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兵士のイミョウ

 本陣に戻った俺たちは、手分けして後処理を遂行する。

 カリナ隊長とルウカお嬢は、マーカス中将の元へ報告に向った。

 負傷兵に付き添って先に戻っていたエリサは、医務官に引継ぎをしている最中だ。


 俺は格納庫に戻り点検と補給、今回近接戦闘を行ったのは俺だけなので他の機体は補給のみとなる。

 チセと整備士たちが忙しく動き回り、アンとマシュロも機体の清掃に駆り出されている。


「ほぅ、骨占いでは清掃ハイホーヨヨイノヨイだね」


 相変わらずよく分からない事を言いながら、鼻唄混じりに作業をこなしている。

 マシュロが汚れを落とし、綺麗になった機体はアンが可動部をグリスアップし、最後に装甲を磨き上げる。

 この娘たちは意外に器用なので、カリナやエリサのように事故を起こすことなく手際よく作業を進められる。


「ほぅ、ダイジロさん痒いところがあったら言うだね」

「床屋さん、そこそこ背中の真ん中当たりオナシャス」

「ほぅ、このあたりだね、ほぅほぅ、ここも汚れてるだね」

「いやん、股間は撫で回さないでー」

「ほぅ、大事なところなので念入りに磨くだねー」

「っとマシュロ中尉、お兄ちゃんを辱めないでくださいです」


 俺も清掃と注油を受けると、動作に支障の無い事を確認する。

 軽くブレイブなロボットのポーズを決めたり、中央が腐敗な構えをとってみたり。


「俺、全快だぜ」


 一通りの作業が終わったところで、カリナとエリサがもう1人年配の女性士官を伴って現れた。


「おう、新部隊のジャリども!緊急事態だ、出発は明後日、しっかり準備しておけ!」


 開口一番豪快に言い放ったのは、帝国軍最年長女性士官『極爆同盟』の異名を持つジェニファー・ダプマ准将。

 年齢45歳2m近い身長に、鍛え抜かれた屈強な肉体を持つ帝国軍最強の女と言われる女傑である。


「っと、あなたはダプマ准将?詳しい指令内容を聞かせていただきたいですが」


 手順とか色々すっとばした唐突な指令にアンも戸惑ったような返答を返す。


「おう、ジャリどもスマン。イチから説明するわ」

 

 ダプマ准将が言うには、中央戦線で展開中の帝国軍が危機的状況に陥ったため、中隊規模の増援部隊を送ることになり、その中にシルバーフォックス隊も編入されるということだ。

 ダプマ准将はその指揮官に抜擢され、指揮下に入る部隊を見回っている最中なのだそうだ。


「あは、そういう事だからちょっと準備は急ぎになるやね、チセ大変だけどヨロシク、びしっ」


 帝国最強女性兵士であるダプマ准将は、女性兵士の間でカリスマ的な人気があり、その豪快な性格から『極爆同盟』の異名を持つ。

 カリナ隊長も憧れの女傑の前なので、テンション爆上げになってて無駄に決めポーズをしたりで様子がおかしい。


「っと、任せてください、お役に立って見せるです!」

「ういッス、自分もバッチこーいッスよ!」

「くふふ、ここは腕の見せ所ですね」

「ほぅ、骨占いでは鬼神前進大安心だね」


 全員まとまって戦隊のようなポーズを決めてる。

 部隊全員テンション爆上げでおかしかった、いやマシュロは元々おかしいけど。


「おう、ジャリども、頼もしいじゃねえか。

 お前らには機体してるからよ、しっかり頼むぜ。

 評判の新兵器を使う美少女部隊が救援に駆けつけるってなりゃ、中央戦線のクッソ負け犬共も指揮が上がるってもんよ」

「あは、ご期待に添えるよう微力を尽くすやね」


 カリナの嬉しそうな返答を聞いて、ダプマ准将は満足そうに頷くと、他の整備士たちに発破をかけて去って行った。


 そして新しい任務に向けて、チセと整備士たちの仕事が始まる。

 今回はカリナ隊長機ライブラスとアン機エルバーンに軽い改修が施されるということで、俺含めて全員が集められチセから説明を受ける。


 カリナ隊長のライブラスは白兵戦武器が持てるように両手を普通のハンドパーツに換装され、近接戦にも対応できるようにするようだ。


「くふ、これはライブラスでは定番の改造ですよ。この仕様は通称ライブラスプラス、略してラブプラ……」

「ちょ、待て!それはマジでヤバイ!」

「くふ、失敬。通称ラプラス・タイプです」


 思わず外部スピーカーで突っ込んだじゃないか、ふざけんな!


 そしてアン機エルバーンは先の戦闘で見せた驚異の射撃能力を活かすため、特殊装備の長銃を装備することになった。

 これは両手で保持する銃身が魔導兵器の全高より長い銃で、標準の両手保持銃器である魔導砲より射程が威力も長い。


 試しに俺も持たせてもらうが、構えた感じは大型のライフルといったところだ。

 銃身が長いため、取り回しにはかなり気を使う。


「これさ、俺はいいけど他の機体の肩関節構造だと構えられないんじゃないか?」


 俺は可動域の大きい引き出し構造の多重間接的を持ち、装甲も動きを阻害しないように持ち上がったり、動いたりするようになっている。

 大型ライフルを正面に構えたり、腰を溜めて脇に抱えたりと、あらゆる構え方に対応できる。

 しかしエルバーンは高級機ではあるが、最新の関節構造は採用されておらず、このような長物は取り扱えないはずだ。


「くふふ、その通りですよ。だから今からそこに改修を施します。

エルバーンバスターライフルカスタム、略してバスタブ・タイプですよ」


 チセの指導でアン機のバスタブタイプへの改修が施される。

 長銃を構えられるよう、関節を入れ換え、肩や胸部の装甲を削り上腕部の可動範囲が広げられた。

 上半身の装甲がほぼ無くなってしまったことにより、腕は自在に動かせるようになり、長銃の取り回しには不自由しなくなった。

 引き換えに防御力は低下してしまい、近接戦には不向きな機体になってしまった。


「っと、今後は後方射撃がメインになるですか」

「あは、アンは援護というより、敵機撃破狙いの射撃戦力やね。

 援護射撃は私とチセの支援機でやって、マシュロは前衛にシフトやね」


 乗機の特性が変わってしまった為、運用配置が換わってしまう。


「近接主力はエリサとダイジロに暴れてもらって、マシュロは大盾装備で補助しつつ全体をカバーって感じでいくつもりやね」

「ういッス、自分はそれで問題ないッス。せんぱいと一緒に暴れまくるッスよ」

「ほぅ、骨占いでも近接戦闘やる気が兵器だね」

「くふふ、これで『四次元殺砲』と呼ばれるアン少佐の技量が活かせるというものですよ」


 隊員からも特に意義は無いようだが、ここで聞きなれない単語にアンが反応した。


「っと、聞きなれない異名で呼ばれた気がしたですが、いつの間にそんなに異名が定着したです?」

「くふふ、先の戦闘での驚異の射撃能力が評価されていましたので、私が考案し拡散中ですよ」


 お前が勝手にやってんのかよ、グドマン中尉みたいな事するなよ。


「なぁ、ところで前から気になってたんだが、帝国兵に付いてる変なあだ名というか、称号?異名?それ何なのさ?」

「くふ、まぁ、人の口に上るあだ名ですね、としか。

 その人となりが評判になって広まったものや、特定のエピソードに関連したもの、あるいは特定個人が意図的に流したものなど由来は様々ですが、軍名簿のプロフィール欄に記載されるようになったものは、公式採用として定着したと言えるでしょうね。

 おかしなのが多いのは、褒め称えるようなものより悪口の方が広まりやすいからです。」


 あれ公式なモノだったのかよ、帝国軍の風習やべぇな。


「くふふ、ちなみにわがシルバーフォックス隊の公式採用は2名ですね。

 カリナ隊長が鬼とか機体潰しとか色々言われてましたけど『機体の極潰し』というのが最近記載され正式採用になりました。

 先日格納庫でディガスをこかしたのが直接の原因で、整備士の方々中心に広まって定着しました」


 それめっちゃ悪口やん。


「あとマシュロ中尉の『うたう!大留置場』ですね。先の待機期間中に夜中に奇声を上げて踊りまわって独房送りになったのが原因です」


 それめっちゃ不名誉な奴やん。


「ちなみに私は『靴ひも並みに切れる解説役』が目下散布中で、アン少佐も『四次元殺砲』が広まりつつあります」

「ういッス、チセ大尉。自分は何か無いッスか?最近活躍してたッスからそろそら来そうな感じなんッスけど」


 エリサが目をギラギラさせて問いかける。

 こいつの評判ってイコール俺の評判でもあるからな、ちょっと気になる。


「くふふ、特に無いですよ」


 ガクッとした。

 でも言われるとしたら、腋が臭いとか、そっち系のマニアックなやつになりそうだからあまり期待しない方がいいぞ。

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