というものだ。

 俺は準備を整えるべく、その晩エリサに対策の相談を持ち掛けた。


「はぅあ、疲れたッスねー」


 俺はボディを移すのが面倒なので、ルイン・リミテッドのボディのまま格納庫にいるのだが、そこに当然のようにエリサが毛布を抱えて潜り込んでくる。


 今さらだが、こいつ毎晩夜更かししてんな。

 大丈夫かよ、肉体労働なのに。


「うい?せんぱい、お気遣い感謝ッス。自分問題はねッス。それにここ案外宿舎のベッドより落ち着くんッスよ」


 こいつ俺が一人で退屈してるとか、孤独に苛まれているとかその変に気をまわしてるのかね。

 思えば研究所にいた頃からそうだったな。


 機械の体と頭脳に順応してるからさしたる不都合はないんだが、気を使われて悪い気はしない。

 俺が人間なら、頭を撫でるなり何なりと労ってやれたのだろうが、残念ながら機械の体では言葉をかけるくらいしかできない。

 精一杯の感謝を込めて優しく声をかけよう。


「お疲れ様だ。狭い所だがここで良ければ休んでくれ」


 狭くて薄暗いところのほうが落ち着く系という考えもある。

 こいつ小動物系だし、そっち方面なのかもしれない。

 エリサは俺の言葉を聞いて、安心したようにシートの上に転がった。


「アンはまだ事務作業が残ってるんで後で来るッス」


 狭いのにまだ来るのか。


「次はまたアレが出てくるとなると、チョイ苦戦するかもしれないッスね」

「その件なんだが、対応策を考えてみたがいかがなものか」


 今までの戦いを振り返ってみると、俺は性能は圧倒的でありながら、達人級の乗機にはしばしば手を焼かされることがある。

 そこの所を改善しなければ今後の活動に支障が出る。


 原因を考えると思い当たる点を分析すると。

 俺には予め通常の魔導兵器戦闘用のプログラムがインプットされていて、それを元に動いている。

 だが俺個人は剣術や格闘術の心得がなく、歴戦の強者や生まれつきセンスのある天才には動きを読まれ先手を打たれるため、最大の武器である手数の多さを活かしきれないのだ。


 そこはパイロットの技量7割、俺の補正3割ってところだが、エリサは士官学校でそこそこ優秀な成績を収めている。

 その中には格闘術や剣術といった科目があり、同年代の兵士としては優秀な部類に入る。


 ならば俺が俺を使いきれない原因は、俺の技量によると言わざるを得ない。

 言い替えれば伸びしろのある俺が通常戦闘プログラムに加え、人としての戦闘技術を学習することで戦力を上げることができるのではないか。


 そう、言わば俺の俺による俺のためのアップデートプロジェクト!

 というようなことをエリサに話してみた。


「という結論に至ったのであるが?」

「うあー、そういうのは自分ちょっと思いつかなかったッス」

「そうだろうさもありなん、とりあえず時間はないが協力頼む」

「バッチこいッスよ、出発までやれることはやっておきたいッス」


 えっへんと無い胸を張って、頼もしい返事を返してきた。

 それでこそ俺の相棒だ。


 出発までの間に模擬戦闘訓練を行い俺の技量を向上させるという方向で話をまとめてゆく。

 訓練には相手が必要なのだが、それもうってつけの相手がいるしな。


「っと、こんばんはです、やっとこ終わりました」


 話がひと段落ついたところで、ちょうどアンがやって来た。

 両手に毛布を抱えて、操縦席で寝る気満々である。


「お疲れーッス」

「よう、お疲れ様」


「今夜は暴れないでくださいッスよ」

「っと、寝てる時のことは責任持てないです」

 

 こいつの寝相のくっそ悪さはいつまでたっても変わらない。


「っとその件についてやや考えてみたのです。

 ここはあえて狭く動きにくいところで眠ることで矯正効果が認められるのではないかという事です」


 こいつも小動物系か。


「ところでアンに聞いてもらいたいのだが」


 俺はさっきエリサと話した訓練についてアンの意見を聞いてみる。


「っと、なるほどです、その役目は私にしかできないてす、協力するのは問題ないです」

 

 打てば響く二つ返事が心地好い。。


「っと、おまかせです。私の乗機は改修中で使えませんが訓練機を借りてきます」


 なにしろ達人級との戦闘を想定した訓練になる。

 それだけ俺を引き上げてくれる高度な技量のあるスパーリングパートナーはアンしか考えられない。

 そう言うとアンも満更ではなさそうに頷いた。


「正直、お兄ちゃんに乗れないのは不満がありましたですが、支援に私の技量が必要だと言うならば、引き受けざるを得ません」

「ういッス、お願いッス」

「よろしく頼むぜ」


 備えあれば憂いなし、次の俺は一味違うぜ。


「ぐぇほっ、ここでブーツ脱がないでくださいッス、めっちゃ臭、てか足は洗ってから来てくだせッス」

「っと、早くこっちに来たかったので洗って来ませんでした」


 そのまま仲良し2人が寝落ちするまで雑談をすると、俺も意識を落とし翌日に備えた。



 翌日、2人共も準備作業を手早く済ませてくれたので、昼過ぎから出発までの数日間みっちりと訓練を積むことができた。

 訓練は主に近接戦闘主体で行うのだが、やはりそこで予想通りの弱点が露呈する。


「っと、なるほど正直なところお兄ちゃんの動きは、普通の魔導兵器に比べて読みやすいです」


 さしあたって一戦手合わせをしたアンの感想がそれである。

 俺は初期に比べ稼働箇所が格段に増え動きがスムーズになったのだが、それはいわゆるロボット的動作から自然な人の動きに近づいたということであり。


「っと、魔導兵器戦のノウハウだけじゃなく、普通に人間相手に戦っている感覚でやれてしまうです」


 そしてその動きまで従来の魔導兵器の動き方のプログラムではカバーしきれない範囲となり、俺個人の経験と技量による体さばきに大きく依存する状態になっている。

 それは単に身体能力が高いだけの素人の動きで、ある程度格闘術を学んでいればむしろ対処しやすいのだ。


 考えてみれば初期は特撮の着ぐるみロボットみたいな動きしかできなかったのが、今では3D格闘ゲームのキャラみたいにヌルヌル動くんだしな。

 そりゃ旧来のプログラムじゃ対応できない訳だ。


 俺自身は稼働が増え、動きに無駄がなくなったかのように思っていたのだが。

 結果的にはあんまり強くなっていなかったということだ、なんてこった!


「っと、大丈夫です。基本的な能力は高いですから、ちゃんとした体の動かし方を学べばとんでもなく強くなれるです」

「そッスよ、せんぱいはまだ成長期ッスから」


 おっけー、期間は短いとはいえ、俺の機械の頭脳の学習能力は人間を上回る。

 美少女2人の声援を受けて、みっちりと格闘技術を基礎から叩き込み、エリサの癖や反応に対応できるよう感覚を調整し最適化する。

 突貫とはいえソフトウェア面の向上が成し遂げられたというわけだ。


 一方、アン乗機の改修作業は意外に手間がかかり、そちらも突貫作業となったが。

 ヤバイんじゃないかと危ぶんだが、全員の頑張りにより出発にはギリギリで間に合った。



 そして。

 準備を整えたダプマ准将の指揮下6個小隊、約30機の魔導兵器が終結した。

 他に整備兵や衛生兵、事務官等バックアップ要員の乗る馬車、食料や補修用の部品、予備の機体など。

 中隊規模の移動となると随伴者もそれに比例し多くなる。


 そして更に、俺用追の加パーツが届いたという知らせが入る。

 なんで今更、と思ったが移動しながら取り付けるという手筈になり、整備班は悲鳴を上げた。

 

 移動時は輸送車に乗せてもらえるので体のことはチセと整備班にまかせて俺は一旦メインスイッチを切っておくことになった。


 その間にパーツの取り付けと改修を行い、コアのほうは記憶整理というか、デフラグのようなことを行い頭をすっきりさせようというのだ。


「せんぱい、おやすみなさいッス、次に目覚めるときは次の戦場ッスね」


 エリサはメインスイッチを長押ししながら最後の挨拶をする。


「おう、おやすみ相棒、またな」


 こうして長く滞在した西部戦線に別れを告げ俺達は次の戦場へと旅立った。

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