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それぞれのシソウ

 俺の中が臭いのは俺のせいじゃないやい。

 釈然としない思いを抱えたまま夜を迎える。


 カリナの指示で夜襲に備え、交替で見張りを行うのだが予想通りその夜はなにも起きなかった。

 部隊は日が昇る前起き出して簡単な朝食をとると、出撃に備える。

 日が昇り明るくなれば行動開始だ。


 スノーメイデン隊は残ったルイン2機でエルバーン改を抱え上げ、負傷兵とエリサを連れ撤退を開始する手はずだ。

 毒に侵された負傷者は早期に治療しなければ、後遺症が残る畏れがある。

 できる限り早く搬送しなければならないのだ。


 残ったシルバーフォックス隊の面々と、俺に搭乗するルウカお嬢は敵兵の迎撃準備を行う。


 今回俺に搭乗するのは、ルウカお嬢というイレギュラーの形だ。

 見知った相手ではあるのだが、初めての相手を中に入れるのはプライベートを晒すようで気恥ずかしい。

 とはいえ、決まったものは仕方がないと念のため最終確認を行うのだった。


「お嬢、操作の方は大丈夫か?」

「ええ、問題ありませんわ。操縦系統は他機と変わりませんもの。魔導コアの自動制御の感覚が量産型とはずいぶん変わりますので慣れるまで時間はかかりますが」

「一応量産型は俺の思考パターンががベースになってるはずだが、学習経験もゼロに近いし感情もないから差異があるだろうな。そのせいで俺は『扱いにくい機体』らしいが」

「私としては、貴方の方がスムーズに動いてくれて扱いやすいですわ」


 お嬢の動かし方は雑なエリサや、機敏すぎるアンに比べると、どことなく優雅で柔らかい感じがする。

 とはいえ、やはりお嬢の操作と俺の反応にはタイムラグがあり、エリサのように人機ほぼ一体というような完璧な動きはできない。

 まだ時間があるので、気になるところを聞いておくか。

 

「な、お嬢。これで思惑通りと言う訳か?」

「ええ、何の事ですの?」

「今の状況は狙っていたんじゃないかな、と思ってな」

「ええ、気付かれていましたの?厳密には狙った状況ではありませんけど」


 うわ、なんとなく当てずっぽうでテキトーなこと言っただけなのに、本当に裏があったのか。


「ありゃ、まじで?差し支え無ければ事情を聞きたい」

「全てを話し出すと長くなりますわ。ええ、さしあたって私にはあなたたちに危害を及ぼす意図はありませんこと……と言えば信用なさっていただけます?」


 おう、実はよく分かってないが話を合わせておくか。


「俺はお嬢を信頼しているよ」

「ええ、率直に言えば、私の今回の出撃の目的は三世代限定機と量産機の戦力差の見極めですわね。

 ですから、間近で実戦の様子を伺えるだけで良かったのですわ。自分で搭乗する状況はできすぎでしたわね」

「もしかして、ヤバイのがバックにいたりする?」


 そういや、お嬢の親戚の西部戦線司令官マーカス中将は貴族派閥の尖兵的存在じゃなかったっけ?


「差し向けたのは帝国軍内部の貴族派閥の元締め、ラギル大将の派閥ですわ。表向きは私もマーカス叔父様もその傘下という事になっていますわ」


 帝国軍において元帥位は名誉職とされ 現在の最高位は大将になる。

 現在該当者は3人でそれぞれに異なる派閥を率いている。


 貴族派閥の元締めで権力欲の強い、帝都防衛指揮官『麻呂型貴族伝統派』ラギル大将。

 穏健派で皇帝の信頼が厚い、帝国軍総司令管『揺るがない天秤』カオン大将。

 最も好戦的で古代魔術の使い手でもある、東部戦線指揮官『弁当支給より戦闘至急』ダナン大将。


「量産型第三世代機は従来機より高機能ではありますが、そこまでの力は持ちえませんでした。

 すなわち、量産型第三世代機はルインリミテッドに対抗できうる戦力にはなり得ないという事情ですわね。

 第三世代機改め貴方の力は一個大隊相当かそれ以上の力があります。それは単騎で戦局を決定づけるほどの影響力を持ちます。

 そして帝国内の貴族派は勢力を拡大するためにその戦力を欲しています」


 あー、なんか俺の知らない間に、話が大きくなってきてないかい?


「帝国貴族派の頂点はラギル大将で、貴族出身のマーカス中将や私は一応その派閥に属していることになっています。

 ……実を言いますと、本当は反貴族派に属しています。

 ええ、もう洗いざらい言ってしまえば私の本当のバックは穏健派である帝国軍総司令管カオン大将ですわね。ラギル大将の動向も含めて全てはカオン大将に報告する事になっていますの」


 さらっと爆弾発言すんなよ。


「なにそれ二重スパイだったんか。……それ機密事項じゃなくね?なぜここで言った?」

「ええ、せっかくですから。これから戦場を共にするのに委員長に不信感を持たれていてはパートナーシップに支障をきたしますわ。それに」


 お嬢はにっこりと微笑んで言った。


「私、あなたの事は信頼していますの」


 と、まだいろいろ言うべきことがあったのだが、そこにカリナから通信が入って中断させられる。


「あは、今回は敵を殲滅する必要は無いから無理して被害は出さないようにやね。相手は連戦で稼働限界が近い、コッチは満タン。時間さえ稼げればいいだけのお手軽な仕事やね」


 同時に魔導探知機が回復し、敵兵の反応が出る。

 どうしたんだと驚いているとチセから連絡が入った。


「くふ、敵さんの仕掛けた妨害機が稼働限界のようですよ。敵兵反応は12機、思ったより多いですね」

「あは、敵さん確認。これなら行ける、総員迎撃用意やね」


 カリナの指令が入り、俺たちはなし崩し的に交戦状態に陥った。

 可視範囲の敵機は6機、全て量産型ラレヤーだ。

 残りは例の迷彩装置で姿は見えないのだが、探知機で大まかな位置は把握できる。


「あは、ルウカ大尉は可視下の敵に突入白兵戦で足止め、他は射撃で援護。見えない敵に対しては探知機の反応を参考に撃ち込めやね」

「お嬢、端的に言うと単騎突入して暴れてこい、ってことだ」

「ええ、了解……って、そんな大雑把でいいんですの?」

「あの程度の数なら俺たちだけで十分、見えない奴は後衛を信じろ。何せ帝国軍のトップエースと天才が控えてるんだからな。あと奇人と変人」


「ほぅ、骨占いでは見えないないはごきぽいぽいだね」

「せんぱーい、離れていても心は一つッスよ」

「っと、お兄ちゃんのお尻は死守です」

「あは、こんなに排熱管理に気使うの初めてやね、ほんとめんどくさいやね」

「くふふ、今回の敵の謎装備、奪って分解して解析を……」


 俺の仲間たちは頼りになるぞ!

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