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危機のヨチョウ

 明けて翌朝。

 宿で簡単な朝食をとる3人を生暖かく見守る。


「いやー爽やかな朝ッス」

「っと、全快です。もう体調もバッチリです」


 山積みのパンやハム、サラダを前に機嫌の良いエリサとアン。

 お嬢もしっかりと食べているが、少々お疲れぎみだ。


「お嬢、大丈夫か?あまり寝れなかったんじゃないか?」

「ええ、騒音と暴力の二本差しで安眠できる状態ではありませんでしたわ」


 朝起きたら寝ぼけたアンに関節技をかけられていたしな。


「っと、わざとじゃないです」


 ハムをつまみながら、しれっと流すアン。

 じゃれあいながら朝食をとるうちに、お嬢の体調も回復したようだ。


 清算を済ませた後は、街をぶらついて部隊の仲間に土産を買ってから買い出し部隊に合流する。

 こうして休日が終わり、本陣で解散。

 明日から通常業務に戻るので朝は早い。


「ええ、ありがとうございましたわ。皆さんのおかげで有意義な時間が過ごせました、ごきげんようですわ」


 そう言って お嬢は宿舎ので割り当てられた部屋へと引き上げた。

 しばらくお互いに大隊本陣勤めになるで、仕事でもプライベートでも顔を合わす機会はあるだろう。


 お嬢は明日から安定感に定評のあるキーメルス少佐率いるスノーメイデン隊へと合流する。

 新機体の調整も無事に終わったらしく、いよいよ出陣と張り切っている。

 ようやく届いた新車に乗る気分だろう、テンション上がる野も無理はない。


 俺たちも任務再開だ。


 大隊宿舎は3~4人で一部屋の割り当てになる。

 エリサとアンは同室だが、他に同居人は居らずベッドは空いている。

 夜俺は平常時はトライクボディで部屋に持ち込まれ、緊急時はルイン・リミテッドで待機ということになった。


「いや、トライクで動くの面倒だし、どうせ朝まで意識落としておくだけなんだから、無理に部屋までもっていかなくてもいいんだけど」

「せーんぱいっ、言ってんッスか。自分らの仲じゃないッスか、遠慮は無しッスよ」

「っと、お兄ちゃんには私たちを安眠させる義務があります、強制連行です」


 強引に了承させられてしまった。

 このボディじゃハニングでアレコレとか全く期待できないし、俺にメリットが全く無いんだが。

 明日から早いんだし、今夜は無駄話は控えて早めに就寝してもらおう。


 そして翌日、俺はルイン・リミテッドに意識を移し替え、各部の確認、動作チェックを行う。

 久々の高い視線と巨大で小回りの利かないボディ。

 そして内部にエリサが乗り込み改良点を確かめる。


「ういッス、、問題無しッス、いつでも行けるッスよ」

「お、頼りになるな、相棒」

「くふふ、装甲の修復はもちろん、魔導機関の改良で魔力変換効率向上出力向上、燃費改善でさらに稼働時間増加しましたよ。試験機は高コストレアパーツ使い放題でやりがいがありますよ」


 チセが薄気味悪いほどに嬉しそうになってる。

 放熱性能も上がり、稼働限界が若干改善されたようだ。

 実戦データの積み重ねて、細かく改善を繰り返し俺の完成度は高まってゆく。

 これらの情報は後継機の開発に活用されるとのことだ。


「ほぅ、骨占いでは調子ヨカ、美容にヨガ、惨事のおやつはクリヨウカンだね」


 マシュロも言ってることはよく分からんが、調子は良いみたいだ。

 高性能機体エルバーンを与えられたアンは心配に及ばず、カリナも隊長として全体への指揮を執るという観点で見れば支援機への鞍替えも悪い選択肢ではないと言える。

 これでシルバーフォックス隊の戦力は万端と言えるだろう。


「あは、よかないやね」


 カリナだけは不満そうだ、あの噂のライブラスに。


「あは、火力はあるから支援機としてどうにか使えるかなって、そう思っていた時期が私にもありました。なんか、もう、ね、バランス悪いからすごく撃ちくいし、少し急速転回したらこけるから機動性に無理が利かないし、もうどないしろってやね」


 帝国で最も遅く薄く熱いライブラスは、実際に稼働してみるとカタログスペック以上にやっかいな機体のだった。

 しかし他に割り当てられる機体が無いから仕方ない、この人が予備機体壊さなければ……。


「あは、ストレス溜まるやね」

「くふふ、もう少し使い勝手が良くなるようにカスタムパーツを手配ですね」

「あは、それなら、まず肩の魔導砲取っ払って、腰の魔導銃取っ払って、放熱器増やして、装甲追加して、ホバージェット装備して、両腕は普通に武器が持てる手に……」

「カリナ隊長、それすでに原型とどめて無いッス」

「ほぅ、潔くないね。骨占いでもノーマルハナマルナントカナルだね」


 さすがに要求全部は飲めないが、ある程度は武装の積み替えをすると言うことで妥協した。

 実際のところ、カリナもただわがままを言っているのではない。

 先日の不在時に、アンが負傷した件に思うところがあったのだろう。

 戦力の増強は部隊の生存確率を上げ、負傷者の軽減に繋がるからだ。

 軍人である以上、リスクは避けられない、だがそれを可能な限り削るよう努力をする。

 まだ若く経験の浅い隊長は、与えられた枠組みの中で最善の努力をしようとする。

 

 そして数日が経ち、新体制の俺たちに出撃指令が下る。


「あは、指令やね。スノーメイデン隊が哨戒中に消息を絶った、私らの任務は捜索と救出やね」

「っと、どういった状況です?」


 カリナのいつになく真剣な表情に不穏な空気を感じ取る。

 つい先日一緒にお出かけしたルウカお嬢の所属部隊の危機とあって、エリサとアンも心配げな様子だ。

 

「昨日やね。スノーメイデン隊が国境付近の哨戒任務中、不審な魔導兵器の反応を探知、確認に向かった後、交戦があったようなんだけど、広範囲探知機から反応が消え定時連絡も途絶え、それ以降行方が分からなくなったやね」

「くふ、以前私たちが敵機の逃亡を防げなかった件を覚えていますか?どうやら皇国は魔導兵器の探知機への反応隠蔽に関してこちらを上回る技術を使えるようですね。

 一定範囲の広範囲探知機の無効、機体単体を完全に隠蔽する装置、何れも今までに無かった謎技術ですよ。今後に備えて可能であればこれらの情報も探りたいですよ」


 レーダーの無効化技術とか戦略的に致命傷を負いかねない要素だな。

 さすがにそんなものを一方的に使われる状況は放置することができない。

 それにお嬢に何かあったとあれば、俺たちも心穏やかではない。


「あは、まず優先するのはスノーメイデン隊の安否確認。特に量産型第三世代試作機は敵に鹵獲されるわけにはいかないので、必ず回収すること。そして敵部隊の確認、強力な戦力である第三世代試作機を含む部隊を無力化できるだけの戦力があることを前提に行動する。それと敵の使う新技術の情報を可能な限り集める事、やね」

「ういッス、お任せッス」

「っと、必ず助けるです」

「ほぅ、骨占いでは前方注意鼻毛はチョイだね」

 

 スノーメイデン隊率いるキーメルス少佐は安定感に定評のある男として知られている。

 彼が打ち倒されているなら、相当に手ごわい相手と言える。

 第三世代機への対抗手段があるか、若しくは同等以上の戦力が投入されているのか。

 なにより俺はお嬢の安否が方が気がかりだ。

 俺は芽生えた不安を押し隠すように、可能な限り迅速に出撃準備を始めた。 

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