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出撃前のケンソウ

 ダプマ准将指揮下、直属部隊を含む6個小隊、計30機の中隊相当の魔導兵器部隊が移動の準備を進めていた。

 

 両大国の主力が睨み合う中央平原は、開けた平坦な荒野が広がる地域で、防衛のために築かれた砦の他に大きな都市や施設などは無い。

 

 そこは皇国設立後、幾度となく大規模な武力衝突の起こる激戦区であった。

 単純な地形であるため、何らかの策を擁する余地がなく、勝敗は投入される戦力の大きさのみで決まり、結果に関わらず両国とも大きく消耗する為、勝った側もそれ以上の進攻を行う余力を残せず、国境線が大きく動く事は稀であった。


 そんな不毛な消耗戦が繰り返され数十年が経つ。

 近年は特に双方の戦力が拮抗しているため、大きな動き無かったのだが。


 その拮抗を打ち破る戦力の出現が状況を変えた。

 皇国軍がいち早く実用化、戦線投入した第三世代機ディライザーは単機で帝国軍の構える砦を強襲、圧倒的な戦闘力で帝国軍を蹴散らした。


 ディライザーは単騎突入し、オーバーヒート寸前まで暴れまわり撤退。

 その後皇国軍本体が残党を殲滅するという、身もふたもない戦術で帝国軍防衛線をズタズタにしていた。


 俺たちの居る西部戦線へ増援要請が送られるまで、都合3度の攻撃が行われ、たったそれだけで長年国境を維持してきた部隊が壊滅寸前まで追い込まれているという。

 中央戦線を預かる指揮官『国境の断崖絶壁』ストロボ中将の奮戦で防衛線崩壊は免れたが、余力は無く、戦線の維持は困難な状況に陥ってしまっている。


「うあー、思ったよりも状況悪いッスね」


 思わず口に出したのはエリサだが、他の面子も同じ感想を抱いている。

 出陣前、カリナ隊長率いるシルバーフォックス隊が集められ現状の説明を受けているのだが。

 

「そこでお前らジャリどもの出番なんだよ」


 力強く言葉を発するのは帝国の誇る女傑、指揮官ジェニファー・ダプマ准将。


「あんのバケモンを止められのはお前らの所のルイン・リミテッドしかねんだ。量産型第三世代機エルバーン改も試験配備されてたんだが、2度目の襲撃で撃破されちまったそうだ。もうどうにかできんのはお前らしかいねんだよ」


 ああ、確か俺の運用データを元に作られたコアをエルバーンベースの機体に搭載したやつか。

 基本性能は俺と同等以上に仕上がってるはずだったんだが


「早すぎたか……」

「なんかまだ実力を発揮しきれてない感じッスね」


 しかし尊敬する上司に声をかけられて、我が隊の誇る隊長はテンション爆上げのまま安請け合いする。


「あは、とりあえず私らの仕事は次の襲撃からの防衛と、できればディライザーの撃破。帝都からの援軍が来るまで持たせれば、後は何とかなるやね」

「くふ、帝都からは総司令官カオン大将自らが軍を率いて出立されています。私たちより数日遅れでの到着になりますが、それまで持ちこたえれば戦線を立て直せますよ」


 『靴ひも並みに切れる』と自称するチセが参謀気取りで解説を始める。


「くふふ、そう、問題はディライザーを始末しないと、また戦線崩壊するって所ですね。だからエリサ中尉とダイジロ頼みますよ」


「おまかせッス」


 薄い胸を叩いて安請け合いするエリサ。


「おいこらジャリども、とにかく現場に着き次第、最前線に叩き込むぞ。覚悟しておけ」


 ダプマ准将の力強いお言葉。

 俺ら第三世代機は従来機の攻撃って当たらないから負けないし、よほどの達人が乗ってなければ瞬殺できるから魔導水が枯渇するか、魔導機関が熱暴走するまでは無双放題になる。

 現状ディライザーがいたら俺が止めないと犠牲が増えるだけだし、いなくても俺が単騎突入してかき回す敵と同じ戦術が一番有効なんだから、それでいいか。


「調子こいてるクソ皇国軍を叩きのめす、その上で劣性の味方にクソディライザーに匹敵する戦力があることを示し士気を回復する、それが第一手だ。

 とにかくジャリエリサ、お前らがしくじれば防衛戦は崩壊し、帝都からの援軍も機能しなくなる。

 帝国の存亡がかかっていると思って当たりやがれ」

「うい了解ッス。期待に応えられるよう力を尽くすッス」


 直接指名にビビりながらも、気丈な返答を返すエリサ。

 そしてカリナが笑顔で話しかける。


「あは、そや、いいお知らせがあるやね。帝都のエディナ博士からエリサとダイジロに連絡が来てるやね」

「おお、ずいぶん久しぶりだなあの人。何て?」

「あは、この前の定期報告からルイン・リミテッドの現状装備を再現したスペアの予備機体を用意するから、皇国軍第三世代機に負けて今の機体が壊れても大丈夫やねって」

「はうあ、壊れる前提ッスか、博士ひどいッス」

「ただしその際は魔導コアだけは必ず回収すること」

「ほぅ、そこは任せるだね。アターシが共に前線に出るからエリサ死んでも必ずや持ち帰るだね」


 マシュロが胸を張って宣言する。

 そこそこ付き合い長くなってきのに、いまだによく分からん女だが、謎の技量があるからな。

 まぁ、万が一の時はコイツに頼らざるを得ないか。


「っと、大丈夫です。いざというときはお兄ちゃんは私が守るです」


 最近になって驚異的な射撃の才能を開花させたアンが自信満々に宣言する。

 コイツは実力と実績があるから信頼できるな。


「ありがとう、アン。便りにしてるぞ」

「うぃッス、アンにお任せッス」


 がっちり抱き合って友情を確認するエリサとアン、もちろんマシュマロは放置だ。


「ほぅ、アターシをスルーするとは何事だね、骨占いでも、そんなことは許されざるフクロザルだね」


「あは、あと専用の新規機体も開発中なんで名前考えておくようにって、エディナ博士からは以上やね」


 その言葉に俺とエリサはフリーズする。


「な、何だってー?」

「くふふ、実を言いますとルインベースの改修もそろそろ限界が近いということですよ。

 各種追加パーツと補強で凌いできましたが、フレームや各部への負担と消耗が激しすぎてですね。

 そこで完全新設計のフレームに後付けした機能を最初から盛り込んだ専用機を鋭意制作中ということですね」


 そいつはありがたい。

 改修が進む度にごてごてしてきて、整備性が良くないって言われてたしな。

 問題は例によってエリサのクソダサネーミングセンスだけだな。

 てか、俺の体だし、エリサ以外も乗るだろうから、俺に名付けさせる方向に持っていこう。


 ダプマ准将が立ち去り、部隊のミーティングという名の雑談タイム。


「うーん、やり方にイメージと違う的な部分があるな」

「せんぱい、どんなのを期待してたんッスか?」

「いや絶体絶命な味方を救いにいくってところまではイメージ通りなんだが。

 こう、なんてーか戦略とか策略とか、孔明の罠的な天才軍師の奇策とか、英雄提督の指揮で現状打破するみたいな、そういう劇的な逆転の一手、みたいなのが飛び出すかと思ってたんだが

やることがスタンダードというか、まぁ普通に力押し、みたいな」

「あ、わかるッス。自分も軍に入るまでは、そういう知の駆け引き的なやり取りがあるとか思ってたッス」


 俺の運用は例外として、他の戦力は教科書通りの運用がなされるだけだ。


「あは、みんな最初はそう思うやね。実際は大きな戦場ほど変な小細工を挟む余地は無いんやね」

「くふ、軍総司令のカオン大将からして、地道で堅実な仕事で実績を積み上げてきた方ですからね。そうそう奇抜な事はありませんよ」

「ほぅ、帝国軍あるあるだね。骨占いでも王道が一番の近道痴漢に噛み付きだね」


 帝国に天才的策略家や鬼才の司令官的な人材がいれば、もっと何かあったかもしれんが、あいにくとそういうのは居ないらしい。


 問題は皇国軍第三世代機。

 気になるのはあのパイロット、ミチル・ミヤモトと名乗った少女。

 おそらく日本人。

 エディナ様は体ごとの召還はおそろしく面倒だと言っていた。

 彼女はどういった経緯でこの世界に来て、何故戦っているのか?


 そしてもう一つ。

 ディライザーの魔導コアはどうなってるんだ?

 人工知能なら俺と五分の性能は出せないはずだ。

 なら俺と同じく魂が使われているのか?

 だとしたらそれはどこの誰を使った?

 疑問は幾つも沸いてくるが、回答は得られない。


 よし、しばらく保留にして準備を進めるか。

 と言っても俺が直接できることはほぼ無いんだけどな。


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